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レスリングマスター、そしてコマンドサンボ
マスクマンになれ
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カーウィンが紹介してくれたプロモーターはティム・コールマンという、ロンドンでのプロレス興行を行ううえで欠かせない人物らしい。
オレはカーウィンと共にコールマンの事務所を訪れた。
やや老朽化した白いモダンな建物の2階に事務所を構えている。
事務所と言ってもコールマンと秘書の女性だけでデスクは2つしかなく、応接間兼事務所として、ドアの入り口には黒のソファーとガラス製のテーブルが置いてある。
壁には歴代のレスラーのパネルが飾られており、カーウィンの部屋にもあったヨーロッパ王者のチャンピオンベルトとどのタイトルなのか分からないベルトが数本壁に掛けられてあった。
コールマンは葉巻をくわえ、口ひげをたくわえ、髪は白髪混じりのオールバックでサスペンダー付きのスーツの下にワイシャツ、そして腹はかなり出て、パッと見コメディアンのような滑稽なスタイルだ。
カーウィンとコールマンはかつてレスラーとマネージャーという関係で全米をサーキットした。
アメリカではチャンピオンになれなかったカーウィンだが、実力は明白で当時のアメリカの最大メジャー団体のチャンピオンと同じクラスの扱いで破格のギャラを手にしていた。
カーウィンはポリスマン的な役割で、各テリトリーからチャンピオンの座を狙うレスラーが名乗りを上げていた。
チャンピオンと闘う前にまずカーウィンと試合し、実力、風格共に挑戦するに相応しい相手にはジョバー(敗け役)になり、チャンピオンに挑戦する事が出来る。
反対にチャレンジャーになるには様々な要素に欠けるレスラーに対してはチャレンジャー失格と判断して、ハードヒットな打撃と通常の試合では使わないサブミッションで痛めつける。
時にはシュートを仕掛けてくるレスラーもいたが、全て返り討ちにし、カーウィンによって潰された者は数多い。
カーウィンが現役を退いた後、コールマンはロンドンへ戻り、ヨーロッパマット界のプロモーターとして手腕をふるっていた。
コールマンは我々を笑顔で出迎えてくれた。
「おぉ、カーウィンじゃないか!久しぶりだな、元気か?」
カーウィンとコールマンは久しぶりに会い、抱擁を交わしていた。
「本当に久しぶりだな。かれこれ10年ぶりになるかな。
紹介しよう、彼は日本のWWAに所属しているナオト ジングウジだ。
ナオト、彼はイギリスマット界のプロモーターでティム・コールマンだ」
オレはカーウィンにコールマンを紹介され、握手をして挨拶した。
「はじめましてMr.コールマン。私は今、カーウィンのジムでキャッチレスリングを学んでいます」
コールマンはふと思い出したかのようにオレに問い掛けた。
「ジングウジ…?おぉ、MMAに出たヤツだな?
しかもその後、ハードコアなデスマッチをやったそうじゃないか」
コールマンは両手でガッチリと握手をした。
「コールマン、すまないが彼をロンドンの試合に出してもらえないだろうか?
彼はウチのジムでキャッチを習ってもう半年近く経つ。
スパーリングばかりじゃ飽きると思って試合に出たヤツ方が良いと思うんだが…無理だろうか?」
カーウィンはオレを試合に出せないものか?と頼んでいた。
「日本人か…日本のレスリングはハードヒットでかなりデンジャラスな技の応酬をしているっていうが、ここのリングのマットは硬いんだ。
スープレックスや垂直に落とすような技は極力控えてくれ。
それと試合に出場するとなるとそれなりのギミックが必要になる。
ジングウジ、ここではマスクマンになってヒールというキャラになってくれ」
コールマンの英語はよく聞き取れない。
元々はドイツの出身で英語が全く喋れなかったが、カーウィンと全米をサーキットしている間にマスターしたと聞いた。
マスクマンになってヒールになれって事はどうにか聞き取れたが…
オレは子供の頃から英会話スクールに通っていたせいか、英語でのコミュニケーションは日常の会話ぐらいなら何とかなる。
「カーウィンさん、よく聞き取れないんだけど、要は覆面を被ってヒールキャラになれ、という事ですか?」
オレはカーウィンにコールマンの言った事が合ってるのかどうか聞いてみた。
「イエス。それとジャパニーズスタイルのハードヒットな技は使うな、という事だ。
こっちのマットは硬いから危険な技を使うと受け身を取りそこねてケガをしてしまうという事だ」
ここのマットは粗悪で日本のマットと比べて硬いというのは聞いていたが、そんなに酷いマットなのか…
しかもマスクマンになってヒールを演じろって…
「うーん、マスクマンか…
Mr.コールマン、具体的にどんなデザインのマスクでファイトスタイルをすればいいのか…」
オレはヒールなんて演じた事が無い。
そもそも今の日本のプロレス界はヒールもベビーフェイスも関係なく、スポーツライクなスタイルがスタンダードだ。
「カブキのようなデザインのマスクを着けてジュードー着を着る。そして手にはケンドーに使うスティックを持って暴れるんだ」
はぁ?ジュードーにケンドー?
今さら時代錯誤なキャラで観客は喜ぶのだろうか…
「いい機会だナオト。たまにはヒールで暴れるのも勉強の一つだ」
カーウィンはオレの肩をポンと叩いた。
こうしてオレはマスクマンとしてイギリスのマット界にデビューすることになった。
オレはカーウィンと共にコールマンの事務所を訪れた。
やや老朽化した白いモダンな建物の2階に事務所を構えている。
事務所と言ってもコールマンと秘書の女性だけでデスクは2つしかなく、応接間兼事務所として、ドアの入り口には黒のソファーとガラス製のテーブルが置いてある。
壁には歴代のレスラーのパネルが飾られており、カーウィンの部屋にもあったヨーロッパ王者のチャンピオンベルトとどのタイトルなのか分からないベルトが数本壁に掛けられてあった。
コールマンは葉巻をくわえ、口ひげをたくわえ、髪は白髪混じりのオールバックでサスペンダー付きのスーツの下にワイシャツ、そして腹はかなり出て、パッと見コメディアンのような滑稽なスタイルだ。
カーウィンとコールマンはかつてレスラーとマネージャーという関係で全米をサーキットした。
アメリカではチャンピオンになれなかったカーウィンだが、実力は明白で当時のアメリカの最大メジャー団体のチャンピオンと同じクラスの扱いで破格のギャラを手にしていた。
カーウィンはポリスマン的な役割で、各テリトリーからチャンピオンの座を狙うレスラーが名乗りを上げていた。
チャンピオンと闘う前にまずカーウィンと試合し、実力、風格共に挑戦するに相応しい相手にはジョバー(敗け役)になり、チャンピオンに挑戦する事が出来る。
反対にチャレンジャーになるには様々な要素に欠けるレスラーに対してはチャレンジャー失格と判断して、ハードヒットな打撃と通常の試合では使わないサブミッションで痛めつける。
時にはシュートを仕掛けてくるレスラーもいたが、全て返り討ちにし、カーウィンによって潰された者は数多い。
カーウィンが現役を退いた後、コールマンはロンドンへ戻り、ヨーロッパマット界のプロモーターとして手腕をふるっていた。
コールマンは我々を笑顔で出迎えてくれた。
「おぉ、カーウィンじゃないか!久しぶりだな、元気か?」
カーウィンとコールマンは久しぶりに会い、抱擁を交わしていた。
「本当に久しぶりだな。かれこれ10年ぶりになるかな。
紹介しよう、彼は日本のWWAに所属しているナオト ジングウジだ。
ナオト、彼はイギリスマット界のプロモーターでティム・コールマンだ」
オレはカーウィンにコールマンを紹介され、握手をして挨拶した。
「はじめましてMr.コールマン。私は今、カーウィンのジムでキャッチレスリングを学んでいます」
コールマンはふと思い出したかのようにオレに問い掛けた。
「ジングウジ…?おぉ、MMAに出たヤツだな?
しかもその後、ハードコアなデスマッチをやったそうじゃないか」
コールマンは両手でガッチリと握手をした。
「コールマン、すまないが彼をロンドンの試合に出してもらえないだろうか?
彼はウチのジムでキャッチを習ってもう半年近く経つ。
スパーリングばかりじゃ飽きると思って試合に出たヤツ方が良いと思うんだが…無理だろうか?」
カーウィンはオレを試合に出せないものか?と頼んでいた。
「日本人か…日本のレスリングはハードヒットでかなりデンジャラスな技の応酬をしているっていうが、ここのリングのマットは硬いんだ。
スープレックスや垂直に落とすような技は極力控えてくれ。
それと試合に出場するとなるとそれなりのギミックが必要になる。
ジングウジ、ここではマスクマンになってヒールというキャラになってくれ」
コールマンの英語はよく聞き取れない。
元々はドイツの出身で英語が全く喋れなかったが、カーウィンと全米をサーキットしている間にマスターしたと聞いた。
マスクマンになってヒールになれって事はどうにか聞き取れたが…
オレは子供の頃から英会話スクールに通っていたせいか、英語でのコミュニケーションは日常の会話ぐらいなら何とかなる。
「カーウィンさん、よく聞き取れないんだけど、要は覆面を被ってヒールキャラになれ、という事ですか?」
オレはカーウィンにコールマンの言った事が合ってるのかどうか聞いてみた。
「イエス。それとジャパニーズスタイルのハードヒットな技は使うな、という事だ。
こっちのマットは硬いから危険な技を使うと受け身を取りそこねてケガをしてしまうという事だ」
ここのマットは粗悪で日本のマットと比べて硬いというのは聞いていたが、そんなに酷いマットなのか…
しかもマスクマンになってヒールを演じろって…
「うーん、マスクマンか…
Mr.コールマン、具体的にどんなデザインのマスクでファイトスタイルをすればいいのか…」
オレはヒールなんて演じた事が無い。
そもそも今の日本のプロレス界はヒールもベビーフェイスも関係なく、スポーツライクなスタイルがスタンダードだ。
「カブキのようなデザインのマスクを着けてジュードー着を着る。そして手にはケンドーに使うスティックを持って暴れるんだ」
はぁ?ジュードーにケンドー?
今さら時代錯誤なキャラで観客は喜ぶのだろうか…
「いい機会だナオト。たまにはヒールで暴れるのも勉強の一つだ」
カーウィンはオレの肩をポンと叩いた。
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