I Love Baseball 主砲の一振り 6

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8月灼熱の後半戦

秘策

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【3番レフト唐澤。背番号1】


天才の後にまた天才が登場する。


右の天才スラッガー白石が倒れても 左の天才スラッガー唐澤がその後ろで立ちはだかる。


左対左の対決だが 唐澤は左ピッチャーを苦にしない。

しかも 那須川との通算対戦成績は46打数11安打 打率.239と那須川が抑えているように見えるが
11安打のうち 3本塁打の全てがグランドスラムだ。

那須川自身も唐澤を抑えているとは思っておらず
むしろ大事な局面で打たれているというイメージが強く残っている。



「シンドいなぁ~…一難去ってまた一難かよ」


ボールを手にブツブツ言う那須川の額はうっすらと汗が滲んでいる。


試合開始からまだ8球しか投げてないのだが
白石と唐澤の2人を相手にするのは容易ではないという事だろう。


白石同様 力感の感じられないフォームで隙だらけに見えるが 瞬時に全身の力をバットに集中させて振り抜く打球は目にも留まらぬ速さでスタンドへ叩き込む。


「アイツ、大丈夫かな」


外崎が那須川の様子を見る。


「ピッチャーもイヤだろうが、配球を組み立てるキャッチャーだってイヤなもんだぜ…お前らを相手にするのは」


「コッチだって、日本一のキャッチャーとトップクラスのピッチャー相手にするのはイヤですよ」


そう言うとバットを寝かせ気味に構えた。


(コイツのウィークポイントは外角低めの落ちる変化球…でも、そこで勝負するまでのカウントをとる球をどうするか?)


外崎の頭脳がフル稼働する。


「…ウダウダ考えてもムダだな。ヘタな小細工は止めて、真っ向勝負だ」


強気のリードで挑む。


そのサインを見た那須川が頷き 初球を投げた。

「インハイのフォーシーム…」


「…打ってみろよ」


唐澤の脳裏にインハイのストレートが閃いた。


スピンの効いたボールがインハイへ迫り来る。


「クッ…」

唐澤は素早くバットを合わせたが 予想以上にノビがあって差し込まれた。



ガツッと根っこに当たったボールは転々とサード真正面へ。


比嘉が軽快に捌いて一塁へ送球。


「アウトっ!」


「ホッ…助かったァ~」


安堵の表情を浮かべた那須川だが 額には大粒の汗が流れている。


僅か初球で仕留めたが 並のバッターを相手にするよりも遥かに疲弊する。


「よくやった」


「ハハ、ラッキーっす」


外崎とハイタッチを交わしベンチに下がった。


1回の表 Glanzの攻撃は三者凡退で終了した。












1回の裏 99ersの攻撃。


マウンド上は13試合目の登板となるエース中邑。


今シーズンは7勝5敗 防御率4.03


片山 降谷の2人が好調なのに対し エースナンバーを背負う中邑が今ひとつ波に乗れない状態だ。


160を超えるストレートは鳴りを潜め 最速でも153km/hで回転数もイマイチ。


原因はオフにフォーム改造を行ったのだが 下半身の使い方が不十分で上体に頼った投げ方をしたせいでボールのキレが悪くなった。


キャンプでは元のフォームに戻そうと必死で投げ込みをしたのだが 一度狂ったフォームはそう簡単に直るハズが無く 今シーズンの不調を物語っている。


「中邑さん、今日は変化球主体じゃなく、ストレートでドンドン押すピッチングにしましょう」


マスクを被るのは正捕手の毒島ではなく 成長著しい滝沢だ。


「ん?あぁ…サインはお前に任せるよ」


投球練習を終えたのだが 指の引っ掛かりがイマイチなせいで何度も首を傾げる。


「ダメですよ、エースがそんな顔しちゃ!いくら不調でも、エースはエースなんですよ」


「分かってるよ、そんな事は」


「どんな時でもオレはエースなんだ!って顔で投げてください。オレが上手くリードしますから」


「ホントかよ?お前こそ大丈夫なんかよ?」


すると滝沢は胸を張って答える。


「ヘヘッ、それが大丈夫なんですよ。まぁ、見てくださいって」


ニヤッと笑って守備についた。



【1回の裏99ersの攻撃は…1番ライト城戸。背番号7】


99ersのリードオフマン城戸がゆっくりと打席に入り
バットでスパイクの底に付いた土を叩いて落とす。


中邑が一番苦手にしているバッターは城戸だ。


通算の対戦成績は52打数23安打 6本塁打とカモにされている。

しかも塁に出ればモーションを盗まれ 12回盗塁を試みて11回成功している。



そんな城戸相手に滝沢はどのようなリードをするのか。


滝沢がサインを出した。


中邑は小さく頷き スリークォーターからの二段モーションで第1球を投げた。



(高い…)


アウトコースやや高めのストレートだが 城戸は余裕で見送る。


「ストライクワンっ!」


「ウソっ!!今のがストライクかよ?」


城戸が思わず声を上げた。


今のは明らかに高いと思い バットを出さなかったのだが それをストライクと判定されればおかしいだろと抗議をしたくなる。


しかし 主審の判定は覆らずワンストライクとなった。



(クククッ、今のは誰が見てもボールだよな)


滝沢は心の中でほくそ笑む。


それもそのハズ 滝沢は上手くフレーミングでボールをストライクにしたのだ。
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