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トレード

サラバ、二刀流

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売り言葉に買い言葉で、浅野監督は急遽マウンドに翔田を送り出した。


「いいか、翔田!あのクソ生意気なメジャー帰りを完膚なきまでに叩きのめせ!」


浅野監督の気迫に気圧され、翔田はたじろぐ。


「は、はい…」


「井上!何ボサッとしてんだ、さっさと守備につけ!」


「は…はいっ!」


釈然としないまま、井上はセンターの守備についた。


打席の財前は不敵な笑みを浮かべる。


「ヘヘッ、あんなピッチャーの球打ったところで、弱いものいじめだと思われるのも何だしな…
オメーが相手ならば、遠慮なくスタンドに叩き込んでやるぜ」






「キングダムの監督ともあろう人物が、あれしきの事で目くじら立てるなっつ~の」


三塁側ベンチでは、かつてのチームメイトでもある榊が呆れた表情を浮かべる。



「財前くんは打てますかね…」


「ヒロト、お前はどう思う?」


櫻井に聞いてみた。


「うーん…どうでしょうかね?
今の翔田くんの調子じゃ、財前くんにやや分があるような気もするんですけどね」


「いや~どうかな…
オレは翔田が抑えると思うけどな」


「ヨシ、じゃあオレは財前に1万だ!」


横から中田が入って、一万円札をバン!と叩きつけた。


「ほ~、中ちゃんがそうくるなら、オレもこの勝負乗った!」


榊もポケットから一万円札を出して、ベンチの上に置いた。



「ちょっ…何やってんですか!事もあろうに、試合中賭け事するなんて、こんな事がバレたら、球界追放ですよ!」


高峰が慌てふためく。


「んなもん、黙ってりゃいいんだよ!」


「そういう事、こうすりゃ試合も面白く観戦出来るじゃねぇか」


試合そっちのけで賭け事に興じる。


「何バカな事言ってるんすか!
これがバレたら没収試合どころの騒ぎじゃないですよ!」


「お前は気にし過ぎなんだよ!」


「何なら、お前も賭けてみるか?」



「な…」


開いた口が塞がらない…



そんな不穏なベンチはさておき、翔田の投球練習が終わり、プレイ再開となった。



「何投げてくるんだ、スーパースター様よ。
どうせ打たれるんだから、敬遠した方がいいんじゃないのか?」


相変わらず財前は毒づく言葉を投げかける。


「メジャー帰りだか何だか知らないけど、あの人は日本の野球をナメすぎだ」


翔田の目が徐々に真剣な顔つきに代わっている。




翔田はノーワインドアップから渾身の球を投げた。



凄まじい速さのボールが、丸藤の構えた先にドシーン!

と決まった。


「おーおー、速ぇなさすが」



「ストライクっ!」


球速は158km/hと表示された。


「フーン、確かに速ぇな…球のノビ、キレ共に申し分無い。
やるねぇ、さすが球界を代表するエースだ」


余裕の表情で分析する。


「だが、オレには通用しないぜ」


そしてニヤッと笑った。


「さっきからうるせぇヤツだな…お前じゃ、翔田の球は打てないんだから、大人しく三振してろっつーの!」


丸藤がバカにしたような口調で言う。


「テメーこそ大人しくしてろよ、カベのくせに」



カベとは、ブルペン捕手の事を意味する。


「んだと、テメー!」


丸藤がカチンときた。


だが財前はお構い無しに続ける。


「サインも出さねえキャッチャーがエラそうに話し掛けてんじゃねぇよ。
何が正捕手だ、テメーはただ黙って球を受けてりゃいいんだよ、この半人前が」


「ふざけんな、コノヤローっ!」


丸藤が立ち上がった瞬間、主審が注意する。


「いい加減にしろ!これ以上騒ぎを大きくすると退場にするぞっ!」


「…っ、クソ」


丸藤は再度座った。


「お前と一緒に退場なんて、冗談じゃねぇ。
オレはアイツの球を打たなきゃなんないからな」


丸藤の方に顔を向けず、一人言の様に呟く。


(クソっ、何としてでもコイツを抑えたい!しかもオレのリードで…)


カベとまで言われて、黙って引き下がるワケにはいかない。


丸藤は自らサインを出した。


翔田はそれを見て首を振り、再度自らサインを出した。


だが丸藤は頑としてサインを引っ込めない。


互いのサインに首を振り、一歩も引かない。


遂には折れた感じで翔田が頷いた。


その二球目はインコースから低めに落ちるスライダー。

翔田のウイニングショットでもある。


だが、財前はこれを上手くすくい上げた。


快音を響かせ、打球はセンター方向へグングン伸びる。


「あのヤロー、まさかあの球読んでたのか?」


打球はセンターバックスクリーンのプールに飛び込んだ。



「打たれた…しかも、決め球のスライダーを!」


まさか、自分の出したサインを読んでいたとは。


丸藤はガックリと項垂れた。


二塁ベースを回った際、財前は翔田に向かって話をした。


「よぉ、二刀流!お前がサインを出せばこんな事にはならなかったのになぁ!」


「何っ!」


翔田は財前の方を振り向く。


「あんなカベが出すサインなんて、たかが知れてるだろ?
そもそも配球の組み立てが全くなってないんだよ!」


財前は丸藤の出すサインを読んでいた。


オレにおちょくられて、決め球でもある縦のスライダーを要求するだろうと。


案の定、丸藤は縦のスライダーを要求して財前は見事スタンドに叩き込んだ。


その財前は今ホームイン。


スカイウォーカーズが初回で3点を先制した。


「分かったか、お前のリードなんざ、幼稚園児でも簡単に読めるんだよ。
いつまでアイツに頼りっぱなしなんだ、えぇ?」


丸藤を見下ろすように言い放つ。


「クソっ…」


丸藤は何も言えない。


「お前らはオレたちには絶対勝てない…
何故なら、お前らはアイツに二刀流をいつまでもやらせておくからだ」


「何だって?」


丸藤が顔を上げた。


「アイツの二刀流なんざ、ちっとも怖くねえんだよ」


「怖くない…?」


「ま、後はお前ら次第だけどな」


財前はそう言うとベンチに戻った。


二刀流は通用しない…吉川と同じことを言われた。


もう翔田は二刀流を止めるべきなのか。
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