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新団体設立
ステロイドに冒された過去
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実のところを言えば、カイザー大和にコミッショナーの事を話したが、これ以上彼に関わりたくないというのが本音だ。
あの人が絡むとろくな事が無い。
体よくコミッショナーの話をして、彼はその言葉の通り、TMNの名誉会長を降りて、人脈の広さを利用して、コミッショナーを作ろうと躍起になっていた。
これでいいと思う。
あの人はもっとスケールの大きい事をやるのが似合う。
どの団体のどんなレスラーなのかサッパリ分からないような連中が増えた今、改めてプロレスラーというはどういう人物が相応しいか、自身の目で判断して、そぐわないヤツらはレスラーを名乗る資格を与えないように厳しくジャッジして欲しい。
佐藤さんや山田さんも、実際のところはカイザー大和がTMNを離脱したのを喜んでいるに違いない。
だが一つ大きな問題が起こった。
会長のカイザー大和がTMNを抜けた事により、彼が獲得したスポンサーも同時にTMNから手を引いた事だ。
バブルのように何億もかけて造った道場や、事務所、そして特注のオクタゴンのリングや選手へのファイトマネー等々、とてもスポンサー無しには維持出来ないし、興行をうつことさえ、困難な状況になった。
新たにスポンサーを獲得するため、社長の佐藤さんや専務の山田さんが奔走して探し回ったが、中々プロレス団体のスポンサーになるという企業は見つからない。
WFEとは完全に袂を分かった関係ではないが、結局はWWAの時のオーナーがTMNをWFEの傘下として運営するという事で話はついた。
だが、かなりのコストダウンも強いられた。
まずは道場をWFEと兼用に使用する事、新事務所を建てたばかりだが、そこを引き払い、WFEの事務所と兼用に使う事、そして何よりも選手に払ったファイトマネーの減額、これが一番大きかった。
旗揚げ戦に参加したオリンピックの金メダリスト達は、当初のギャラよりも低い額を提示され、これでは話が違う!と激怒し、交渉は決裂に終わり、旗揚げ戦だけ参戦して、TMNのリングに上がる事は事実上不可能となった。
次回の開催は月末に行われる関西での大きなホールで収容人数は1万5千人程の規模だが、それ以降は大きな会場で試合を行う事は許されず、小規模の会場で試合数を増やし、何とか存続するという方針に従う事になった。
もしかしたら、オレがTMNに大打撃を与えたのかも知れない…
だが、オレはこれでいいと思った。
元々はWWAがエンタメ路線と格闘技路線に分けて運営するというスタイルだったワケで、暫くの間はキツいだろうが、何とか凌いでいくしかない。
オレは一介のレスラー、試合で観客を熱狂させるのが使命だ。
だが大晦日に行った旗揚げ戦で負った胸骨のヒビが完治せず、試合を行う事となった。
大人しく休んでいればいいものの、じっとしていられなくなり、せめて下半身のトレーニングだけはやろうと思い、却って逆効果となり、胸骨のヒビはくっつかないままとなり、当日を迎えた。
唯一の救いは、今日の試合のルールは打撃無しのキャッチレスリングだという事だけだ。
これがもし、総合や立ち技ルールだったら、オレは1ラウンド以内でドクターストップ、もしくはKO敗けを喫するだろう。
打撃無しのスタイルならば、なんとか相手と互角に渡り合える、そんな気持ちだけで試合に出た。
マクダエルは全米のグレコローマンスタイルの王者で、その後AAWからスカウトされ、プロレスラーの道を歩んだ。
俺様キャラで、観客を罵倒し、ブーイングを浴びながら、相手を完膚なきまでに叩きのめすスタイルで、AAWのトップに上り詰めた実力者だ。
AAW離脱後は、総合ファイターに転向し、圧倒的な強さで総合の試合も連戦連勝という強者で、ヘビー級チャンピオンとのタイトルマッチでは、僅差の判定で敗れたものの、プロレスラーが総合でも十分通用するという証明をした選手でもある。
188㌢106㌔とオレとほぼ同じであるが、上半身は鍛えに鍛えぬかれた身体で、まるで鎧に覆われたかのような筋肉で、パワーもかなりある。
必殺のジャーマンとパワーボム、そして相手の顔面を極め、両足で腕をロックして締め上げる【ネオオモプラッタ】という複合技でギブアップを奪う必殺技でAAWのチャンピオンにまでのしあがってきた。
オモプラッタとは、柔術の技でポルトガル語で肩甲骨の事を言う。
足で相手の肩を極め、フェイスロックで締め上げる拷問技だ。
総合の試合では、ガードポジションの体勢から三角締めを狙った時、ガードされて極められない場合、足を外側から肩付近に絡めて、そのまま絡めた腕の腋の下から自分の体を相手のガードポジションから回転するように脱出しつつ、相手の腕を背中側から取る技である。
マクダエルが総合の試合でオモプラッタを使用した時にヒントを得たらしい。
マクダエルはAAWチャンピオンの頃、アナボリックステロイドを使用し、身体を大きくした。
マクダエルに限らず、多くのアメリカンレスラーはステロイドを使用する。
その結果、副作用として、肝障害、肝臓癌、前立腺癌、高コレステロール血症、高血圧症、心筋梗塞、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、性腺刺激ホルモン分泌低下性性機能低下症、体液性免疫異常、ニキビ、筋断裂、毛髪の消失や、鬱状態や苛立ち、不眠症といった心身共に悪影響を及ぼし、最悪の場合は命を絶つ事すらある。
マクダエルは不眠症や身体中の痛みに悩まされ、痛み止めの薬、睡眠導入剤を服用しながらもステロイドを続け、ボロボロの身体になり、廃人同然のようになり、AAWを離脱。
ステロイドを絶つ為に病院や施設で懸命のリハビリを続け、奇跡的に再起した。
現在はプロレスラーの傍ら、自身の過去を踏まえての、ステロイドの危険性を訴え、ステロイド撲滅セミナーを地元のシカゴで定期的に開催している。
手っ取り早く身体を大きくするにはステロイドが一番だ。
だが、その副作用は想像を絶するもので、若くして心不全や、鬱状態で自ら命を絶ったレスラーもいた。
マクダエルの現在の肉体は、AAW時代の頃と変わらず、ヘラクレスのような筋肉の塊だが、ストイックなまでの食事制限やトレーニングで本物の肉体を手に入れた。
AAW史上最高のレスラーと謳われたマクダエル相手にキャッチレスリングをする。
果たして手負いの状態でオレは勝てるのだろうか…
あの人が絡むとろくな事が無い。
体よくコミッショナーの話をして、彼はその言葉の通り、TMNの名誉会長を降りて、人脈の広さを利用して、コミッショナーを作ろうと躍起になっていた。
これでいいと思う。
あの人はもっとスケールの大きい事をやるのが似合う。
どの団体のどんなレスラーなのかサッパリ分からないような連中が増えた今、改めてプロレスラーというはどういう人物が相応しいか、自身の目で判断して、そぐわないヤツらはレスラーを名乗る資格を与えないように厳しくジャッジして欲しい。
佐藤さんや山田さんも、実際のところはカイザー大和がTMNを離脱したのを喜んでいるに違いない。
だが一つ大きな問題が起こった。
会長のカイザー大和がTMNを抜けた事により、彼が獲得したスポンサーも同時にTMNから手を引いた事だ。
バブルのように何億もかけて造った道場や、事務所、そして特注のオクタゴンのリングや選手へのファイトマネー等々、とてもスポンサー無しには維持出来ないし、興行をうつことさえ、困難な状況になった。
新たにスポンサーを獲得するため、社長の佐藤さんや専務の山田さんが奔走して探し回ったが、中々プロレス団体のスポンサーになるという企業は見つからない。
WFEとは完全に袂を分かった関係ではないが、結局はWWAの時のオーナーがTMNをWFEの傘下として運営するという事で話はついた。
だが、かなりのコストダウンも強いられた。
まずは道場をWFEと兼用に使用する事、新事務所を建てたばかりだが、そこを引き払い、WFEの事務所と兼用に使う事、そして何よりも選手に払ったファイトマネーの減額、これが一番大きかった。
旗揚げ戦に参加したオリンピックの金メダリスト達は、当初のギャラよりも低い額を提示され、これでは話が違う!と激怒し、交渉は決裂に終わり、旗揚げ戦だけ参戦して、TMNのリングに上がる事は事実上不可能となった。
次回の開催は月末に行われる関西での大きなホールで収容人数は1万5千人程の規模だが、それ以降は大きな会場で試合を行う事は許されず、小規模の会場で試合数を増やし、何とか存続するという方針に従う事になった。
もしかしたら、オレがTMNに大打撃を与えたのかも知れない…
だが、オレはこれでいいと思った。
元々はWWAがエンタメ路線と格闘技路線に分けて運営するというスタイルだったワケで、暫くの間はキツいだろうが、何とか凌いでいくしかない。
オレは一介のレスラー、試合で観客を熱狂させるのが使命だ。
だが大晦日に行った旗揚げ戦で負った胸骨のヒビが完治せず、試合を行う事となった。
大人しく休んでいればいいものの、じっとしていられなくなり、せめて下半身のトレーニングだけはやろうと思い、却って逆効果となり、胸骨のヒビはくっつかないままとなり、当日を迎えた。
唯一の救いは、今日の試合のルールは打撃無しのキャッチレスリングだという事だけだ。
これがもし、総合や立ち技ルールだったら、オレは1ラウンド以内でドクターストップ、もしくはKO敗けを喫するだろう。
打撃無しのスタイルならば、なんとか相手と互角に渡り合える、そんな気持ちだけで試合に出た。
マクダエルは全米のグレコローマンスタイルの王者で、その後AAWからスカウトされ、プロレスラーの道を歩んだ。
俺様キャラで、観客を罵倒し、ブーイングを浴びながら、相手を完膚なきまでに叩きのめすスタイルで、AAWのトップに上り詰めた実力者だ。
AAW離脱後は、総合ファイターに転向し、圧倒的な強さで総合の試合も連戦連勝という強者で、ヘビー級チャンピオンとのタイトルマッチでは、僅差の判定で敗れたものの、プロレスラーが総合でも十分通用するという証明をした選手でもある。
188㌢106㌔とオレとほぼ同じであるが、上半身は鍛えに鍛えぬかれた身体で、まるで鎧に覆われたかのような筋肉で、パワーもかなりある。
必殺のジャーマンとパワーボム、そして相手の顔面を極め、両足で腕をロックして締め上げる【ネオオモプラッタ】という複合技でギブアップを奪う必殺技でAAWのチャンピオンにまでのしあがってきた。
オモプラッタとは、柔術の技でポルトガル語で肩甲骨の事を言う。
足で相手の肩を極め、フェイスロックで締め上げる拷問技だ。
総合の試合では、ガードポジションの体勢から三角締めを狙った時、ガードされて極められない場合、足を外側から肩付近に絡めて、そのまま絡めた腕の腋の下から自分の体を相手のガードポジションから回転するように脱出しつつ、相手の腕を背中側から取る技である。
マクダエルが総合の試合でオモプラッタを使用した時にヒントを得たらしい。
マクダエルはAAWチャンピオンの頃、アナボリックステロイドを使用し、身体を大きくした。
マクダエルに限らず、多くのアメリカンレスラーはステロイドを使用する。
その結果、副作用として、肝障害、肝臓癌、前立腺癌、高コレステロール血症、高血圧症、心筋梗塞、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、性腺刺激ホルモン分泌低下性性機能低下症、体液性免疫異常、ニキビ、筋断裂、毛髪の消失や、鬱状態や苛立ち、不眠症といった心身共に悪影響を及ぼし、最悪の場合は命を絶つ事すらある。
マクダエルは不眠症や身体中の痛みに悩まされ、痛み止めの薬、睡眠導入剤を服用しながらもステロイドを続け、ボロボロの身体になり、廃人同然のようになり、AAWを離脱。
ステロイドを絶つ為に病院や施設で懸命のリハビリを続け、奇跡的に再起した。
現在はプロレスラーの傍ら、自身の過去を踏まえての、ステロイドの危険性を訴え、ステロイド撲滅セミナーを地元のシカゴで定期的に開催している。
手っ取り早く身体を大きくするにはステロイドが一番だ。
だが、その副作用は想像を絶するもので、若くして心不全や、鬱状態で自ら命を絶ったレスラーもいた。
マクダエルの現在の肉体は、AAW時代の頃と変わらず、ヘラクレスのような筋肉の塊だが、ストイックなまでの食事制限やトレーニングで本物の肉体を手に入れた。
AAW史上最高のレスラーと謳われたマクダエル相手にキャッチレスリングをする。
果たして手負いの状態でオレは勝てるのだろうか…
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