快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

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シリアルキラー

シリアルキラー達也

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「随分と遅いな。こんな時間まで、何してた」

一階のリングの中央で、達也が帰って来るのを待っていた。

リングの脇には、無数のロウソクの炎がソンヒョクの身体を照らしていた。
まるでスポットライトの様に。

ソンヒョクは上半身裸に、迷彩式のカーゴパンツに編み上げの安全靴、という出で立ちで仁王立ちしている。

「どこって、散歩だよ、散歩。中々寝付けなくてな…」

達也は入り口のパイプ椅子に座り、タバコに火を点け、白い煙を吐き出した。
雲の様にゆらゆらと、灯りの無い小屋の中で達也の身体を包んだ。

「こんな夜遅くに散歩か…しかも、血の匂いプンプンさせやがって」

ソンヒョクは知っていた。達也は仕事以外でも殺しをしていた事を。

「ホームレスバラバラ殺人事件、女子大生レイプ首切断事件、一人暮らしのOLが室内で絞殺後死姦…数え上げたらキリがねえ。仕事以外で殺しはするな、と言ったはずだ、オレは」

達也は手当たり次第にターゲットを見つけては、惨殺した。

ホームレス以外は、全て女性が被害を受け、レイプした後に首や手足を切断。
一人暮らしの女性宅に押し入り、絞殺した後、収まりのつかない肉棒は遺体と化した女性の性器の中に挿れ、ザーメンを吐き出していた。

死姦…死んだ相手を犯す、鬼畜の所業だ。

「どうにも、収まりがつかねえんだよ…とにかく誰でもいいから壊してぇ…殺したくてウズウズしてんだよ、こっちは。
仕事の依頼なんざ、待っちゃいらんねぇんだ、オレは。
殺したくて殺したくて、もう自分でも抑える事が出来ねえ…ソンヒョク、アンタだってそんな時あるだろ?」

返り血の浴びたパーカーを脱ぐと、床に放り投げ、地下室に入ろうとした。

「今までの事は目を瞑ってやる。その代わり、今後一切、人を殺める事はするな」

ソンヒョクは達也に最後の忠告をした。
これ以上、達也の好き勝手な殺しを見過ごすワケにはいかない。
殺し屋じゃない、達也のやってる事は通り魔の無差別大量虐殺に過ぎない…

「おいおい、オレの楽しみを奪うんじゃねえよ。同じ人殺しの分際でオレに説教かよ、なぁ?」

(…コイツ、完全にイカれちまった。この場で消すしか無い)

殺戮を楽しむ達也を、このまま野放しにしておくのは危険だ。
ソンヒョクは、今ここで達也を消すしか無い。
それもこれも、この道に誘った自分が悪かったのだ、と。
達也を葬った後、この仕事を辞めよう…そう考え、達也が帰ってくるのを待っていた。

「お前のやってる事は通り魔と一緒だ…そんなに人を殺したきゃ、オレが相手になってやる。
さぁ、リングに上がってこい!何でもありのノールール、文字通りのデスマッチだ!
これなら文句は無いだろ」

ソンヒョクは全身から、殺気を漲らせていた。

「そいつぁ面白えな…ノールールってこたぁ、何使ってもいいんだよな?」

達也はリング下で、銃口をソンヒョクに向けた。しかもサイレンサー付きの拳銃だ。

「…テメー、いつの間に銃なんて手に入れた」

ソンヒョクは銃を持っていない。
となると、別のルートから仕入れてきた。
しかも、このコリアンタウン以外の場所で。

「ノールールだろ?オレはこれで殺り合うぜ…アンタ銃向けられても平気なんだろ?だったら、これで殺ろうぜ」

狂喜に歪んだ顔、人を殺す事に悦びを得たサイコパス。
達也は殺人マシーンと化していた。

「どうした?銃を向けられてビビったか?」

ソンヒョクは身構えた。
達也の構えた銃口より、指先、腕や肩の動きで引き金を引く瞬間を見分けられる事が出来る。

「死ぬ前に一つだけ聞きたいんだけどよ。
アンタ、イルボンの先生殺したって言ったけど…何で殺した?」

達也は銃口を向けたままだ。
ソンヒョクに殺しのスキルを伝授したイルボンのソンセンを何故殺したのかソンヒョクはその事については一切を語らなかった。

「聞いてどうする」

「だって、聞かないで殺したら後で後悔するじゃん?だから今聞きたいんだよ」

ソンヒョクは重い口を開いた。

「ソンソンはこのコリアンタウンに来た…ソンセンは日本のヤクザに雇われた殺し屋だった…日本のヤクザは、このコリアンタウンを牛耳ろうとした。
だが、オレの両親をはじめとする同胞達は、それに反対した。
ここに住んでる同胞達のほとんどは、在日のコリアンマフィアだ。イルボンの来る所じゃない、帰れ、と。

だが、ヤクザはこの場所がどうしても欲しかった…ここでカジノや麻薬の密売等行うにはピッタリの場所だという事らしい…

そして、反対していた同胞の何人かは、見せしめの為に殺された…その中にオレの両親もいた。

だが、結局ヤクザはこの場所を諦めた。同胞達のマフィアがヤクザの事務所に殴り込みに行って、組長と若頭を仕留めた。
以来、ここはイルボンの立ち入りが出来ない場所となって、今も同胞達だけの街となっている。

マフィアから、お前の親を殺したイルボンを始末しろ、と言われた。
オレにしてみりゃソンセンだし、親を殺した仇でもある。だが、同胞達の意見には逆らえない…だからこのリングで、正々堂々と相手の息の根が止まるまで闘いをしようと…」

ソンヒョクにとって、イルボンのソンセンは恩師であり、仇でもあった。
なのに何故、このコリアンタウンに来てソンヒョクに殺しのスキルを伝授したのだろうか。

「で、そのソンセンは目の敵にされてるのに、ここに来てアンタに殺しを教えたのか…何しに、ここへ来たんだ?」

「それは分からない…ただ、ソンセンは仕方なくヤクザに雇われた殺し屋だったと言ってた…どうしても金が必要で、それでヤクザの依頼を受けたと」

「じゃあ、元々殺る気は無かったのに、金の為に殺しをしたってワケか。で、ソンヒョク。そのイルボンの名前は?」

「…沢渡、沢渡龍三…」

ソンヒョクの口から、思いもよらない名前を聞いた。

「何?」

沢渡って…あの沢渡か?すると、沢渡の親父が、イルボンのソンセン?

達也は確信した。

「ふっ…ハハハ!ありがとよ、ソンヒョク!お陰でヤツの過去が分かったよ」

「…どういう事だ?」

「沢渡敬一。かつて、オレの下で働いてた副社長!
ソイツの親父が、アンタのソンセンって事だ」

「…まさか、お前と繋がりがあったのか?」

次の瞬間、達也は周りのロウソクの火に息を吹きかけ、消した!

【バシュッ】

サイレンサーから、銃弾が放たれた…

「…くっ、ここまで揺さぶっておいたのに…まさか、刃物を持ってたとは…」

ロウソクの火を消したと同時に撃ったが、ソンヒョクの投げたナイフが、達也の右肩を貫いた。

…リングの上では、頭を撃ち抜かれたソンヒョクが倒れていた。

一瞬の判断で達也は命を食い止め、ソンヒョクは命を落とした…

達也は右肩に刺さったナイフを抜いた。

「クソっ!肩をやられちまった…」


右腕はダラーンと下がったままで、血が指先まで伝ってポタポタと床に垂れていた。

「…じゃあな、ソンヒョク。お前のお陰で、一つ情報をゲット出来たよ。安心して地獄へ堕ちろ!」

達也は右肩を押さえたまま、小屋を出た。

リングの上では、脳漿を飛び散らせ、赤く染まったマットでソンヒョクが倒れていた。

達也とソンヒョクの関係はここで終了し、達也はコリアンタウンを出た。
しかし、ナイフで刺された後遺症により、右腕が頭上まで上がることが出来なくなってしまったと同時に、コリアンマフィアから狙われるようになり、身を潜めながら、沢渡と亮輔を消す機会を伺っていた。
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