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Roots Of Wrestling 最強
寝技に持ち込むな!
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第一ラウンドのゴングが鳴った。
オレはボクサーの様にガードを固めて相手との距離を縮めた。
対する柔術ヤローは変則的な構えで、中途半端なガードで顔面ががら空きだ。
オレはこの試合の数日前、ブラジル系アメリカ人のコーチにこう言われた。
「お前が勝つとしたら、寝技じゃなく打撃だ。グレコローマンスタイルのレスリングをバックボーンにしているが、ヤツの寝技に付き合うな。グランドになったらお前に勝機は無い」
オレはこの数年間で道場内でのスパーリングで敵う相手がいなくなる程、グランドでの展開には自信があった。
だが、コーチは敢えて寝技ではなく、打撃で勝負しろと言う。
オレはコーチのアドバイスに反論した。
「柔術だかなんだかよく知らねえけど、こっちだって寝技にはかなりの自信があるんだ。それなのに寝技では敵わないってのはどういう事だ?」
やれやれ、と言った表情でコーチはその理由を答えた。
「柔術とレスリングの違いは何だと思う?
レスリングが寝技主体の格闘技なのは解る。
だが、レスリングは下になったらどうやって相手を攻撃する?そこがレスリングと柔術との違いだ。柔術は下になってもガードポジションからの三角締めや腕十字、オモプラッタという技が豊富にある。
お前は柔術家相手に下になった状態から相手の関節を極める事が出来るのか?」
コーチの意見は的を得ていた。
オレもスパーリングでは下からの状態で三角締めや腕十字を極める事が出来る。
だが、相手が柔術家となると、そう簡単にはいかない。
レスリングには関節技が無い。上手くポジショニングを取りながらバックを取ったり、フォールするのが目的の格闘技だ。
ましてや相手が柔術家だと、ポジショニングの取り方も違ってくるだろうし、どの体勢からでも関節を極める事が出来る。
いくら道場内でのスパーでオレに敵う相手がいないと言っても、同じレスラー同士、柔術をやった事がある相手にスパーをした経験はない。
とはいえ、打撃のみで闘えと言うのか…
更にコーチは続けた。
「もし寝技の展開になっても決して下にはなるな。上からの体勢でパウンドを叩き込め。下になったら、すぐに抱きつくように腕をホールドしろ、膠着状態が続けばレフェリーがストップをかけてスタンドの体勢から試合を再開させる。それまで相手に何もさせないようにするんだ、解ったな?」
ここまでハッキリと言われると返す言葉も無い。
オレはこの期間中、寝技よりも立ち技に重点を置いて特訓をした。
パンチとローキックのコンビネーションを重点的に行った。
とにかく総合格闘技のリングに上がったんだ、やるからには勝つ!
この試合如何では今後のプロレス人生に於いても左右する。
プロレスラー代表として、総合格闘技の試合に勝たなきゃならない。
オレはガードを固め、コーチの言葉を思いだし、ジャブを繰り出した。
ジャブは相手を牽制する他にも、相手との距離を計るのに重要な攻撃だ。
相手は手足が長い、ロングレンジからの打撃は向こうの方が有利だ。
となると、オレはミドルレンジかショートレンジでの打撃が有効になる。
だが、迂闊に近づくとあっという間に寝技に引き込まれてしまい、蛇の様にオレの身体に絡み付き、関節を極めてくるだろう。
そこでいつタックルがくるのか。
その時にローキックが有効的になる。
ローキックとパンチを使い、対角線のコンビネーションを使って相手のペースに引き込まれず、試合の主導権を握って優位に進めるしかない。
この柔術家は総合格闘技4戦4勝の無敗の相手だが、全ての勝利は判定によるものだ。
つまり極め手に欠けているのか、試合のペースを上手く握ってフルラウンドまで闘うのか過去の対戦した様子を何度も観たが、これといった特徴の無い選手だ。
打撃が得意というワケでもなく、関節を狙ってくるのだが、何が得意なのか何度観ても解らない。
強いてあげるならば、ポジショニングの取り方だろう。
関節を極めなくても、ポジショニングで優位に立ち、判定に持ち込んで勝つ、そんなタイプだ。
オレはジャブを放ち、すぐにローで相手の膝の外側に当てた。踏み込みが甘かったのか、あまり効いてないみたいだ。
相手は相変わらず変則的な構えでジリジリと距離を詰めようとしている。
オレは相手の周囲を回るかのように足を使って動いた。
時折相手のパンチが飛んでくるが、オレはガードを固め、返す形でローキックをヒットさせた。
やっぱりローキックが有効みたいだ。
オレはローキックを相手の足の外側、内側に何度も叩き込んだ。
そして何発目かのローキックが膝の内側にクリーンヒットした。
ガクっと体勢を崩した!
今だ、オレはパンチとローキックを対角線のコンビネーションで攻めた。
場内が沸き上がる。
いける!このまま打撃で倒せる!
相手はローキックを嫌がっている。
オレはここが攻め時と見て、ローからの右のフックを叩き込んだ。
だが、相手はそれを読んでいて、腕を捕まれ、足を引っかけるような形で両者が倒れ込み、ロープ際で寝技の展開になってしまった…
しかもオレが下になっている!
オレは寝技の状態からクリンチのようにして、相手に抱きついた。
これだとパウンド攻撃も出せないし、関節を極める事も難しい。
「焦るな焦るな!このままの状態でいるんだ!」
セコンドからの指示が飛ぶ。
しかし、この状態でじっと耐えるのは容易じゃない。
相手はオレがしがみついているのを離そうとする為、脇腹に何発かパンチをもらった。
顔面じゃなきゃ大丈夫だ、と言い聞かせながら何度も脇腹を打たれたが、かなり苦しくなってきた…
ヤバい、いくら何でもこんなにボディにパンチを食らうと力が徐々に無くなっていく。
そしてオレにとって厄介なのが、マウスピースだ。
練習の時もマウスピースを口にしたが、いざ実戦でしかも脇腹にパンチをもらってると苦しくなる…
こんなにもマウスピースという物がくるしいのか…
何か脱出方法を考えないと。
この状況が永遠に続くんじゃないかと思うぐらいに長く感じた。
「そのままそのまま!もう少しで1ラウンド終了だ!」
まさか1ラウンド終了までこの体勢でいろと言うのか?冗談じゃない!
オレは力を振り絞って体勢を逆転させようとした。
「んぬぉっ…」
持ち前のパワーで一気に仰向けからうつ伏せの体勢へと変えた。
「バカっ!その体勢はヤバいぞっ!」
セコンドの言葉が言い終わる前にオレの背後から長いリーチが首に巻き付いた!
ヤバい!チョークスリーパーだ!
咄嗟に相手の腕を掴み、締めさせないようにするが、相手は体重を押し潰すかのようにして、徐々に首が締まっていく…
【カァーン】
運よくゴングに救われた。
さっきの寝技のディフェンスで力を使い、ヘロヘロになりながらコーナーにもたれかかった。
「バカヤロー!何でうつ伏せになった!あれは相手の作戦だ!」トレーナーの怒号が鳴り響いた。
とにかくあの膠着状態でいるのが我慢出来なかった。
強引にうつ伏せになったが、あのままゴングが鳴らなかったら、オレは締め落とされただろう。
そして改めて総合格闘技というガチンコの怖さを身体で知った。
と、同時に道場でのスパーリングでは誰も敵う相手がいなくなり、天狗になってた俺の鼻っ柱をへし折られたような感じもした。
(上には上がいる)
改めて実感した。
インターバルの時間が終わりに近づいた。
「いいか、とにかく打撃だ!ヤツはローキックを嫌がってる、お前が勝てるのはローキックとパンチだ!」
セコンドがオレの口に水を含ませ、ぺっとうがいするように吐いた。
ダメージは無い、だが次のラウンド、ヤツはどういう戦法でくるのか…
向こうはオレが下になったら何も出来ない、とにかくテイクダウンさせて関節かチョークで締めろ!とでも言ってるのだろう。
この大観衆の中でオレが勝つと思っているヤツはいるのだろうか?
終盤で弱点を露呈したみたいで、またしてもプロレスラーの総合格闘技挑戦は失敗に終わった…
そんな事を思っている連中が多いだろう。
だが勝つしかない…プロレスラーは強くなきゃダメなんだ。
プロレスラーは強いんだ!
セコンド陣がリングを降りた。
「いいか打撃だぞ、打撃!相手の脚を破壊しろ!」
破壊…そうか、ぶっ壊せばいいんだ。
そして2ラウンドのゴングが鳴った。
オレはボクサーの様にガードを固めて相手との距離を縮めた。
対する柔術ヤローは変則的な構えで、中途半端なガードで顔面ががら空きだ。
オレはこの試合の数日前、ブラジル系アメリカ人のコーチにこう言われた。
「お前が勝つとしたら、寝技じゃなく打撃だ。グレコローマンスタイルのレスリングをバックボーンにしているが、ヤツの寝技に付き合うな。グランドになったらお前に勝機は無い」
オレはこの数年間で道場内でのスパーリングで敵う相手がいなくなる程、グランドでの展開には自信があった。
だが、コーチは敢えて寝技ではなく、打撃で勝負しろと言う。
オレはコーチのアドバイスに反論した。
「柔術だかなんだかよく知らねえけど、こっちだって寝技にはかなりの自信があるんだ。それなのに寝技では敵わないってのはどういう事だ?」
やれやれ、と言った表情でコーチはその理由を答えた。
「柔術とレスリングの違いは何だと思う?
レスリングが寝技主体の格闘技なのは解る。
だが、レスリングは下になったらどうやって相手を攻撃する?そこがレスリングと柔術との違いだ。柔術は下になってもガードポジションからの三角締めや腕十字、オモプラッタという技が豊富にある。
お前は柔術家相手に下になった状態から相手の関節を極める事が出来るのか?」
コーチの意見は的を得ていた。
オレもスパーリングでは下からの状態で三角締めや腕十字を極める事が出来る。
だが、相手が柔術家となると、そう簡単にはいかない。
レスリングには関節技が無い。上手くポジショニングを取りながらバックを取ったり、フォールするのが目的の格闘技だ。
ましてや相手が柔術家だと、ポジショニングの取り方も違ってくるだろうし、どの体勢からでも関節を極める事が出来る。
いくら道場内でのスパーでオレに敵う相手がいないと言っても、同じレスラー同士、柔術をやった事がある相手にスパーをした経験はない。
とはいえ、打撃のみで闘えと言うのか…
更にコーチは続けた。
「もし寝技の展開になっても決して下にはなるな。上からの体勢でパウンドを叩き込め。下になったら、すぐに抱きつくように腕をホールドしろ、膠着状態が続けばレフェリーがストップをかけてスタンドの体勢から試合を再開させる。それまで相手に何もさせないようにするんだ、解ったな?」
ここまでハッキリと言われると返す言葉も無い。
オレはこの期間中、寝技よりも立ち技に重点を置いて特訓をした。
パンチとローキックのコンビネーションを重点的に行った。
とにかく総合格闘技のリングに上がったんだ、やるからには勝つ!
この試合如何では今後のプロレス人生に於いても左右する。
プロレスラー代表として、総合格闘技の試合に勝たなきゃならない。
オレはガードを固め、コーチの言葉を思いだし、ジャブを繰り出した。
ジャブは相手を牽制する他にも、相手との距離を計るのに重要な攻撃だ。
相手は手足が長い、ロングレンジからの打撃は向こうの方が有利だ。
となると、オレはミドルレンジかショートレンジでの打撃が有効になる。
だが、迂闊に近づくとあっという間に寝技に引き込まれてしまい、蛇の様にオレの身体に絡み付き、関節を極めてくるだろう。
そこでいつタックルがくるのか。
その時にローキックが有効的になる。
ローキックとパンチを使い、対角線のコンビネーションを使って相手のペースに引き込まれず、試合の主導権を握って優位に進めるしかない。
この柔術家は総合格闘技4戦4勝の無敗の相手だが、全ての勝利は判定によるものだ。
つまり極め手に欠けているのか、試合のペースを上手く握ってフルラウンドまで闘うのか過去の対戦した様子を何度も観たが、これといった特徴の無い選手だ。
打撃が得意というワケでもなく、関節を狙ってくるのだが、何が得意なのか何度観ても解らない。
強いてあげるならば、ポジショニングの取り方だろう。
関節を極めなくても、ポジショニングで優位に立ち、判定に持ち込んで勝つ、そんなタイプだ。
オレはジャブを放ち、すぐにローで相手の膝の外側に当てた。踏み込みが甘かったのか、あまり効いてないみたいだ。
相手は相変わらず変則的な構えでジリジリと距離を詰めようとしている。
オレは相手の周囲を回るかのように足を使って動いた。
時折相手のパンチが飛んでくるが、オレはガードを固め、返す形でローキックをヒットさせた。
やっぱりローキックが有効みたいだ。
オレはローキックを相手の足の外側、内側に何度も叩き込んだ。
そして何発目かのローキックが膝の内側にクリーンヒットした。
ガクっと体勢を崩した!
今だ、オレはパンチとローキックを対角線のコンビネーションで攻めた。
場内が沸き上がる。
いける!このまま打撃で倒せる!
相手はローキックを嫌がっている。
オレはここが攻め時と見て、ローからの右のフックを叩き込んだ。
だが、相手はそれを読んでいて、腕を捕まれ、足を引っかけるような形で両者が倒れ込み、ロープ際で寝技の展開になってしまった…
しかもオレが下になっている!
オレは寝技の状態からクリンチのようにして、相手に抱きついた。
これだとパウンド攻撃も出せないし、関節を極める事も難しい。
「焦るな焦るな!このままの状態でいるんだ!」
セコンドからの指示が飛ぶ。
しかし、この状態でじっと耐えるのは容易じゃない。
相手はオレがしがみついているのを離そうとする為、脇腹に何発かパンチをもらった。
顔面じゃなきゃ大丈夫だ、と言い聞かせながら何度も脇腹を打たれたが、かなり苦しくなってきた…
ヤバい、いくら何でもこんなにボディにパンチを食らうと力が徐々に無くなっていく。
そしてオレにとって厄介なのが、マウスピースだ。
練習の時もマウスピースを口にしたが、いざ実戦でしかも脇腹にパンチをもらってると苦しくなる…
こんなにもマウスピースという物がくるしいのか…
何か脱出方法を考えないと。
この状況が永遠に続くんじゃないかと思うぐらいに長く感じた。
「そのままそのまま!もう少しで1ラウンド終了だ!」
まさか1ラウンド終了までこの体勢でいろと言うのか?冗談じゃない!
オレは力を振り絞って体勢を逆転させようとした。
「んぬぉっ…」
持ち前のパワーで一気に仰向けからうつ伏せの体勢へと変えた。
「バカっ!その体勢はヤバいぞっ!」
セコンドの言葉が言い終わる前にオレの背後から長いリーチが首に巻き付いた!
ヤバい!チョークスリーパーだ!
咄嗟に相手の腕を掴み、締めさせないようにするが、相手は体重を押し潰すかのようにして、徐々に首が締まっていく…
【カァーン】
運よくゴングに救われた。
さっきの寝技のディフェンスで力を使い、ヘロヘロになりながらコーナーにもたれかかった。
「バカヤロー!何でうつ伏せになった!あれは相手の作戦だ!」トレーナーの怒号が鳴り響いた。
とにかくあの膠着状態でいるのが我慢出来なかった。
強引にうつ伏せになったが、あのままゴングが鳴らなかったら、オレは締め落とされただろう。
そして改めて総合格闘技というガチンコの怖さを身体で知った。
と、同時に道場でのスパーリングでは誰も敵う相手がいなくなり、天狗になってた俺の鼻っ柱をへし折られたような感じもした。
(上には上がいる)
改めて実感した。
インターバルの時間が終わりに近づいた。
「いいか、とにかく打撃だ!ヤツはローキックを嫌がってる、お前が勝てるのはローキックとパンチだ!」
セコンドがオレの口に水を含ませ、ぺっとうがいするように吐いた。
ダメージは無い、だが次のラウンド、ヤツはどういう戦法でくるのか…
向こうはオレが下になったら何も出来ない、とにかくテイクダウンさせて関節かチョークで締めろ!とでも言ってるのだろう。
この大観衆の中でオレが勝つと思っているヤツはいるのだろうか?
終盤で弱点を露呈したみたいで、またしてもプロレスラーの総合格闘技挑戦は失敗に終わった…
そんな事を思っている連中が多いだろう。
だが勝つしかない…プロレスラーは強くなきゃダメなんだ。
プロレスラーは強いんだ!
セコンド陣がリングを降りた。
「いいか打撃だぞ、打撃!相手の脚を破壊しろ!」
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