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ペナント再開
意地
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中邑がマウンドで仁王立ちする。
エースナンバー18対スタープレイヤーの証でもある背番号3。
この対決を両軍の指揮者はベンチで見守る。
「ムヒョヒョヒョヒョヒョ!初球スローカーブとは、小手先のピッチングでごまかしてやがるぬーーーん!」
「小手先…いや、違う。彼はプロとはこういうもんなんだって事を教えてるような気がする」
「にゃんと!アレがプロのピッチングかぬ?
それなら、プロらしくストレートで勝負するのがフツーじゃないかぬ?」
プロの先輩なら、堂々とストレートを投げるもんだと小倉は言う。
「プロと言っても、色んなタイプがいます…中邑というピッチャーはストレートでグイグイ押すだけではなく、カーブ、スライダー、フォーク…どれをとっても一級品です。
棚橋にとって、この打席は大きな経験になりますよ」
翔田は棚橋に経験を積ませるつもりだ。
「にゃるほど、棚橋に必要なのは経験という事かぬ」
「えぇ、経験さえ積めば、もっと成長するでしょう」
棚橋は一旦打席を外し、2回3回と素振りをする。
フゥ~っと大きく息を吐いて再び打席に入った。
シンプルでスタンダードなフォームは、高校時代に研究を重ねて辿り着いた理想のフォームだ。
(次…これでいきましょう)
滝沢がサインを出す。
中邑は小さく頷き、ノーワインドアップから独特のスリークォーターで2球目を投げた。
153km/hのツーシームがインコース低めへ決まる。
「ストライクツー!」
一瞬ピクっと反応したが、打っても凡打になると思い、見送った。
(見送ったか…)
早くもツーストライクと追い込む。
(スライダー、もしくはフォークで打ち取りたいけど、ストライクからボールになるコースだし、かと言ってストライクゾーンでの変化球じゃ打たれてしまう)
滝沢はリードに苦心する。
(しょうがない、これでどうだ)
考えに考えた末のサインを出した。
中邑は上体を屈め、サインを覗き込む。
(この球か)
無表情のまま頷き、3球目を投げた。
スピンの効いたボールがインコースベルト付近へ。
(打つ!)
棚橋は腰の回転を上手く使い、腕を畳んでバットを出した。
「あっ…」
ストレートだと思った軌道はベース手前で鋭く縦に変化した。
バットが空を切る。
「ストライクアウト!」
「ぃよっし!」
今シーズンから中邑が投げる、132km/hの高速カーブで三振を喫した。
俗に言う、パワーカーブの一瞬だが、中邑の投げるカーブはナックルカーブの様な変化をする。
途中までストレートと同じ軌道だが、急激にブレーキが掛かり、変化は小さいが鋭く縦に割れる。
「ハァ~、何とかストライクゾーンで勝負出来たぞ…」
中邑は安堵の表情を浮かべる。
「フフ…さすがエース」
その様子を見て、櫻井は満足気な表情だ。
中邑はこれで勢いに乗り、6番アーロンをセカンドゴロに打ち取り2回の裏を終了した。
その後は両投手のピッチングが冴え、無得点のまま7回の表へ進む。
【1番レフト藤村】
この回先頭の藤村がコールされた。
第1打席は見逃しの三振。
第2打席はフルカウントからのストレートが外れてフォアボール。
「前の打席はスライダーを1球も投げなかったけど…この打席は投げてくるだろうな」
櫻井は予想する。
登坂の球種はストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップ。
150を超えるストレートとスライダーが軸になるが、それ以外の球種はあまり良くない。
キングダムバッテリーは藤村がスライダーを狙っているのは分かっている。
他の球種を投げればアウトに出来るのだが、試合は終盤に差し掛かっている。
スライダーから他の球種に狙いを変更している可能性が高いと見て、小室は今までと違う組み立てを考える。
(スライダーでカウントを取って、ストレートで勝負しよう)
登坂も同じ考えだ。
(初球スライダー…よし、分かった)
大きく頷き、初球を投げた。
狙い通りのスライダーがやや内側に入った。
(コレだっ!)
藤村はカンペキに捕らえた。
「ヤバっ…」
小室は声を上げた。
打った打球はグングンとライトへ伸びている。
登坂は打球を見ず、思わずグラブを叩きつけた。
会心の当たりはライトを守る稲葉の頭上を超え、スタンドに吸い込まれた。
「入った…」
「クッソ…まさか最後までスライダー狙いだったとは」
登坂はガックリと項垂れた。
藤村の第3号ソロでスカイウォーカーズがようやく1点を先制した。
「ヨシ…この試合もらった」
櫻井は勝利を確信した。
徹底したスライダー狙いを指示したのは、いくら自信がある球だとは言え、終盤になれば焦りと疲れでコントロールミスをするに違いないと読んだ。
力で押すタイプの登坂は制球力は良くない。
スライダーはストライクゾーンからボールになるコースへ投げないと効果が無い。
相手投手のウイニングショットを打ち砕いておけば、後々の対決も優位に持ち込める。
これで登坂は藤村に対して苦手意識を持ってしまった。
全ては櫻井の思惑通りになった。
これが決勝点となり、スカイウォーカーズは中邑からアクーニャ、最終回は降谷が3人で抑え、完封リレーで勝利。
中邑は7勝目をマーク。
降谷は12セーブでリーグトップとなった。
注目のルーキー棚橋は、中邑と3打席対戦して全てノーヒットと抑えられた。
「中邑くん、今日のピッチングは満点だよ…」
「あ、ありがとうございます…」
アイシングをしていた中邑の表情が綻ぶ。
「でも、棚橋くんは要注意だね…次に対決する時は細心の注意を払って投げないと。
スーパールーキーというだけあって、次回はアジャストしてくるハズ」
「はい…コッチも研究して挑みます」
今日は抑えた…だが、次は要注意だ。
この勝利がスカイウォーカーズの勢いに拍車をかけ、翌日は3対1、翌々日は4対2と三連勝でキングダムを下した。
エースナンバー18対スタープレイヤーの証でもある背番号3。
この対決を両軍の指揮者はベンチで見守る。
「ムヒョヒョヒョヒョヒョ!初球スローカーブとは、小手先のピッチングでごまかしてやがるぬーーーん!」
「小手先…いや、違う。彼はプロとはこういうもんなんだって事を教えてるような気がする」
「にゃんと!アレがプロのピッチングかぬ?
それなら、プロらしくストレートで勝負するのがフツーじゃないかぬ?」
プロの先輩なら、堂々とストレートを投げるもんだと小倉は言う。
「プロと言っても、色んなタイプがいます…中邑というピッチャーはストレートでグイグイ押すだけではなく、カーブ、スライダー、フォーク…どれをとっても一級品です。
棚橋にとって、この打席は大きな経験になりますよ」
翔田は棚橋に経験を積ませるつもりだ。
「にゃるほど、棚橋に必要なのは経験という事かぬ」
「えぇ、経験さえ積めば、もっと成長するでしょう」
棚橋は一旦打席を外し、2回3回と素振りをする。
フゥ~っと大きく息を吐いて再び打席に入った。
シンプルでスタンダードなフォームは、高校時代に研究を重ねて辿り着いた理想のフォームだ。
(次…これでいきましょう)
滝沢がサインを出す。
中邑は小さく頷き、ノーワインドアップから独特のスリークォーターで2球目を投げた。
153km/hのツーシームがインコース低めへ決まる。
「ストライクツー!」
一瞬ピクっと反応したが、打っても凡打になると思い、見送った。
(見送ったか…)
早くもツーストライクと追い込む。
(スライダー、もしくはフォークで打ち取りたいけど、ストライクからボールになるコースだし、かと言ってストライクゾーンでの変化球じゃ打たれてしまう)
滝沢はリードに苦心する。
(しょうがない、これでどうだ)
考えに考えた末のサインを出した。
中邑は上体を屈め、サインを覗き込む。
(この球か)
無表情のまま頷き、3球目を投げた。
スピンの効いたボールがインコースベルト付近へ。
(打つ!)
棚橋は腰の回転を上手く使い、腕を畳んでバットを出した。
「あっ…」
ストレートだと思った軌道はベース手前で鋭く縦に変化した。
バットが空を切る。
「ストライクアウト!」
「ぃよっし!」
今シーズンから中邑が投げる、132km/hの高速カーブで三振を喫した。
俗に言う、パワーカーブの一瞬だが、中邑の投げるカーブはナックルカーブの様な変化をする。
途中までストレートと同じ軌道だが、急激にブレーキが掛かり、変化は小さいが鋭く縦に割れる。
「ハァ~、何とかストライクゾーンで勝負出来たぞ…」
中邑は安堵の表情を浮かべる。
「フフ…さすがエース」
その様子を見て、櫻井は満足気な表情だ。
中邑はこれで勢いに乗り、6番アーロンをセカンドゴロに打ち取り2回の裏を終了した。
その後は両投手のピッチングが冴え、無得点のまま7回の表へ進む。
【1番レフト藤村】
この回先頭の藤村がコールされた。
第1打席は見逃しの三振。
第2打席はフルカウントからのストレートが外れてフォアボール。
「前の打席はスライダーを1球も投げなかったけど…この打席は投げてくるだろうな」
櫻井は予想する。
登坂の球種はストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップ。
150を超えるストレートとスライダーが軸になるが、それ以外の球種はあまり良くない。
キングダムバッテリーは藤村がスライダーを狙っているのは分かっている。
他の球種を投げればアウトに出来るのだが、試合は終盤に差し掛かっている。
スライダーから他の球種に狙いを変更している可能性が高いと見て、小室は今までと違う組み立てを考える。
(スライダーでカウントを取って、ストレートで勝負しよう)
登坂も同じ考えだ。
(初球スライダー…よし、分かった)
大きく頷き、初球を投げた。
狙い通りのスライダーがやや内側に入った。
(コレだっ!)
藤村はカンペキに捕らえた。
「ヤバっ…」
小室は声を上げた。
打った打球はグングンとライトへ伸びている。
登坂は打球を見ず、思わずグラブを叩きつけた。
会心の当たりはライトを守る稲葉の頭上を超え、スタンドに吸い込まれた。
「入った…」
「クッソ…まさか最後までスライダー狙いだったとは」
登坂はガックリと項垂れた。
藤村の第3号ソロでスカイウォーカーズがようやく1点を先制した。
「ヨシ…この試合もらった」
櫻井は勝利を確信した。
徹底したスライダー狙いを指示したのは、いくら自信がある球だとは言え、終盤になれば焦りと疲れでコントロールミスをするに違いないと読んだ。
力で押すタイプの登坂は制球力は良くない。
スライダーはストライクゾーンからボールになるコースへ投げないと効果が無い。
相手投手のウイニングショットを打ち砕いておけば、後々の対決も優位に持ち込める。
これで登坂は藤村に対して苦手意識を持ってしまった。
全ては櫻井の思惑通りになった。
これが決勝点となり、スカイウォーカーズは中邑からアクーニャ、最終回は降谷が3人で抑え、完封リレーで勝利。
中邑は7勝目をマーク。
降谷は12セーブでリーグトップとなった。
注目のルーキー棚橋は、中邑と3打席対戦して全てノーヒットと抑えられた。
「中邑くん、今日のピッチングは満点だよ…」
「あ、ありがとうございます…」
アイシングをしていた中邑の表情が綻ぶ。
「でも、棚橋くんは要注意だね…次に対決する時は細心の注意を払って投げないと。
スーパールーキーというだけあって、次回はアジャストしてくるハズ」
「はい…コッチも研究して挑みます」
今日は抑えた…だが、次は要注意だ。
この勝利がスカイウォーカーズの勢いに拍車をかけ、翌日は3対1、翌々日は4対2と三連勝でキングダムを下した。
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