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Roots Of Wrestling 最強
アイアム プロレスラー
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自分を奮い立たせながら何とか落ち着かせるようにしたが、何故か落ち着かない。
足がガクガク震えてきた。…リングへ上がるのが怖い…
プロレスのリングでは無い、真剣勝負言わばガチンコの試合だ。
そこにシナリオ等無い。
オレはガチの試合をやるのはこれが始めてだ。
確かにプロレスにはシュート(不穏試合もしくはブック破りとして相手を潰す試合)という隠語がある。
オレは入門当初から、先輩レスラーたちに
「何があってもシュートだけはするな。
もしシュートを行ったらお前はこの世界では生きていけなくるなるぞ!」
と口酸っぱく言われ続けてきた。
試合ではなく私闘、つまり個人的な都合で相手を潰すような試合を仕掛けてはならないと言う事だ。
シュートとは言えないが、オレが若手の頃、何人かの道場破りが来た事がある。
皆、腕に自信のある連中ばかりだ。
柔道や空手等の有段者だ。
「プロレスってのはインチキなんだろ?オレの方が強いはずだ!ここのトップと今すぐやらせろ!」
道場破りの猛者達はここで団体のエースを出せ!と意気込んでくる。
だからと言って、はいそうですか、って団体のエースと私闘をするわけには行かない。
勿論、最初は丁重にお断りする。
「我々はここでトレーニングをしているのであって、道場破りの相手をする場所ではありません。どうかお引き取りねがいます」
オレたち若手がやんわりと断り、道場から追い出そうとする。
だが、道場破りは一向に引かない。
「逃げるのかっ!やっぱりお前達のやってる事は八百長なんだろ!じゃなきゃ誰でもいい!オレの相手をしろ!」
こっちが低姿勢で断っているにも関わらず、八百長だの何だのと言われてくると、こっちも黙っていない。
「どうしてもと言うのなら、ウチの若いヤツらと闘って勝ったらエースを出そう。
ただしケガをしてもこちらとしては一切の責任は負わない、それでもいいな?」
当時、道場のコーチをしていた宅間功(たくまいさお)という往年のレスラーがオレたち若手のトレーニングを見ていた。
鬼軍曹と呼ばれる程厳しく、道場内では宅間コーチの罵声が鳴り響いているのは日常茶飯事だった。
スクワットやプッシュアップ、受け身の反復練習、100キロ以上ある大男を乗せたままブリッジで首を鍛え、リング上では地獄のスパーリングが繰り返し行われていた。
オレがいくらインターハイ優勝という実績をもってしても、タックルすら極められない。
それどころか、タックルを切られ、押し潰されてしまう。
そして上に乗っかられ、鍛え上げられた胸板や腹筋が顔を埋められてしまい、呼吸が出来ない。
「どうしたオラっ!返してみろ!」
先輩レスラーが身体ごと顔に押し当ててくるので、苦しくなり、顔をずらし、
「プハァッ!」
と息をする。
「まだ動けるじゃねえか、このヤロー!」
と殴られ、また顔を押し潰される。
そしてまた顔をずらして「プハァッ」と息をする。
入門したての頃は、こうやって先輩レスラーのスパーリングの相手というか、プロレスラーとしての洗礼をうける。
これを【ラッパを吹かせる】と言って、入門してきた新弟子達は誰もがこの洗礼を受ける。
【ラッパを吹かせる】というのは、呼吸出来なくなり、苦し紛れに顔をずらせて、息をする様子がラッパを吹いてるかのように見える為、そう呼ばれてきたらしい。
そしてスパーリングでボロボロにされた後は雑用をこなさなきゃならない。
先輩レスラーの付き人として、試合で使用するトランクスや服等を洗濯して乾かさなきゃならない。
あれ買ってこい、これ買ってこい、と次から次へと言われた通りに雑用をこなす。
付き人というよりは、使いっ走りの様な感じだ。
オレが付き人になった先輩レスラーはそれほどうるさくなかったが、中にはやや性格に難のある先輩レスラーも何人かいる。
ちょっとしたミスでもすぐに手が飛んでくる。
殴られ、蹴られ、顔が腫れ上がってしまうなんて事もしょっちゅうだ。
理不尽な世界ではあるが、それらの事を歯を食いしばって耐えながら、やがて一人前のレスラーとして成長していく。
オレはその中でも、一番辛かったのは食事の時だった。
レスラーは身体を大きくしなければならない。
それは見映えという点もあるが、相手の技を受ける為でもある。
技をかけて、自分は技を受けない。他の格闘技ではそれが当たり前の事だが、プロレスに於てはそれは通用しない。
鍛え上げられた身体で相手の技を真正面から受ける。
そのダメージはものスゴい。だが、相手の技を受けても耐えられるだけの身体にしないと、試合では通用しない。
だからオレたちはボロボロになって、食欲すら無い程のキツい状態でも、ちゃんこ鍋にどんぶり飯を数杯食わなきゃならないのだ。
とてもじゃないが、そんな食欲は無い。
全く喉を通らないのだ。
だが、それでも食べて、戻しそうになるのを堪えてひたすら食べる。
今はプロテインという便利な物があるが、当時はそうやって身体を大きくしていった。
肉体的にも精神的にも辛い時期だ。
夜逃げ同然で逃げ出した者も多く、同期で残ったのはオレと財前だけだ。
普通では考えられない世界だが、この世界では生きていくには避けて通れない。
こういう事を繰り返し、レスラーらしい身体に仕上がり、デビューが決まる。
オレは入門して一年近くかかってデビューが決まった。
財前に遅れる事、半年以上かかった。
その新人だったオレが道場破りの相手をさせられた事がある。
相手は柔道家で黒帯の有段者だ。
宅間コーチはオレに
「お前が責任をもってプロレスラーの怖さというものを教えてやれ!敗けは許されないぞ!」
と言われ、その柔道家とリングの上で闘った。
腕に覚えのある者だから、そう簡単には倒せるのは難しいと思った。
だがリング上で対峙すると、オレの方が背も高いし、筋肉もある。
宅間コーチがレフェリーとなり、道場のリングで試合が始まった。
柔道家は技をかけようとするが、オレはビクともしない。
日頃から道場で尋常じゃないトレーニングやスパーリングをこなしてきた影響からか、ちょっとやそっとじゃオレを倒す事は出来ない。
しばらくすると、相手は息が上がってしまい、
オレは相手を押し潰すかのようにして倒し、背後からのスリーパーホールドで相手を締め落とした。
ある先輩レスラーは、空手家が道場破りに来た際、相手の突きと蹴りを食らっても全く動じず、テイクダウンさせ、アームロックで相手の腕をへし折った。
そうやってオレたちは道場で徹底的にしごかれ、強くなっていった。
…オレは控室で当時の事を思い出していた。
今日闘うブラジルの柔術家は関節技をベースとしたスタイルでくるだろう。
だが、オレも宅間コーチや先輩レスラー達にボロボロになるまでしごかれ、プロレスラーになった。
そんな入門当初の頃を思い出していたら、不思議と足の震えは止まった。
そうだ、オレは道場で強さを身につけたんだ、相手が誰であろうが、オレのようにボロボロにされるまで鍛えられてはいないだろう、自信を持て!
すると恐怖感は少しずつ和らいでいった。
そして時間は刻一刻と過ぎいく。
俺の試合はセミファイナル前に、Diamond無差別級特別試合として行われる。
そしてようやく出番がきた。
プロレスの試合の時と同じテーマ曲が流れた。
今日は手にオープンフィンガーグローブをはめている。
そしてこの大会場の花道をセコンドと共に入場し、リングへ向かった。
場内は割れんばかりの歓声だ。
中にはアンチプロレスファンもいるのだろう、ブーイングも起こった。
プロレスの試合でもこんなに歓声が上がった事は無い。
リングサイドで気合いを入れ、リングインした。
いつもとは違う風景…
そして全身にタトゥーを施したブラジルの柔術ヤローが目の前にいる。
リングの中央で対峙し、レフェリーからチェックを言い渡された。
僅か数センチの距離でオレとその柔術ヤローは目を合わせる。
手足が長く、オレより少し背が高い。
190センチは越えているだろう。
褐色の肌に十字架をタトゥーを胸板に施し、スパッツのようなトランクスを履いて裸足だ。
オレも同じようにスパッツタイプのトランクスにニーパッド、裸足だ。
柔術家は足関節技を得意としている。
レスリングシューズを履いていると、脚をキャッチされた際、アキレス腱固めやヒールホールドに極められやすいので、裸足にした。
互いに睨んだまま、目を逸らさない。
柔術家らしくしなやかな身体でバネがありそうだ。
試合形式は1ラウンド10分、2ラウンド、3ラウンドは5分という変形スタイルで、1分間のインターバルがある。
噛みつき、目潰し、急所攻撃、顔面への肘打ちの禁止、そしてバッティングによる出血の際はリングドクターがチェックして、傷口が深い場合はドクターストップとして試合を終了するというルールだ。
互いに各コーナーに戻り、マウスピースを口に入れた。
「チャンスがあれば初回から行け!」
セコンドのアドバイスに頷き、1ラウンドのゴングが鳴った。
足がガクガク震えてきた。…リングへ上がるのが怖い…
プロレスのリングでは無い、真剣勝負言わばガチンコの試合だ。
そこにシナリオ等無い。
オレはガチの試合をやるのはこれが始めてだ。
確かにプロレスにはシュート(不穏試合もしくはブック破りとして相手を潰す試合)という隠語がある。
オレは入門当初から、先輩レスラーたちに
「何があってもシュートだけはするな。
もしシュートを行ったらお前はこの世界では生きていけなくるなるぞ!」
と口酸っぱく言われ続けてきた。
試合ではなく私闘、つまり個人的な都合で相手を潰すような試合を仕掛けてはならないと言う事だ。
シュートとは言えないが、オレが若手の頃、何人かの道場破りが来た事がある。
皆、腕に自信のある連中ばかりだ。
柔道や空手等の有段者だ。
「プロレスってのはインチキなんだろ?オレの方が強いはずだ!ここのトップと今すぐやらせろ!」
道場破りの猛者達はここで団体のエースを出せ!と意気込んでくる。
だからと言って、はいそうですか、って団体のエースと私闘をするわけには行かない。
勿論、最初は丁重にお断りする。
「我々はここでトレーニングをしているのであって、道場破りの相手をする場所ではありません。どうかお引き取りねがいます」
オレたち若手がやんわりと断り、道場から追い出そうとする。
だが、道場破りは一向に引かない。
「逃げるのかっ!やっぱりお前達のやってる事は八百長なんだろ!じゃなきゃ誰でもいい!オレの相手をしろ!」
こっちが低姿勢で断っているにも関わらず、八百長だの何だのと言われてくると、こっちも黙っていない。
「どうしてもと言うのなら、ウチの若いヤツらと闘って勝ったらエースを出そう。
ただしケガをしてもこちらとしては一切の責任は負わない、それでもいいな?」
当時、道場のコーチをしていた宅間功(たくまいさお)という往年のレスラーがオレたち若手のトレーニングを見ていた。
鬼軍曹と呼ばれる程厳しく、道場内では宅間コーチの罵声が鳴り響いているのは日常茶飯事だった。
スクワットやプッシュアップ、受け身の反復練習、100キロ以上ある大男を乗せたままブリッジで首を鍛え、リング上では地獄のスパーリングが繰り返し行われていた。
オレがいくらインターハイ優勝という実績をもってしても、タックルすら極められない。
それどころか、タックルを切られ、押し潰されてしまう。
そして上に乗っかられ、鍛え上げられた胸板や腹筋が顔を埋められてしまい、呼吸が出来ない。
「どうしたオラっ!返してみろ!」
先輩レスラーが身体ごと顔に押し当ててくるので、苦しくなり、顔をずらし、
「プハァッ!」
と息をする。
「まだ動けるじゃねえか、このヤロー!」
と殴られ、また顔を押し潰される。
そしてまた顔をずらして「プハァッ」と息をする。
入門したての頃は、こうやって先輩レスラーのスパーリングの相手というか、プロレスラーとしての洗礼をうける。
これを【ラッパを吹かせる】と言って、入門してきた新弟子達は誰もがこの洗礼を受ける。
【ラッパを吹かせる】というのは、呼吸出来なくなり、苦し紛れに顔をずらせて、息をする様子がラッパを吹いてるかのように見える為、そう呼ばれてきたらしい。
そしてスパーリングでボロボロにされた後は雑用をこなさなきゃならない。
先輩レスラーの付き人として、試合で使用するトランクスや服等を洗濯して乾かさなきゃならない。
あれ買ってこい、これ買ってこい、と次から次へと言われた通りに雑用をこなす。
付き人というよりは、使いっ走りの様な感じだ。
オレが付き人になった先輩レスラーはそれほどうるさくなかったが、中にはやや性格に難のある先輩レスラーも何人かいる。
ちょっとしたミスでもすぐに手が飛んでくる。
殴られ、蹴られ、顔が腫れ上がってしまうなんて事もしょっちゅうだ。
理不尽な世界ではあるが、それらの事を歯を食いしばって耐えながら、やがて一人前のレスラーとして成長していく。
オレはその中でも、一番辛かったのは食事の時だった。
レスラーは身体を大きくしなければならない。
それは見映えという点もあるが、相手の技を受ける為でもある。
技をかけて、自分は技を受けない。他の格闘技ではそれが当たり前の事だが、プロレスに於てはそれは通用しない。
鍛え上げられた身体で相手の技を真正面から受ける。
そのダメージはものスゴい。だが、相手の技を受けても耐えられるだけの身体にしないと、試合では通用しない。
だからオレたちはボロボロになって、食欲すら無い程のキツい状態でも、ちゃんこ鍋にどんぶり飯を数杯食わなきゃならないのだ。
とてもじゃないが、そんな食欲は無い。
全く喉を通らないのだ。
だが、それでも食べて、戻しそうになるのを堪えてひたすら食べる。
今はプロテインという便利な物があるが、当時はそうやって身体を大きくしていった。
肉体的にも精神的にも辛い時期だ。
夜逃げ同然で逃げ出した者も多く、同期で残ったのはオレと財前だけだ。
普通では考えられない世界だが、この世界では生きていくには避けて通れない。
こういう事を繰り返し、レスラーらしい身体に仕上がり、デビューが決まる。
オレは入門して一年近くかかってデビューが決まった。
財前に遅れる事、半年以上かかった。
その新人だったオレが道場破りの相手をさせられた事がある。
相手は柔道家で黒帯の有段者だ。
宅間コーチはオレに
「お前が責任をもってプロレスラーの怖さというものを教えてやれ!敗けは許されないぞ!」
と言われ、その柔道家とリングの上で闘った。
腕に覚えのある者だから、そう簡単には倒せるのは難しいと思った。
だがリング上で対峙すると、オレの方が背も高いし、筋肉もある。
宅間コーチがレフェリーとなり、道場のリングで試合が始まった。
柔道家は技をかけようとするが、オレはビクともしない。
日頃から道場で尋常じゃないトレーニングやスパーリングをこなしてきた影響からか、ちょっとやそっとじゃオレを倒す事は出来ない。
しばらくすると、相手は息が上がってしまい、
オレは相手を押し潰すかのようにして倒し、背後からのスリーパーホールドで相手を締め落とした。
ある先輩レスラーは、空手家が道場破りに来た際、相手の突きと蹴りを食らっても全く動じず、テイクダウンさせ、アームロックで相手の腕をへし折った。
そうやってオレたちは道場で徹底的にしごかれ、強くなっていった。
…オレは控室で当時の事を思い出していた。
今日闘うブラジルの柔術家は関節技をベースとしたスタイルでくるだろう。
だが、オレも宅間コーチや先輩レスラー達にボロボロになるまでしごかれ、プロレスラーになった。
そんな入門当初の頃を思い出していたら、不思議と足の震えは止まった。
そうだ、オレは道場で強さを身につけたんだ、相手が誰であろうが、オレのようにボロボロにされるまで鍛えられてはいないだろう、自信を持て!
すると恐怖感は少しずつ和らいでいった。
そして時間は刻一刻と過ぎいく。
俺の試合はセミファイナル前に、Diamond無差別級特別試合として行われる。
そしてようやく出番がきた。
プロレスの試合の時と同じテーマ曲が流れた。
今日は手にオープンフィンガーグローブをはめている。
そしてこの大会場の花道をセコンドと共に入場し、リングへ向かった。
場内は割れんばかりの歓声だ。
中にはアンチプロレスファンもいるのだろう、ブーイングも起こった。
プロレスの試合でもこんなに歓声が上がった事は無い。
リングサイドで気合いを入れ、リングインした。
いつもとは違う風景…
そして全身にタトゥーを施したブラジルの柔術ヤローが目の前にいる。
リングの中央で対峙し、レフェリーからチェックを言い渡された。
僅か数センチの距離でオレとその柔術ヤローは目を合わせる。
手足が長く、オレより少し背が高い。
190センチは越えているだろう。
褐色の肌に十字架をタトゥーを胸板に施し、スパッツのようなトランクスを履いて裸足だ。
オレも同じようにスパッツタイプのトランクスにニーパッド、裸足だ。
柔術家は足関節技を得意としている。
レスリングシューズを履いていると、脚をキャッチされた際、アキレス腱固めやヒールホールドに極められやすいので、裸足にした。
互いに睨んだまま、目を逸らさない。
柔術家らしくしなやかな身体でバネがありそうだ。
試合形式は1ラウンド10分、2ラウンド、3ラウンドは5分という変形スタイルで、1分間のインターバルがある。
噛みつき、目潰し、急所攻撃、顔面への肘打ちの禁止、そしてバッティングによる出血の際はリングドクターがチェックして、傷口が深い場合はドクターストップとして試合を終了するというルールだ。
互いに各コーナーに戻り、マウスピースを口に入れた。
「チャンスがあれば初回から行け!」
セコンドのアドバイスに頷き、1ラウンドのゴングが鳴った。
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