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第二章 彼女

こうなりゃ、飲もう!

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カラオケボックスで2時間歌いまくった。

楓は少し舌足らずな声だが、歌う時はキーが高い声も出るし、ビブラートを効かせてかなり上手い。

結構歌い慣れてる感じだ。

オレはカラオケボックスにあまり行った事が無いせいか、最初のうちは音程を外しまくり、楓に笑われたが、徐々に慣れ、歌いこなせるようになった。

何せ二人しかいないから、交互に歌っているうちに、歌う曲が無くなり、いつしか歌よりも会話がメインになっていった。

「あっついよね~、歌うと結構カロリー消費するみたいだし」

楓はパーカーを脱いだ。
インナーはサイケデリックな模様のTシャツで、首を手でパタパタさせながら、額にはうっすらと汗が滲んでいた。

「オレもスゲーよ、汗が。何で歌うのにこんなに汗出るんだろ」

オレはロゴの入った黒のTシャツを着ていたが、脇が汗で濡れていた。

この個室はオレたちの歌と熱気で温度が上昇している。

「すごく喉渇くよね」

楓は氷の入ったブラックのアイスコーヒーをストローで飲んで、フゥーっと軽く息を吐いた。

「及川ってブラック飲めるんだ?オレ、どうもコーヒーはミルクとガムシロが無いと飲めないよ」

オレはコーラをストローを使わずそのままグラスで飲んで、小さな氷を食べていた。

「そう?あたしコーヒーを飲む時はいつもブラックなんだ。」

そう言うと少し笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「何か…サボるなんてちょっとドキドキしちゃうよね?私、今まで一度も学校なんてサボった事ないから、少し罪悪感感じるっていうか…他の人達は今講義受けてるのに私たちだけここへ来て思いっきり歌ってるって。
でも、たまにはいいよね?」

楓は笑顔が似合う。

よく、花の例えるならヒマワリのような笑顔、と表現する文を目にするが、成る程、確かにヒマワリみたいだ。

明るくて愛嬌があって、清楚な雰囲気も漂う。


そしていつも履いてるニーハイ。
美脚な楓はいつもニーハイにミニスカートというコーディネートだ。

この美脚に愛嬌ある顔…

やや童顔に見えるのは、独特な声と体型に比べ、やや丸顔な感じだからなのだろうか。

小柄でいわゆる【ザ・女子】と言うべきか。

「古賀くん、中学の時と比べると随分カッコ良くなったんじゃない?」

…え?カッコ良い?

「…」

オレは楓の思いがけない言葉に何も言えず、顔がカァーっと紅潮しているのが自分でも分かる程恥ずかしくなった。
カッコイイなんて言われたの初めてだ…

及川だって可愛いよ…

ホントはそう言うべきだ。

だが…何故かその一言が言えない。
自分がもどかしい。

楓は話を続けた。

「私、女子高だったから、この大学に入った時、絶対に彼氏見つけて楽しい女子大生をしようって思って、合コンとか最初のうちは積極的に出てたんだけど、何て言うのかな…
皆一緒に見えて、何だか疲れちゃってね…
実は来週も合コンの予定があるんだけど、もういいかなぁって。
だって毎回同じ事なんだもん。
お酒飲んで、どこに住んでるの?彼氏いるの?
何が趣味なの?って、そんな事ばかり聞いてきて、飽きてきちゃった」

合コンねぇ。
オレはまだ一度も無いけどね。

「ふーん、だったら今日みたいにバックレちゃえば?」

オレは素っ気なく楓に言った。

オレなんか一度も誘われた事無い。

「そっかぁ、今日みたいにサボっちゃえばいいのか。
合コン断ると、後が面倒なんだけど…」

楓は下を向いてストローで氷が溶けて水と化したアイスコーヒーを飲んでいる。

「面倒ってのは?」

色々あるみたいだ。

「合コン断ると、何で何で?予定あるの?無いなら行こうよ~とか、じゃ、もう楓は誘わないから!とか言われそうだし」

…オレ女子じゃなくて良かった。

そんな事でそれまでの仲が壊れるんだ?

確かに面倒臭い話だ。

「オレよくわかんねえんだけど」

頭をポリポリ掻きながら自分の思った事を言ってみた。

「たかが合コンでしょ?それ断ってシカト食らうの?
それに毎回同じメンバーって事は、毎回合コンに失敗してるって事なんじゃないかな。
あ、気を悪くしたらゴメン。
でもさぁ、何度も合コンして、相手が見つからないってのは、その合コン相手だけじゃなく、及川達の方にも何かあるから、いつまで経っても見つからないんじゃないかな?
…あの、これ決して悪口じゃなく、オレまだ合コンてした事無いんだよ。
でも、そう頻繁に合コンばっかやって、誰も彼氏が出来ないんでしょ?
それって何か変だなぁって思ってね。
まぁ、オレなんか合コンすら誘われた事無いし、誰もオレみたいなヤツを合コンに誘わないだろうけどね」

フォローになってないな、これじゃ…

楓はまだ下を向いている。

沈黙が続く…この間が嫌だ。

もしかして怒ってるのだろう?

すると楓は顔をこちらに向け、真顔でオレに聞いてきた。

「…古賀くんお酒飲める?」

「え?」

「だから、お酒飲んだ事ある?」

「そりゃ、まぁハタチだし…」

「じゃあ、今から飲もうよ、ね?」

ニコッと満面の笑みを浮かべた。

まぁ、ビール一杯ぐらいならいいかな。

オレはメニューを見て何か食べる物も注文しようと探していた。

「あ、唐揚げある。唐揚げなんかどう?」

「唐揚げさっきお弁当に入ってたじゃん!アッハハハハ、古賀くん面白~い!」

オレはバカか…さっき食ったばかりだろ。
それが楓のツボに入ったらしく、腹を抱えて笑っている。

「じゃあ、とりあえず酒だけ頼んで、また後でメニュー見て決めればいいか」

そう言ってオレは室内の受話器を取ってビールを2つ注文した。

一杯だけのつもりだったが、オレも楓も結構飲んでしまった。
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