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ミドル級トーナメント

秒殺

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あっという間の出来事だった。

1ラウンド1分3秒、コールマンの右ストレートがフライマンの顔面をとらえ、レフェリーは即座にゴングを要請。


たった1発のパンチで試合は呆気なく終了した。


「スゲーっ!!ワンパン(ワンパンチ)で終わっちまったぞ!」


ヒロトは興奮した口調で捲し立てる。


「カンペキに決まったな」


フライマンがタックルに入ろうとした瞬間、コールマンはサイドステップでかわし、カウンターで右ストレートを放った。


フライマンが倒れたと同時にレフェリーは間に入って試合をストップ。


フライマンはまだダウンしたままだ。


【ダメだ、担架だ!早く担架を用意するんだ!】


リングドクターが担架を要請する。


「カウンターでモロに食らったから、かなりのダメージなんだろうな」


「あぁ…何せ、コールマンはボクシングだけでも世界ランカー並のテクニックだしな」


会場内はあまりに早く試合が終わったせいで、観客からのブーイングが鳴り止まない。



「バカか、コイツら!真剣勝負なんだから、あっという間に試合が決まる事だってあるのに、それがイヤならプロレスの試合でも観てろっての!」


ヒロトはブーイングを飛ばす観客を見て吐き捨てる様に言った。



「真剣勝負って…それじゃ、プロレスは真剣勝負じゃないの?」


楓はキョトンとしながらヒロトに質問する。


「ん~、プロレスは何つーか、真剣勝負じゃないけど、真剣勝負なところもあるし…まぁ、ファンタジーな闘いみたいなモンかな、ハハッ」



「ふ~ん、私にはよく分からないや」



リング上では担架が運ばれ、フライマンは数人がかりで担架に乗せられ、リングを下りた。


勝者のコールマンは妻ジェニファーと抱き合い、熱い口づけを交わした。


「それにしても…何もリング上でアツアツぶりを見せつけなくてもいいのに」


「そこが日本人と違うところだろ」


「そうだけどさぁ、リング上でしかも、何万もの観客の前で奥さんとキスするかね、フツー」


「そうかなぁ、私は羨ましいと思うけどなぁ」


楓はああいうラブラブな感じがいいのか。



勝利者賞の盾と表彰を受け取り、観客に手を振ってコールマンはリングを下りた。


メインイベントが終了した。


この後はロイヤルリングサイド、つまりオレたちVIP席の観客は試合を終えた選手達と一緒にレセプションと称した打ち上げに参加出来る。


ヒロトは試合よりもレセプションの方が楽しみだと言う。


「選手と記念撮影撮れるし、サインだって貰えるじゃん!」

 
「そんな事より、選手に迷惑かけるなよ!」


「大丈夫だよ、まず手始めにコールマンからサイン貰おうかな」


「おい、止めとけって」


そんな事はお構い無しに、ヒロトは会場の隅で談笑しているコールマンにサインをねだった。


コールマンはイヤな顔せず、サラサラとサインを書いてヒロトに渡した。


「やった!センキュー、ミスターコールマン!」

大はしゃぎでヒロトは戻ってきた。


「おい、あんまりデカい声出すなよ!」


「いいじゃねぇかよ、せっかくのレセプションなんだし」


すると、カズがこちらへやって来た。


「相変わらずだな、ヒロトは」


「おぉ、カズ!今日はセコンドだったけど、次の試合はいつだよ」


「そうだよ、再起戦楽しみにしてるぜぇ」


「まだ決まってないけど、いつでも試合できる状態だよ」


大晦日の試合でカズは眼窩底骨折という大怪我を負った。


今は怪我も癒えて、練習を再開している。


「凄かったな、水嶋のカーフキックは」


「ぶっちゃけ、あのカーフキック2発でKOしたようなモンだからな」


「そうだね、彼もあのキックを試合前から狙っていたし」


シウバの足狙いだったワケか。


「ところで、シウバのセコンドはリョースケの兄貴だって聞いたけど…リョースケ、あんなハーフみたいな兄貴いたんだ?」


「う、うん…まぁ、色々あって、な…」


経緯を説明するのが面倒で、テキトーにはぐらかした。


そう言えば、兄はどこだろう?


オレは会場を見渡した。


それらしき姿は無い。


もしかしたら、既に会場を後にしたのだろうか。



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