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第二章 彼女
邂逅
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大会終了後、VIP席の観客は試合会場に隣接している小アリーナで選手や関係者を含め数百人が集って催されるレセプションと称した打ち上げに参加できる。
おじさんはメインの試合後、急に席を立ち、ちょっと急用が出来たから後は楽しんでいってくれ、と言い残し足早にVIP専用の出口へ去っていった。
残されたオレたちはレセプションに参加して色んな選手を間近で見て、ツーショット写真を撮ったり、サインを貰ったりしてご満悦だった。
カズも参加し、小久保さんも交えて高校時代の思い出話に花を咲かせていた。
あの試合は凄かったなぁ、とかヒロトやカズと話し、大いに賑わってレセプションは終了した。
結局おじさんはレセプションにも参加せずにどこかへ行ってしまったので、オレとヒロトは電車に乗って帰った。
それにしてもカズは随分と変わった。
今日の試合の勝利でまたKINGDOMからオファーがあるだろう。
関係者達もカズの鮮やかな一本勝ちを称え、今後の日本格闘界を担う存在になってくれ、と激励された。
どんどん遠い存在になってしまったなぁカズは…
オレもカズの様に何かで注目を浴びたいもんだ。
そんな事を思っていた時、自宅のマンション前に黒の高級な車が停まっていた。
このドイツ車はおじさんの車だ。
急用ってまさか母親との用事?
その割には何かせわしなく立ち去ったけど、母親との間にトラブルでもあったのだろうか…
おじさんと母親は愛人関係だという事は幼い頃から知っている。
もしかしたら、今ベッドで母親とおじさんが一糸まとわぬ格好で淫らな行為に及んでいるとか…
何だか変な胸騒ぎがした。
オレは踵を返し、来た道を戻った。
行くアテも無いが、おじさんが帰るまでどこかで時間でも潰そう、そう思い駅前の繁華街をブラブラしていた。
――――千尋と沢渡の視点―――――
丁度その頃、沢渡と千尋はリビングでお互い無言のまま、深刻な表情を浮かべていた。
沢渡は今日観戦していた総合格闘技のメインの試合の事を思い出していた。
沢渡がメインの試合でサントスのセコンドに付いていた長身のセコンドを見て、思わず席から立ち上がった。
(あれは達也くんじゃないか?)
何故達也がセコンドに…
【Não quebre o guarda!(ガードを崩すな!)】
【Ataque de forma mais agressiva!(もっとアグレッシブに攻めろ!)】
ポルトガル語でリングサイドからアドバイスを送っていたが、あれは間違いなく達也だ。
沢渡は思いがけない場で達也を目撃した。
(間違いない、あの顔と声は達也くんだ!)
「おじさん、おじさん!」
亮輔の声でハッと我に返った。
「おじさん、急に立ち上がってどうしたんですか?」
亮輔の問いかけに沢渡は一瞬言葉に詰まった。
(あのセコンドについてる人が兄の達也だと今言うべきか否か)
沢渡は迷っていた。
せっかくの観戦中にその事を言っていいものかどうか…
(とりあえず今はまだ何も言わないでおこう)
沢渡は試合よりも、リング下でサントスにアドバイスを送る達也に釘付けになっていた。
確か最後に会ったのは中学を卒業してすぐの頃だった。
あれから10年近く経つ。
沢渡は確かめてみようと思い、試合終了と同時に席を立ち、一足先に控え室前で達也が来るのを待っていた。
おじさんはメインの試合後、急に席を立ち、ちょっと急用が出来たから後は楽しんでいってくれ、と言い残し足早にVIP専用の出口へ去っていった。
残されたオレたちはレセプションに参加して色んな選手を間近で見て、ツーショット写真を撮ったり、サインを貰ったりしてご満悦だった。
カズも参加し、小久保さんも交えて高校時代の思い出話に花を咲かせていた。
あの試合は凄かったなぁ、とかヒロトやカズと話し、大いに賑わってレセプションは終了した。
結局おじさんはレセプションにも参加せずにどこかへ行ってしまったので、オレとヒロトは電車に乗って帰った。
それにしてもカズは随分と変わった。
今日の試合の勝利でまたKINGDOMからオファーがあるだろう。
関係者達もカズの鮮やかな一本勝ちを称え、今後の日本格闘界を担う存在になってくれ、と激励された。
どんどん遠い存在になってしまったなぁカズは…
オレもカズの様に何かで注目を浴びたいもんだ。
そんな事を思っていた時、自宅のマンション前に黒の高級な車が停まっていた。
このドイツ車はおじさんの車だ。
急用ってまさか母親との用事?
その割には何かせわしなく立ち去ったけど、母親との間にトラブルでもあったのだろうか…
おじさんと母親は愛人関係だという事は幼い頃から知っている。
もしかしたら、今ベッドで母親とおじさんが一糸まとわぬ格好で淫らな行為に及んでいるとか…
何だか変な胸騒ぎがした。
オレは踵を返し、来た道を戻った。
行くアテも無いが、おじさんが帰るまでどこかで時間でも潰そう、そう思い駅前の繁華街をブラブラしていた。
――――千尋と沢渡の視点―――――
丁度その頃、沢渡と千尋はリビングでお互い無言のまま、深刻な表情を浮かべていた。
沢渡は今日観戦していた総合格闘技のメインの試合の事を思い出していた。
沢渡がメインの試合でサントスのセコンドに付いていた長身のセコンドを見て、思わず席から立ち上がった。
(あれは達也くんじゃないか?)
何故達也がセコンドに…
【Não quebre o guarda!(ガードを崩すな!)】
【Ataque de forma mais agressiva!(もっとアグレッシブに攻めろ!)】
ポルトガル語でリングサイドからアドバイスを送っていたが、あれは間違いなく達也だ。
沢渡は思いがけない場で達也を目撃した。
(間違いない、あの顔と声は達也くんだ!)
「おじさん、おじさん!」
亮輔の声でハッと我に返った。
「おじさん、急に立ち上がってどうしたんですか?」
亮輔の問いかけに沢渡は一瞬言葉に詰まった。
(あのセコンドについてる人が兄の達也だと今言うべきか否か)
沢渡は迷っていた。
せっかくの観戦中にその事を言っていいものかどうか…
(とりあえず今はまだ何も言わないでおこう)
沢渡は試合よりも、リング下でサントスにアドバイスを送る達也に釘付けになっていた。
確か最後に会ったのは中学を卒業してすぐの頃だった。
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