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第二章 彼女

ドタキャン

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その日はずっとドキドキしていた。

講義を受けても、食堂で昼飯を食っても浮かんでくるのは楓の事ばかり。

「…リョースケ!おい、リョースケ!」

オレはボーッとしていた。

「何さっきからボーッとしてんだよ?何かあんのか?」

オレは食堂で定食を食べていたが、夕方楓と会って告白する事で頭がいっぱいだった。

ドキドキが止まらない…

飯を食う気にもならない。

「ヒロト、この残り食っていいよ。オレ何か食欲無いゎ」

定食にちょこっと箸をつけただけで残りはヒロトに食ってもらおうと思った。

「オレは残飯係かよっ!でもまぁ捨てるのも勿体ないからな」

そう言ってヒロトはオレの定食に箸をつけた。

「オレ、戻るゎ」

席を立って食堂を出た。

それにしてもよく食うな、アイツは…

食ってる時が一番の幸せなんだろうな。



時計を見ると正午を過ぎたばかりだ。

夕方までまだ数時間ある。
オレは一人外に出て、自販機の脇にあるベンチに腰掛け、ホットのミルクティーを飲んでいた。

どうやって言えばいいか…

居酒屋で待ち合わせしたけど、客がいる店内で告白するのか?

…いや、それはとても恥ずかしい!

じゃあ、帰り際に言うか?

頭の中がゴチャゴチャになってどうしたらいいのか分からない。

上を見上げ、はぁ~っ、と深いため息をついた。
もし楓が「NO」と言ったらどうする?

「古賀くんとは恋人じゃなく、お友達でいたいの、ゴメンね」

そんな答えが返ってきたらどうしよう…

そうなったら、この先会うのは気まずいだろうなぁ。

フラれた事も考えておかなきゃな。
勝手に恋だと決めてるのはオレだし、楓に好きな人がいるのかもしれない。


いや、弱気になるな!
好きという気持ちを伝えなきゃ。


オレはポケットからスマホを取り出し、楓にLINEを送った内容をもう一度見ていた。

見ていて恥ずかしくなった…
もっと気の利いた誘い方にすれば良かったのだろうか?


刻一刻と時間は過ぎていく。



いつまで経っても告白せずに、彼女か友達か分からない関係を続けているうちに、楓は他の男に取られてしまうかもしれない。

それだけはイヤだ、絶対にイヤだ。

再び時計に目をやった。

そろそろ講義の始まる時間だ。
オレは校舎に入って午後の講義を受けた…だが頭には全く入ってこない。

教授が何を言おうが、何を書こうが相変わらず上の空だ。

おまけに時間が経つにつれ、心臓がバクバクしてきた。

ヤバい…

皆こうやって恋愛してきたんだろうなぁ…

考えただけでしんどくなり、いつしかオレは寝てしまった…

恋愛ってこんなにもエネルギーを使うものなのか…





講義の終わり間際、楓からLINEがきた。


【ゴメンねm(__)m今日スッカリ合コンがあるのを忘れてて、さっき思い出したの…ホントにゴメンね】

…えぇ~っ?合コン?

「…マジかよ?!」

オレは思わず声を上げてしまった。

周りの人達が一斉にオレを見た。

合コンある日を忘れるか、フツー?

…もしかして口実かも。

オレと会うのがイヤだから断る為に合コンと言ったのかもしれない。

そう思ったら急に虚しくなった…

さっきまであれこれ頭の中でシミュレーションしていたオレはバカか?

【合コンあるの?じゃまた次の機会で】

シカトするワケにはいかないから、一応返事した。

すぐに既読の表示が付いたが、返信が無い。

こりゃ、フラれたかもな…

学校を出て、重い足取りで家に帰った。

「おかえり、ん?どうしたの?」

母親はオレの冴えない表情を見てそう言った。

ったく…何でいつもいつも裸みたいな格好してんだよ!
部屋をウロウロしている母親にイラッとした。


「もう、いい加減服着たらどうなんだよ!いくら部屋の中だからって、そんな格好でウロウロすんなよ、みっともない!」

オレは母親に八つ当たりするように怒鳴り、自分の部屋にこもった。

「はぁ~、フラれたかもな…」

オレはスマホを床にポイっと放り投げ、ベッドで仰向けになった。

何なんだ一体?

勝手に盛り上がって、受かれてドキドキして、挙げ句にドタキャンって…

もう疲れた…

オレはその日、夕飯を食べずに翌朝まで寝た。

目が覚めて、昨日の事を思い出した。

学校行きたく無い…

オレは初めてズル休みをした。

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