I Love Baseball 主砲の一振り 6

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6月 ・7月 ペナントレース再開

喉から手が出る程欲しい選手

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さて試合の方は ノーアウトランナー一塁 三塁という絶好のチャンスを迎えた。


【3番ファースト徳川。背番号23】


ネクストバッターズサークルから徳川が打席に向かって歩を進める。


今年は序盤から不調に喘いでいたが ゴールデンウィーク明けから徐々に調子を取り戻し .276 11本 51打点という成績。


マーリンズ内野陣はゲッツー狙いで前進守備を敷く。


一方一塁側のGlanzベンチでは ヘッドコーチの勅使川原が中田の背後に立ち 小声で話しかけた。


「なぁ、中…アイツがウチに来たら、ぶっちぎりで優勝出来るだろうな」


「…っ!何だ、ビックリすんじゃねぇかよ!幽霊じゃねぇんだから、背後て小さい声出すなよ」


「あんまり他の連中には聞かれたくない話なんだよ。で、どう思うよ?」


「どうって、誰の事を言ってんだよ?」


すると勅使川原はショートの守備についてる白石を指した。


「あの天才ボーヤがウチに来てくれりゃ、唐澤との天才コンビで簡単に優勝出来ちまうんじゃないのか」


「バカ言うな!マーリンズが白石を出すワケ無いだろうが」


「いや~、そうとも限らないんだぜ?実はな…」



仲の良い記者から聞いた話によると マーリンズは去年まで指揮を執っていたテリー監督が家庭の事情により勇退。

後任にはマーリンズのOBで通算437盗塁で4度の盗塁王に輝いた上野 順平(うえのじゅんぺい)が就任。


テリー監督の時は「プロは結果が全て。結果さえ出してくれれば、細かい事を言うつもりは無い」という結果主義者だった。


白石はテリー監督が見出してファームから一軍に引き上げ 白石はそれに応えるべく結果を出てきた。

その甲斐あって 白石は今や日本を代表する天才スラッガーとしてマーリンズ優勝の原動力となった。


しかし 新監督の上野は頭ごなしに自分の考えを押し付けるタイプで 言わば昔の精神主義の人物。

何かにつけて 「オレが現役の頃は…」 が口ぐせで
とにかく自分の言うことは絶対 逆らう事は許さんという独裁監督。

それまでおおらかな雰囲気だったチームが一変して暗く沈んだ雰囲気に包まれた。


そんなやり方をすれば選手の反感を買うのは明白。


一昨年 昨年と25本塁打100打点を記録した助っ人のフレッド・ハドラーは開幕して約半月程で
「上野サン、ノーサンキューね」
と言い残し帰国してしまった。

その3日後には コンディショニングコーチの立川が練習法を巡って上野と対立。


「やってらんねぇわ」と捨て台詞を吐き マーリンズを退団した。

チームは辛うじてネプチューンリーグの東地区首位に立っているが 上野の采配を全く無視して 勝手に野球をやった結果 何とか帳尻を合わせたもの。


そんなチーム状況で白石のフラストレーションは溜まる一方。


親しい人物には「あの人が来年も監督をやるなら、オレは他でプレーしたい」と洩らしている。





「ほぉ~、こりゃまた監督をやっちゃダメなヤツが監督やってるんだから、一番悪いのは上野を選んだフロントだろ」


「まぁ、そうなんだが…」


勅使川原は帽子を取って頭をボリボリ搔いた。


「ホントに白石はチームを出たがってるのか?」


「上野が来年も監督ならば、100パー退団するつもりらしいぜ」


「100パー退団する…か」


中田は頭の中で白石が加入した時の状況をシミュレーションした。


(白石が入れば、石川は何処を守る?セカンドは筧がいるし、サードは来年になれば吉岡が復帰する。
内野がダメなら外野…いや、石川を外野に転向させるのは勿体ない)


「石川とポジションが被るじゃねぇか。
獲りたいのはやまやまだが、それで石川がどっかに追いやられるのはちょっとなぁ…」


中田は石川のポテンシャルをかなり評価している。


白石と比較すると劣って見えるが 石川もリーグを代表するショートストップで走攻守どれをとっても一流だ。


「いいじゃねぇか、そんなもん。獲ってから考えればいいんだし、2人を競わせれば相乗効果でいい結果になるかもしんねぇし」


「う~ん」


勅使川原の言うことも一理ある。




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