I Love Baseball 主砲の一振り 6

5月・インターカンファレンス 交流戦

3人揃って欠場

この日は本拠地 さいたま S Villageで西地区1位の名古屋99ersとの3連戦が始まる。

のだが ベンチには監督の中田はおろか ヘッドコーチの勅使川原の姿が見えない。


それもそのはず 2人は試合そっちのけで榊と合流して長野県松本市のニックスフィールドで試合を観戦していた。

この日ニックスは札幌ウォーリアーズとの一戦が行われており 試合後に山田GM兼任監督と会食をする予定だ。


「う”ぅ～、寒いっ！」


ニックスフィールドは標高が高く天候が変わりやすい日本アルプスにある為 5月と言えど日が暮れると気温が一気に下がる。


今日は晴天だったせいか 開閉式の屋根は稼動しない。


「こうも寒いと、手ぶらで観戦出来ねぇよ」


勅使川原は売店で購入した熱燗のワンカップを飲んで身体を温める。


「あっ、テッシーいつの間にポン酒飲んでんだよ」


榊はこんなクソ寒い日にキンキンに冷えたビールを飲んでいる。



「いいよなぁお前らは酒が飲めて…」


下戸の中田はホットの缶コーヒーで悴んだ指先を温めている。



「早く終われよったく…こんなに寒くて、よく試合なんかやるよな」


「交流戦が始まれば、ここで試合しなきゃなんないんだろ？イヤだな～、こんなクソ寒い所で試合するのは」


「その時は今日みたいに休めばいいじゃん」


無責任な首脳陣だ。


試合はニックスリードのまま 7回の表が終了して
1対4のスコア。


「この調子じゃ、ルイスは一軍からお呼びが掛からないだろうな」


新外国人のマークはこの日ソロホームランを含む 3安打2打点の活躍。


現在ニックスの外国人選手はマークの他に ファーストを守るリック 投手では来日6年目のシャムロックと中継ぎエースのローズが一軍登録している。

外国人枠の関係でルイスはファームで結果を出すしか無いのだが とても今の段階では入れ替わりで昇格するような気配は皆無に等しい。



「可哀想にな…外国人枠なんて足枷があるせいで、ルイスは一軍に上がれないとはな」


「それもこれも、山田のせいだろ」


「GM兼監督って、早い話がコイツのワンマンチームって事だろ」


就任2年目となる山田兼任監督は 生え抜きの日本人選手よりもメジャーで実績のある助っ人を優遇するクセがある。


「ルイスはメジャー経験あるんだっけ？」


「いや、確か無いハズだが」


ルイスはメジャー経験が無く 3Aで試合していたところをニックスの駐米スカウトの推薦で入団した。










試合は2対6でニックスが勝利した。


「あ”ぁ、寒いっ！ようやく試合終了かよ」


「ったく、風邪ひくぞこんなんじゃ」


「さぁ、我々も引き上げよう」


3人は球場を後にし 繁華街にある個室焼肉屋で夕飯を食べながら山田が来るのを待っていた。



「失礼します…お連れの方がお見えになりました」


店員の案内で山田が到着した。


「遅くなって申し訳ない…」



仕立ての良い紺のスーツを着こなし メガネ越しから鋭い眼光を覗かせる。

神経質そうな顔立ちに白髪混じりの髪は七三に分かれていて 整髪料でガチガチに固めている。



「おぅ！悪いな、試合が終わったばかりだというのに」


「お疲れさん、先にやってるぜ」


「何飲むんだ？最初はビールか？」



山田は中田の隣に座った。


「いや、結構。そんな事より、相談とは何だ？」



単刀直入に聞いた。


「…その前に1杯どうなんだ？飲めるんだろ？」


「今日は飲む日ではない。
それより、3人揃って試合そっちのけで松本まで来るんだから、のっぴきならない用件だと思うんだが」


中田が話を切り出す。


「ルイスを飼い殺しにするなら、コッチによこしてくんないかな？」



「ルイス？その為にわざわざコッチまで来たと言うのか？」


山田は呆れた顔をした。


「へへっ、オレ達ゃ三位一体、何をするにも一蓮托生の間柄だからな」


「何なんだ、それは？」


山田は訝しげな表情をする。


「あぁ、コイツ（榊）の言うことを真に受けなくていいから。
要はオタクんところのルイスをコッチにくれないか？って相談なワケだ。
勿論、タダでとは言わない！
金銭でも、交換トレードでもそっちの要望は全て飲むつもりだ」



「ちょ、ちょっと待てよ！交換トレードとなれば、誰を出すつもりだよ！」


榊が慌てる。


「ほぉ、交換トレードか…面白い。で、そっちは誰と交換するつもりなんだ？」


待ってましたとばかりに勅使川原が口を開く。


「そっちのルイス1人に対して、こっちは七海と藤村の2人だ」


控えの捕手でもある七海と 櫻井前監督が最高のリードオフマンと評した藤村の2人を交換要員に挙げた。


「ふむ…七海と藤村か。確かに、今ウチは正捕手と俊足の外野手、つまり1番打者がいない状態だ…
本来ならば、ルイスが適任なんだが…何せ、外国人枠の関係で一軍登録出来ない…その点、藤村は日本人だし彼が入れば1番打者が埋まる。
オマケに七海は控えのキャッチャーだが、リード面は決して悪くない」


「だろ？ウチらはその点を考慮してこの交換要員を出したんだ」


山田兼任監督はどうでるか？