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第二章 彼女
古賀くんとなら、付き合ってもいいよ…
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カラオケボックスの部屋が個室の居酒屋と化していた。
気がつけば6時間一曲も歌わず、延長延長の繰り返しで、その間に注文したのはビール、梅酒、ウーロンハイ、ハイボールにレモンサワー等々…何杯飲んだか覚えてないぐらいだ。
かなり飲んだが、全く酔わない。
「あぁ~、こんなに飲んだの久しぶりかも~」
楓は満足そうな表情を浮かべ、余韻に浸っていた。
飲んで食べて笑って、二人だけの宴会場となった。
「あ、もう6時過ぎてるけど大丈夫なの、帰らなくて?」
オレは部屋にある時計を見た。
入ったのが昼間で、今は6時を回っている。
「えぇ、もうそんな時間?んー、この時間に帰ったらちょうど夕飯の時間かぁ。
これだけ飲んだから、お腹いっぱいで食べられないしなぁ~」
楓は名残惜しそうな感じだ。
「そうか、帰る頃には夕飯か…オレもこれだけ飲んだからなぁ」
この後沈黙が続いた。この間がドキドキする…
何か言わなきゃ。
でも何て言えばいいのやら。
楓も黙ったまま、その先は何も言ってこない。
どうする、どうしよう?…どうすりゃいいんだ?
早くこの沈黙の時間を何とかしないと。
オレはテンパっていた。
「あ、あのさ…
ここだと延長ばっかで金かかるし、どうせなら居酒屋で飲み直さない?…ほら、もうこの時間なら営業してるしさ」
少し声が上ずってしまった…
どうもこの間がイヤだ。
「あ、そうだよね!
ここだと部屋の料金も取られるし、居酒屋なら何時間いても飲んで食べた料金だけ払えばいいしね。
じゃあ居酒屋へ行こう~っ!
ここまで私にお酒で付き合ってくれるの古賀くんだけだしね」
見た目は清楚でお酒飲んだらすぐに真っ赤になって酔ってしまいそうなイメージだが、これだけ飲んでもまだ飲めるっていうんだから、合コン相手の男達もタジタジだろうな。
「よし、じゃあとりあえずここ出て、すぐ近くに居酒屋あるからそこに行こう」
「うん、行こう行こう~。今日はとことん飲もうね~」
上機嫌でオレたちは部屋を出て、フロントで会計をした。
「18653円になります」
…えっ?何この金額?オレはバッグの中の財布を取り出した。
やべっ!8000円と小銭しか無い…
カウンターにはクレジットカードを使える表示がしてあった。
「あの、カードで」
オレは財布からクレジットカードを出して精算して店を出た。
「…古賀くん、これ」
「ん?」
楓が財布から数千円出して渡そうとしたが、オレは受け取らなかった。
「いいよ、払わなくて」
「えぇ、だってあんなに飲んで食べて払わないなんて悪いよ~…」
次の居酒屋に行く前にコンビニのATMで少しお金を下ろさないと…
「大丈夫だよ、気にする事無いってば!それよか、ホントにこれから居酒屋行くけど、時間大丈夫なの?」
オレは金の事より楓の帰りが遅くなる事の方が気になる。
楓も実家から通ってるし、門限もあるだろう。
おまけに酒の匂いをプンプンさせながら帰ったら、親に何か言われるんじゃないかって、その事が気がかりだ。
「うん、大丈夫。今お母さんに今日は夕飯いらないってLINE送ったから」
ホントに大丈夫なんだろうか…
「じゃ、あんまり遅くならないようにしないと。気がついたら、終電間に合わなくなった、なんてならないようにさ」
終電逃したらどうしよう…?
ふと思った。
「だってもうハタチなんだし、子供じゃないから時間なんて気にしなくていいよ~。
古賀くんこそ大丈夫なの?」
少し上目遣いでオレをジッと見つめてきた。
あぁ、この表情可愛いなぁ~。
「えっ…オ、オレ?オレのウチに門限なんてあるワケないし、ましてやハタチになった男に門限だなんて、何か過保護過ぎじゃん?」
多分今ごろは夕飯が出来上がってオレの帰りを待ってるだろう。
というより、オレの肉棒を待ってると言った方が正しいか…
あぁ、ダメだ!楓の前でそんな事を考えちゃ!
外はすっかり暗くなり、駅前の繁華街はこれからが営業の始まりという店が多い。
少し風が冷たいけど酒のせいか、楓と一緒にいるせいか、少し火照った顔を冷ますにはちょうどいい。
カラオケボックスから少し歩いたビルの五階にチェーン店の居酒屋を見つけた。
入口で店員が呼び込んでいる。
だが、オレは居酒屋に行く前にコンビニに寄ってATMでお金を下ろさなければならない。
「あ、入る前にちょっとコンビニ寄っていい?」
隣で肩が触れあう程の距離で一緒に歩いている。
「えっ、コンビニ?何するの?」
そう言えば、この辺りコンビニあったっけ?
オレは周囲を見渡したがコンビニは無かった。
確か駅の反対側じゃないとコンビニは無いはずだ。
面倒臭いな、そこまで行くのが。
「古賀くん、もしかしてコンビニのATMでお金引き出すんじゃないの?」
さっき財布の中身を見られたかも…楓はオレの財布の事を心配している。
「…あぁ、いや。
うん、今少し足りないかなぁって思って…
悪いんだけど、駅の反対側にしかコンビニが無いから先に店に入って待っててくれるかな?」
一緒に付いてきてくれ、なんて言えないしな。
「いいよ~、お金なんて下ろさなくて。次は私が奢るから」
いや、男が女子に支払いをさせるワケにはいかない。
「いや、及川は払わなくていいよ。オレ、すぐに戻ってくるから、先に入ってなよ。
外は寒いから、中で先に一杯飲んでていいよ」
「良くないよ、それじゃ古賀くんがかなりお金使うでしょ?何だか申し訳なくて…」
金の事なら心配しなくてもいいんだが…
楓はオレの懐事情を気にして表情を曇らせた。どうしようか…
「じゃ、今度及川が払ってよ。それかもしくはオレと付き合ってくれればいいや、アハハハハ!」
…あ、つい軽いノリで変な事口走ってしまった…
バカかオレは?もしかして酔ってるのか?
「…」
うわ~っ…また沈黙だ。
楓はずっと下を向いたまま、黙っている。
余計な事言うから楓が返答に困ってるじゃないか、何てオレはバカなんだろ…
「…いいよ」
……………えっ?
今、いいよって聞こえたような…
「私、古賀くんとなら付き合ってもいいよ…」
楓が恥ずかしそうに下を向いて、ボソッと呟いた。
「あ、え?…あ、あの。じゃああダッシュでコンビニに行くから中で待ってて!」
オレは物凄い速さで階段を駆け上がり、ラッシュアワー時の駅の通路で素早く人を避けながら走って反対側のコンビニに入り、三万円を下ろした。
嬉しさのあまり、オレは舞い上がって今までこんなに速く走ったのは初めてじゃないだろうか、というぐらい速かった。
その金をポケットに突っ込み、ダッシュでまた来た階段を駆け上がった。
やったぞ!!
オレに彼女が出来た!
…ついにこの瞬間がやってきた!
オレの春が到来した…
気がつけば6時間一曲も歌わず、延長延長の繰り返しで、その間に注文したのはビール、梅酒、ウーロンハイ、ハイボールにレモンサワー等々…何杯飲んだか覚えてないぐらいだ。
かなり飲んだが、全く酔わない。
「あぁ~、こんなに飲んだの久しぶりかも~」
楓は満足そうな表情を浮かべ、余韻に浸っていた。
飲んで食べて笑って、二人だけの宴会場となった。
「あ、もう6時過ぎてるけど大丈夫なの、帰らなくて?」
オレは部屋にある時計を見た。
入ったのが昼間で、今は6時を回っている。
「えぇ、もうそんな時間?んー、この時間に帰ったらちょうど夕飯の時間かぁ。
これだけ飲んだから、お腹いっぱいで食べられないしなぁ~」
楓は名残惜しそうな感じだ。
「そうか、帰る頃には夕飯か…オレもこれだけ飲んだからなぁ」
この後沈黙が続いた。この間がドキドキする…
何か言わなきゃ。
でも何て言えばいいのやら。
楓も黙ったまま、その先は何も言ってこない。
どうする、どうしよう?…どうすりゃいいんだ?
早くこの沈黙の時間を何とかしないと。
オレはテンパっていた。
「あ、あのさ…
ここだと延長ばっかで金かかるし、どうせなら居酒屋で飲み直さない?…ほら、もうこの時間なら営業してるしさ」
少し声が上ずってしまった…
どうもこの間がイヤだ。
「あ、そうだよね!
ここだと部屋の料金も取られるし、居酒屋なら何時間いても飲んで食べた料金だけ払えばいいしね。
じゃあ居酒屋へ行こう~っ!
ここまで私にお酒で付き合ってくれるの古賀くんだけだしね」
見た目は清楚でお酒飲んだらすぐに真っ赤になって酔ってしまいそうなイメージだが、これだけ飲んでもまだ飲めるっていうんだから、合コン相手の男達もタジタジだろうな。
「よし、じゃあとりあえずここ出て、すぐ近くに居酒屋あるからそこに行こう」
「うん、行こう行こう~。今日はとことん飲もうね~」
上機嫌でオレたちは部屋を出て、フロントで会計をした。
「18653円になります」
…えっ?何この金額?オレはバッグの中の財布を取り出した。
やべっ!8000円と小銭しか無い…
カウンターにはクレジットカードを使える表示がしてあった。
「あの、カードで」
オレは財布からクレジットカードを出して精算して店を出た。
「…古賀くん、これ」
「ん?」
楓が財布から数千円出して渡そうとしたが、オレは受け取らなかった。
「いいよ、払わなくて」
「えぇ、だってあんなに飲んで食べて払わないなんて悪いよ~…」
次の居酒屋に行く前にコンビニのATMで少しお金を下ろさないと…
「大丈夫だよ、気にする事無いってば!それよか、ホントにこれから居酒屋行くけど、時間大丈夫なの?」
オレは金の事より楓の帰りが遅くなる事の方が気になる。
楓も実家から通ってるし、門限もあるだろう。
おまけに酒の匂いをプンプンさせながら帰ったら、親に何か言われるんじゃないかって、その事が気がかりだ。
「うん、大丈夫。今お母さんに今日は夕飯いらないってLINE送ったから」
ホントに大丈夫なんだろうか…
「じゃ、あんまり遅くならないようにしないと。気がついたら、終電間に合わなくなった、なんてならないようにさ」
終電逃したらどうしよう…?
ふと思った。
「だってもうハタチなんだし、子供じゃないから時間なんて気にしなくていいよ~。
古賀くんこそ大丈夫なの?」
少し上目遣いでオレをジッと見つめてきた。
あぁ、この表情可愛いなぁ~。
「えっ…オ、オレ?オレのウチに門限なんてあるワケないし、ましてやハタチになった男に門限だなんて、何か過保護過ぎじゃん?」
多分今ごろは夕飯が出来上がってオレの帰りを待ってるだろう。
というより、オレの肉棒を待ってると言った方が正しいか…
あぁ、ダメだ!楓の前でそんな事を考えちゃ!
外はすっかり暗くなり、駅前の繁華街はこれからが営業の始まりという店が多い。
少し風が冷たいけど酒のせいか、楓と一緒にいるせいか、少し火照った顔を冷ますにはちょうどいい。
カラオケボックスから少し歩いたビルの五階にチェーン店の居酒屋を見つけた。
入口で店員が呼び込んでいる。
だが、オレは居酒屋に行く前にコンビニに寄ってATMでお金を下ろさなければならない。
「あ、入る前にちょっとコンビニ寄っていい?」
隣で肩が触れあう程の距離で一緒に歩いている。
「えっ、コンビニ?何するの?」
そう言えば、この辺りコンビニあったっけ?
オレは周囲を見渡したがコンビニは無かった。
確か駅の反対側じゃないとコンビニは無いはずだ。
面倒臭いな、そこまで行くのが。
「古賀くん、もしかしてコンビニのATMでお金引き出すんじゃないの?」
さっき財布の中身を見られたかも…楓はオレの財布の事を心配している。
「…あぁ、いや。
うん、今少し足りないかなぁって思って…
悪いんだけど、駅の反対側にしかコンビニが無いから先に店に入って待っててくれるかな?」
一緒に付いてきてくれ、なんて言えないしな。
「いいよ~、お金なんて下ろさなくて。次は私が奢るから」
いや、男が女子に支払いをさせるワケにはいかない。
「いや、及川は払わなくていいよ。オレ、すぐに戻ってくるから、先に入ってなよ。
外は寒いから、中で先に一杯飲んでていいよ」
「良くないよ、それじゃ古賀くんがかなりお金使うでしょ?何だか申し訳なくて…」
金の事なら心配しなくてもいいんだが…
楓はオレの懐事情を気にして表情を曇らせた。どうしようか…
「じゃ、今度及川が払ってよ。それかもしくはオレと付き合ってくれればいいや、アハハハハ!」
…あ、つい軽いノリで変な事口走ってしまった…
バカかオレは?もしかして酔ってるのか?
「…」
うわ~っ…また沈黙だ。
楓はずっと下を向いたまま、黙っている。
余計な事言うから楓が返答に困ってるじゃないか、何てオレはバカなんだろ…
「…いいよ」
……………えっ?
今、いいよって聞こえたような…
「私、古賀くんとなら付き合ってもいいよ…」
楓が恥ずかしそうに下を向いて、ボソッと呟いた。
「あ、え?…あ、あの。じゃああダッシュでコンビニに行くから中で待ってて!」
オレは物凄い速さで階段を駆け上がり、ラッシュアワー時の駅の通路で素早く人を避けながら走って反対側のコンビニに入り、三万円を下ろした。
嬉しさのあまり、オレは舞い上がって今までこんなに速く走ったのは初めてじゃないだろうか、というぐらい速かった。
その金をポケットに突っ込み、ダッシュでまた来た階段を駆け上がった。
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