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新団体設立
もうシュートはやりたくない…
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バキバキっという音がし、ギガンテスは
「ウグァ~ッ!!」
と声を上げ、悶絶した。
ギガンテスの右膝が壊れた…
ヒールホールドとは、踵を脇でロックして、膝を左右にひねるという技の性格と人間の膝関節の構造上、筋力による抵抗がほとんどできず、技が決まると一瞬にして膝関節の靭帯や半月板等を破壊するため、危険である。
もう、これで終わりだろう、オレはレフェリーの財前にアピールした。
「もう、コイツの膝は壊れてる!財前、これ以上試合を続けるのは無理だ!」
財前は苦痛に顔を歪めたギガンテスに
「ギガンテス、ストップ!レフェリーストップだ!」
ゴングを要請しようとしたが、ギガンテスは財前の足にしがみつき、首を左右に振った。
「NOッ!Never Giveupッ!」
ギガンテスはレフェリーストップで試合を終わらす事を拒んだ。
セコンドに陣取るレスラー達も、もう無理だ、試合を終わらせろ!という声が上がった。
「I'm Never Giveup!」
ギガンテスはしきりにギブアップはしていない、試合は続けろ、と叫ぶ。
もう、ギガンテスは立てない、オレはヒールホールドを解いた。
膝を押さえ、激痛に耐えながらギガンテスはそれでも立ち上がろうとする。
「ギガンテスはまだ続ける気だ!神宮寺コーナーに下がってろ、ダウンカウントを取る!」
オレはコーナーに下がり、財前はダウンカウントを取る。
「ワン、ツー、スリー、フォー…」
リングアナウンサーがマイクで財前のカウントに合わせカウントを取る。
必死の形相でギガンテスがロープに捕まりながら立ち上がろうとする。
もう右足は使えない、どんなに鍛えても、膝という箇所は鍛える事が出来ない。
ニーパッドを着用しても、膝を左右に捻られたらひとたまりもない。
これが関節技の恐ろしさだ。
オレもギガンテスにやられたダメージが蓄積され、全身に激痛が走る。
体重差が70㌔近くある巨漢のパンチを食らわないようガードしたが、両腕に激痛が走る。
ガードごと吹き飛ばすかのようなパンチの連打で腕に力が入らない…
「セブン、エイト、ナイン…」
カウント10ギリギリでギガンテスは立ち上がった。
ウォーっと場内が沸き上がり、興奮のるつぼと化した。
いつしか神宮寺コールとギガンテスコールが交差し、観客のボルテージはマックスに達した。
ギガンテスは右足を引きずるようにしてリングの中央へ歩み寄った。
財前もレフェリーを買って出た手前、下手なレフェリングは出来ない。
もう、こうなったらどっちが最後までリングに立っているか白黒ハッキリさせるしかない。
オレも肚を括った。
どっちが倒れるまで、とことんやるしかない!
残り僅かな体力を振り絞り、リングの中央で対峙した。
ギガンテスは先程と同じように大振りのパンチを繰り出す。
だが、右足が使えない状態でのパンチは手打ちだけで威力は半減する。
とは言え、2メートルを越え、170㌔を越える巨体から繰り出すパンチだ、手打ちだけでも十分な破壊力だ。
オレは足を使って距離を置いた。
ギガンテスは中央でパンチを振り回すだけでオレの動きについていけない。
フットワークを使い、少しでもダメージの回復を図った。
この時、オレの脳裡に去来したのは、往年のレスラー達の名言だった。
(ホウキを相手にプロレスが出来る)
(相手がワルツを踊ればワルツを踊り、タンゴを踊ればタンゴを踊る)
(シュートを越えたものがプロレスだ)
(相手の力を9まで引き出し、10の力で勝つ)
オレはまだプロレスというものがかつての名レスラー達の境地まで達していない。
だが、プロレスとは一体何なのか?
答えはまだ分からない、だが如何にしてリングの上で輝き、観客を熱狂させる闘いを見せるのがプロレスだと思う。
オレなりのプロレスを今ここで見せるだけだ…
オレは足を止め、構えをムエタイのような脇を少し開け、両腕のガードを高く上げたまま、前方に出した。
一瞬の速さでギガンテスの懐に潜り込み、足を引きずっていたせいで、若干体勢が前屈みになっていた顔面目掛け、突き上げるように頭突きを叩き込んだ。
額がギガンテスの鼻っ柱にめり込んだ。
これはイギリスから帰国する前に立ち寄ったミャンマーの格闘技、ラウェイの技のうちの一つだ。
ラウェイとは、素手にバンテージを巻いただけのムエタイで、頭突きもOK、故意でなければ金的攻撃も認められている、最も危険な格闘技として注目を浴びている。
オレはラウェイに興味を持ち、帰国する前にどうしてもミャンマーで本場のラウェイを見たいが為に、わざと帰国する日にちを延期した。
僅かな滞在日数だったが、オレはラウェイを学びにジムで基本的な動きを教わった。
中でも一番印象に残った技がこの頭突きだった。
プロレスにもヘッドバットという頭突き攻撃はあるが、モーションの大きいプロレス式ではなく、ノーモーションで一瞬にして相手の顔面にヒットさせる頭突きのやり方を伝授してもらった。
このラウェイ式の頭突きでギガンテスは顔面を押さえ、膝をついた。
チャンスだ、オレはイギリスでキャッチレスリングとコマンドサンボを学んだ時に編み出した必殺技を繰り出した。
【ガツッ!】
ギガンテスの左側頭部に右の手首付近の腕を振り抜いた。
コマンドサンボでマスターした、ロシアンフックの応用で、肩を内側に回し、横からヒットさせるラリアットを放った。
ロシアンフックは拳を裏拳のようにしてスイングするパンチだが、プロレス流にオレがラリアットに改良した必殺技だ。
巨木が崩れ落ちるかのようにギガンテスはダウンした。
だが、まだこれで終ったとは言えない。
完全にノックアウトさせるまでオレは攻撃の手を緩めない。
ダウンしたギガンテスを引きずり起こし、右腕を後ろに回し、右手で手首を掴み、ギガンテスの右脇に左腕を差し、ギガンテスの首を抱えるように組んで、後方に素早く低空に投げた!
ギガンテスは右肩からモロにマットに叩き付けられ、バキッと肩が外れた音がした…
ロイズ・カーウィンから伝授された変形のフロントスープレックス、しかも受け身の取れない危険な角度で投げた。
もう、これで終わりだ!
財前がギガンテスの様子をチェックした。
ギガンテスはピクリとも動かない。
財前は即座にゴングを要請した。
【カンカンカンカン!】
ワァーっと歓声が上がり、ギガンテスを完全KOで下した。
【ただいまの試合、21分56秒、ノックアウトで神宮寺直人選手の勝利です!】
リングアナウンサーのコールで財前がオレの腕を高々と上げた。
「お前、段々とプロレスからかけ離れていくみたいだな…」
財前がボソッと呟いた。
「もう、こんな潰し合いの試合なんかしたくねえ…オレはプロレスをやりたいんだよ」
勝ち名乗りを上げたが、蓄積されたダメージでオレはその場で糸の切れた操り人形のようにガクッと崩れ落ちた。
勝つには勝ったが、またしても後味の悪い結末の試合だった。
イギリスに修行する前の試合もそうだが、帰国しての第一戦もシュートだ。
…もうシュートはやりたくない。
相手を潰す為にプロレスをやってるんじゃない。
だが、仕掛けられたら身を守る為にやむ無くシュートをせざるを得ない。
せめてもの救いはオープンフィンガーグローブを着用したが、顔面パンチを打たなかった事だけだ。
状況によってはパンチで応戦しようと思ったが、プロレスラーはグローブを付けて顔面を殴るなんて事はしない。
もう、こんな物は必要の無い、従来のプロレスをしたい…
だが、オレの気持ちとは裏腹に誰もオレの事をプロレスラーとして呼ばずに、シュートレスラー神宮寺直人という余計な肩書きが付きまとってしまった…
「ウグァ~ッ!!」
と声を上げ、悶絶した。
ギガンテスの右膝が壊れた…
ヒールホールドとは、踵を脇でロックして、膝を左右にひねるという技の性格と人間の膝関節の構造上、筋力による抵抗がほとんどできず、技が決まると一瞬にして膝関節の靭帯や半月板等を破壊するため、危険である。
もう、これで終わりだろう、オレはレフェリーの財前にアピールした。
「もう、コイツの膝は壊れてる!財前、これ以上試合を続けるのは無理だ!」
財前は苦痛に顔を歪めたギガンテスに
「ギガンテス、ストップ!レフェリーストップだ!」
ゴングを要請しようとしたが、ギガンテスは財前の足にしがみつき、首を左右に振った。
「NOッ!Never Giveupッ!」
ギガンテスはレフェリーストップで試合を終わらす事を拒んだ。
セコンドに陣取るレスラー達も、もう無理だ、試合を終わらせろ!という声が上がった。
「I'm Never Giveup!」
ギガンテスはしきりにギブアップはしていない、試合は続けろ、と叫ぶ。
もう、ギガンテスは立てない、オレはヒールホールドを解いた。
膝を押さえ、激痛に耐えながらギガンテスはそれでも立ち上がろうとする。
「ギガンテスはまだ続ける気だ!神宮寺コーナーに下がってろ、ダウンカウントを取る!」
オレはコーナーに下がり、財前はダウンカウントを取る。
「ワン、ツー、スリー、フォー…」
リングアナウンサーがマイクで財前のカウントに合わせカウントを取る。
必死の形相でギガンテスがロープに捕まりながら立ち上がろうとする。
もう右足は使えない、どんなに鍛えても、膝という箇所は鍛える事が出来ない。
ニーパッドを着用しても、膝を左右に捻られたらひとたまりもない。
これが関節技の恐ろしさだ。
オレもギガンテスにやられたダメージが蓄積され、全身に激痛が走る。
体重差が70㌔近くある巨漢のパンチを食らわないようガードしたが、両腕に激痛が走る。
ガードごと吹き飛ばすかのようなパンチの連打で腕に力が入らない…
「セブン、エイト、ナイン…」
カウント10ギリギリでギガンテスは立ち上がった。
ウォーっと場内が沸き上がり、興奮のるつぼと化した。
いつしか神宮寺コールとギガンテスコールが交差し、観客のボルテージはマックスに達した。
ギガンテスは右足を引きずるようにしてリングの中央へ歩み寄った。
財前もレフェリーを買って出た手前、下手なレフェリングは出来ない。
もう、こうなったらどっちが最後までリングに立っているか白黒ハッキリさせるしかない。
オレも肚を括った。
どっちが倒れるまで、とことんやるしかない!
残り僅かな体力を振り絞り、リングの中央で対峙した。
ギガンテスは先程と同じように大振りのパンチを繰り出す。
だが、右足が使えない状態でのパンチは手打ちだけで威力は半減する。
とは言え、2メートルを越え、170㌔を越える巨体から繰り出すパンチだ、手打ちだけでも十分な破壊力だ。
オレは足を使って距離を置いた。
ギガンテスは中央でパンチを振り回すだけでオレの動きについていけない。
フットワークを使い、少しでもダメージの回復を図った。
この時、オレの脳裡に去来したのは、往年のレスラー達の名言だった。
(ホウキを相手にプロレスが出来る)
(相手がワルツを踊ればワルツを踊り、タンゴを踊ればタンゴを踊る)
(シュートを越えたものがプロレスだ)
(相手の力を9まで引き出し、10の力で勝つ)
オレはまだプロレスというものがかつての名レスラー達の境地まで達していない。
だが、プロレスとは一体何なのか?
答えはまだ分からない、だが如何にしてリングの上で輝き、観客を熱狂させる闘いを見せるのがプロレスだと思う。
オレなりのプロレスを今ここで見せるだけだ…
オレは足を止め、構えをムエタイのような脇を少し開け、両腕のガードを高く上げたまま、前方に出した。
一瞬の速さでギガンテスの懐に潜り込み、足を引きずっていたせいで、若干体勢が前屈みになっていた顔面目掛け、突き上げるように頭突きを叩き込んだ。
額がギガンテスの鼻っ柱にめり込んだ。
これはイギリスから帰国する前に立ち寄ったミャンマーの格闘技、ラウェイの技のうちの一つだ。
ラウェイとは、素手にバンテージを巻いただけのムエタイで、頭突きもOK、故意でなければ金的攻撃も認められている、最も危険な格闘技として注目を浴びている。
オレはラウェイに興味を持ち、帰国する前にどうしてもミャンマーで本場のラウェイを見たいが為に、わざと帰国する日にちを延期した。
僅かな滞在日数だったが、オレはラウェイを学びにジムで基本的な動きを教わった。
中でも一番印象に残った技がこの頭突きだった。
プロレスにもヘッドバットという頭突き攻撃はあるが、モーションの大きいプロレス式ではなく、ノーモーションで一瞬にして相手の顔面にヒットさせる頭突きのやり方を伝授してもらった。
このラウェイ式の頭突きでギガンテスは顔面を押さえ、膝をついた。
チャンスだ、オレはイギリスでキャッチレスリングとコマンドサンボを学んだ時に編み出した必殺技を繰り出した。
【ガツッ!】
ギガンテスの左側頭部に右の手首付近の腕を振り抜いた。
コマンドサンボでマスターした、ロシアンフックの応用で、肩を内側に回し、横からヒットさせるラリアットを放った。
ロシアンフックは拳を裏拳のようにしてスイングするパンチだが、プロレス流にオレがラリアットに改良した必殺技だ。
巨木が崩れ落ちるかのようにギガンテスはダウンした。
だが、まだこれで終ったとは言えない。
完全にノックアウトさせるまでオレは攻撃の手を緩めない。
ダウンしたギガンテスを引きずり起こし、右腕を後ろに回し、右手で手首を掴み、ギガンテスの右脇に左腕を差し、ギガンテスの首を抱えるように組んで、後方に素早く低空に投げた!
ギガンテスは右肩からモロにマットに叩き付けられ、バキッと肩が外れた音がした…
ロイズ・カーウィンから伝授された変形のフロントスープレックス、しかも受け身の取れない危険な角度で投げた。
もう、これで終わりだ!
財前がギガンテスの様子をチェックした。
ギガンテスはピクリとも動かない。
財前は即座にゴングを要請した。
【カンカンカンカン!】
ワァーっと歓声が上がり、ギガンテスを完全KOで下した。
【ただいまの試合、21分56秒、ノックアウトで神宮寺直人選手の勝利です!】
リングアナウンサーのコールで財前がオレの腕を高々と上げた。
「お前、段々とプロレスからかけ離れていくみたいだな…」
財前がボソッと呟いた。
「もう、こんな潰し合いの試合なんかしたくねえ…オレはプロレスをやりたいんだよ」
勝ち名乗りを上げたが、蓄積されたダメージでオレはその場で糸の切れた操り人形のようにガクッと崩れ落ちた。
勝つには勝ったが、またしても後味の悪い結末の試合だった。
イギリスに修行する前の試合もそうだが、帰国しての第一戦もシュートだ。
…もうシュートはやりたくない。
相手を潰す為にプロレスをやってるんじゃない。
だが、仕掛けられたら身を守る為にやむ無くシュートをせざるを得ない。
せめてもの救いはオープンフィンガーグローブを着用したが、顔面パンチを打たなかった事だけだ。
状況によってはパンチで応戦しようと思ったが、プロレスラーはグローブを付けて顔面を殴るなんて事はしない。
もう、こんな物は必要の無い、従来のプロレスをしたい…
だが、オレの気持ちとは裏腹に誰もオレの事をプロレスラーとして呼ばずに、シュートレスラー神宮寺直人という余計な肩書きが付きまとってしまった…
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