I Love Baseball 主砲の一振り 6

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7月 オールスターゲーム

戻ろう

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しばらくは漠然とテレビを観ていた。


「アンちゃん、野球に興味あるか?」


常連の一人が白石に聞いてきた。

頭頂部はキレイに毛が無く 強面な顔だが笑顔を絶やさない。


「えぇ、まぁ…少しぐらいは」


白石は言葉を濁す。


「じゃあ、このホームラン競争どっちが勝つと思う?」


「ホームラン競争ですか?…そうですね、鬼束選手と言いたいところですが、結城選手は上手くバットにボールを乗せて7分の力でスタンドに運んでます。
パーフェクトで結城選手が優勝するでしょう」


白石なりの分析をした。


「ホントかよ、アンちゃん!どう見ても鬼束の方が有利だろ?」


「アンちゃん、もし鬼束が勝ったらビール一本ご馳走してくんないか?」


もう一人の常連がビールを賭けようと言う。


黒髪と白髪が入り混じった短髪に 分厚い胸板を誇示するかのような白のTシャツ姿でコップの中のビールを飲み干した。


「ビールですか…いいですね、もし自分が勝ったら何をご馳走してくれますか?」


「アンちゃん、酒飲まないのか?」


「えぇ、実は一滴もダメでして」


白石は下戸だ。

ノンアルコールのビールでさえも飲めず 口に近づけただけで酔っ払う程だ。


「何だ、飲めねぇのか…じゃあ、アンちゃんが頼んだ料理をオレらが払うってのはどうだ?」


つまり 白石が注文したみそラーメンとチャーハンの代金を支払うというのだ。


「いいんですか?じゃあ、その勝負乗った!」




画面では結城が淡々とした表情で次々とボールをスタンドへ運ぶ。


飛距離は無いが 上手くバットにボールを乗せて最短距離で振り抜く技術は安打製造機と呼ぶに相応しい。


「オイオイ、こりゃひょっとしたらパーフェクトあるかもよ」


常連の一人が画面を食い入るように見ている。



ここまで結城はミスショットが一度もない。


8球目をレフトスタンドへ流し打った。


「スゴいな、やっぱり…」


白石も画面に釘付けだ。


「はい、お待ちどうさま!みそラーメンとチャーハンね」


店員がみそラーメンとチャーハンをテーブルに置いた。


「これは美味そうだ」


白石はみそラーメンに箸をつけた。


「美味い、みそラーメンってこんなに美味かったんだ」


「何だ、アンちゃん…オメー、コッチ(札幌)の人間じゃねぇのか?」


札幌と言えばみそラーメンのメッカでもある。


白石は天海の様に食生活にもこだわっている為 ラーメンはプロに入ってから殆ど口にしていない。


「あぁ~、そうなんですよ…実は東北の秋田出身で…」


「あっ、東北で思い出したけど、白石ってホームラン競争に出てなかったな」


「そう言えばそうだな…あれだけ打つバッターがホームラン競争に出ないなんて、変だな」



白石は一瞬「ヤバい」と思ったが バレる事は無いだろうと思い 何食わぬ顔でラーメンをすすった。



画面の中では結城が9本スタンドへ運び 残り1球となった。



「へ~、ここまでノーミスできたけどよ、流石に最後の1球は打てないだろうよ」


「これ、同点で終わったらどうなるんだっけ?」


ホームランダービーは同点の場合 サドンデスでの決着となる。


(気負いがまるで感じられない。これは間違いなく結城さんがパーフェクト達成するだろう)


非常に落ち着いた表情でバットを構えている。


そして最後の1球を鋭く振り抜き 打球は一直線に右中間スタンドへ飛び込んだ。


「ホントにパーフェクト達成したよっ!」


常連が思わず声を上げた。


「スゲーな、アンちゃん!オメーの言う通り、結城がパーフェクト達成したじゃねぇか!」


「アハハハ、まさか予想が当たるなんて」


白石は当てずっぽうに答えたワケじゃない。


結城のバッティング技術と落ち着き払った表情を読み取ってパーフェクトを予想した。



「でもよぉ、もし白石がホームラン競争に出てたら、結城じゃなく白石が優勝しただろうな」


「あぁ、どうでしょうかね?て言うか、ウォーリアーズのファンじゃないんですか?」


白石は訊いてみた。


「そりゃ、勿論ウォーリアーズのファンだけど、白石は一番好きな選手だぜ!
出来ればコッチ(ウォーリアーズ)に来てくんないかなぁ」


「白石が来たら、ウォーリアーズは絶対優勝出来るしな」



ファンの声を直接聞いて白石は複雑な気持ちになった。


足に不安を抱えて出場を躊躇った挙句 上野監督と口論になって球場を飛び出してしまった。

そんな白石の勇姿を見たいというファンは大勢いる。


今日は年に一度のオールスターゲーム。


それなのに オレはこんな所で何をやってるんだと…


(戻ろう…今ならまだ間に合うかもしれない)


白石は立ち上がり テレビに夢中になってる常連達の分の料金も払い 店を出た。


そして深々と頭を下げ 再び球場へ向かった。
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