I Love Baseball 主砲の一振り 6

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8月灼熱の後半戦

手も足も出ず

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【2番ショート…白石。背番号5】

場内が大いに沸いた。

Glanzに加入した白石の初打席だ。

ゆっくりと歩を進め 屈伸を二度 三度と行ってから右打席に入った。

マウンド上では正捕手の外崎が駆け寄り 畝の様子を伺っている。


「今のはオレのリードミスだ…申し訳ない」


「気にするな…アレはオレの投げ方が悪かっただけだ」

畝は気落ちする様子は無く むしろ笑みさえ浮かんでいる。


「だが、次は白石だ。初回からコイツを塁に出してはいけない」


「リョーかいっ!このバッターには変な小細工は必要ない」


今年の両者の対決は 11打席の2安打。

そのうち3つは三振に抑えている。


「頼んだぜ」


そう言うと外崎はマスクを被り直し 本塁に戻った。



「プレイ!」


主審の手が上がり試合再開。


バットをやや上段に構え 頭の後ろにグリップを持つフォームだが力感が無く 滑らかなスイングで鋭い打球を飛ばすのだが弾道はやや低く 弾丸ライナーで広角にスタンドインさせる。


選球眼も良く ボール球には決して手を出さないのが白石の持ち味だ。



外崎の頭の中で配球を組み立てる。


(まだ初回だし、コイツを歩かせたら次は唐澤だ…
右と左の天才コンビってのは、かなり厄介だな)


一先ずこれで様子を見ようとサインを出した。


サインを覗き込む畝が頷き ノーワインドアップから初球を投げた。


インコース低めのギリギリを攻める球だ。


白石は初球から振っていった。


「っ!…」


ボールはシュート回転しながら手元で僅かに沈んだ。


バットが空を切る。


「ストライクワンっ!」


141km/hのツーシームが外崎の構えたミットに吸い込まれた。



「ツーシーム…」


「危ない、危ない…これがフォーシームだったら、早くも2点取られてたところだ」


外崎はボールを捏ねてから畝に返球した。


「畝さんって、ツーシーム投げてましたっけ?」


白石との対決では一度もツーシームを投げたことが無かった。


「だって、メジャーの第一線で活躍してたんだぜ?
このぐらいは投げれるだろう」


外崎はさも当然という表情をしている。


「引き出しの多い人だな…」


「キミの様な天才を相手にするんだ。引き出しが多くなきゃ、太刀打ち出来ないからね」


「オレは天才じゃないすよ…ホントの天才は、後ろに控えている人ッスよ」


白石の後ろには ネクストバッターズサークルで視線を送る唐澤の姿が。


「あぁ…彼も天才だが、勢いがある分、キミの方が要注意だよ」


現段階では唐澤よりも白石の方を抑えているのだが
白石の方が怖さを感じる。



外崎がサインを出す。


すると畝は首を振った。


次は違うサインを出した。


畝は一瞬間があった後に頷いた。


躍動感のあるフォームから2球目を投げた。


今度もインコースだが 初球よりも身体に近いコースだ。


当たる…白石は仰け反ったが ボールは鋭角的にスライドしてベースを掠めた。


「ストライクツーっ!」


「…フロントドア?」


「フフ、ご名答」


一歩間違えればデッドボールになりかねないコースだが コントロールの良い畝ならではのフロントドアだ。


たった2球でツーストライクと追い込まれた。


(内、内と攻めて、次は外だ…)


1球外す事は無いと予想した。


バットを上段に構え グリップを持つ手を緩めたり 強く握ったりしてタイミングをとっている。


その様子を見て外崎はサインを出した。


畝は頷き 帽子を被り直した。


(間違いない、次はストレートで勝負してくるハズ)


白石は唐澤の様に球種が閃いてくるタイプではなく
配球を読んで打つタイプだ。


同じ天才でも真逆のスタイルでバットを振る。



やや速いモーションから3球目を投げた。


(腕の振りは間違いなくストレートだ)


白石はスイングの始動を開始した。


「なっ…」


だが畝が投じたボールは 緩く弧を描きながらフワッとミットに吸い込まれた。


「ストライクスリーっ!」


「スローカーブ…しかも、全く同じ腕の振りで」


畝はストレートと同じ腕の振りで緩いカーブを投げた。


「驚いたねぇ…まさか、こうも上手くいくとは」


リードをする外崎はニヤリと笑みを浮かべた。



「ハハ…スゲーな、ヤッパリ」


そう言うと バットを手にベンチに戻った。


Glanzに移っての初打席は三球三振に終わったが
このままやられっぱなしというワケにはいかない。
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