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不毛な同棲生活

コイツ、かなり異常だぞ!

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「おい!この部屋ヤベーな。なんつうか、フツーじゃねえよ」

山下がナツの家に入ると、開口一番、部屋の異常さを感じたらしい。

「おい、タバコは吸うなよ!一発でバレるからな」

ちょっとの匂いでも、ナツは敏感に察知する。

「吸えねえのかよ、ったく」

オレはナツと一緒に住んだ経緯から、現在に至るまでをヤツに話した。

「…おい、相当ヤバくねえか?それに妊娠ってのもウソ臭ぇな」

「だろ?とにかくオレは、常にナツに監視されてんだよ」

と言った途端、LINEの動画通話の着信が鳴った。

「ナツからだ。おい、映らないようにしろよ」

山下に注意して、オレは電話に出た。

【もしもし、亮ちゃん?今どこ?】

「ほら、見えるだろ。ちゃんと部屋にいるよ」

オレはスマホをあちこちの方向に向けながら、ナツの部屋を映していた。

山下はその都度、映らないように身を隠していた。

【良かったぁ、家にいるんだね】

「どこにも出てないってば」

【うん、分かった。亮ちゃん絶対に外出ちゃダメだからね】

「はいはい、それより仕事だろ?いいのかよ、電話なんかして」

【ちょっとなら大丈夫。じゃまた連絡するね】

ナツは電話を切った。

「こんなのが、しょっちゅうなんだぞ」

山下も、ナツの異常さに気づいた。

「何だよこれ?こんなの毎日やってんのか?」

「毎日どころか、一時間に何回もかけてくるんだぞ、精神的に参るよ」

こんな事されりゃ、誰だって精神的に参ってしまう。

「見て分かる通り、テレビも無いし、おまけに部屋でスマホを弄ることすら無いんだぞ、どう思う?」

「お前、今からバックレた方がいいかも…かなりヤベーぞ!」

出来る事ならそうしたい。
だが、何かそれが出来ない気がしてならない。

もしかして、何か仕掛けてきそうな胸騒ぎがする。

「で、あの殺された女なんだけど、28才とか言ってたよな?」

「ニュースじゃ、行方が分からなくなって、ここから、かなり離れた田舎の山の中で、手足切断されて殺されたとか言ってたぞ」

「手足切断?惨い殺し方するな…」

「もしかして、犯人ナツじゃねえか?」

オレもそう思った。だが、ナツは仕事以外は四六時中オレと一緒だから、その線は薄いだろう。

「そうだ、思い出した」

「ん、何を?」

山下が何かを思い出したみたいだ。

「あの日、居酒屋の時な。あれからカラオケに行くって言ってろ?」

「あぁ、オレ金無いから帰った時だろ?」

「そうそう、で、オレが彼女とあの殺された女と二股かけてバレたって言ったろ?」

よくもまぁ、そんな相手を一緒に連れて来たもんだ、コイツは。

「お前、それで豚に出ていけって言われて、オレんとこに来たじゃねえか」

「だから豚じゃねえっ!で、バレた時に彼女とあの女…ユキな、その二人が揉めたんだよ」

「そりゃ一緒にいたらバレるだろ、フツー」

「まぁ、そうなんだが…でナツもそこにいて二人の仲裁に割って入ったんだよ」

「うん、で?」

「そん時、ユキがナツに【うるさいな、この整形女が】って言ったんだよ」

「整形?」

「多分、興奮して口に出してしまったらしいんだけど、ナツは【いい加減にしなさい!】って怒って、ケンカは収まったんだけどな」

「整形女ねぇ、あの殺された女とタメなら、間違いなく28才だな」

やっぱり整形なのか?

「今思ったんだけど、確かにナツとユキが並んで高校の時の同級生って言っても、誰も信じないだろうな。だって、ユキはそれほど美人じゃないけど、年相応な顔だぜ?おかしいのはナツの方だろ?あれで28才ってのがな…」

「でも、オレらには22だとサバ読んでたよな?」

全くもって謎だらけだ。
気になる事はもう一つある。

「もう一つ聞きたいんだけど」

「ん?何だ?」

「その殺されたユキとお前って、どのくらい付き合ってたの?」

「何だよ、オレを疑ってんかよ?」

「そうじゃねえよ、…あっ、また電話だ。おい、隠れろよ」

ナツからだ。

「もしもし」

【もしもしぃ、亮ちゃん?今どこにいるの?】

オレはまたスマホの画面を、部屋の隅々を映すようにした。

【やっぱり部屋にいてくれたんだぁ、嬉しい!じゃまた後で連絡するね】

そして、通話は終わった。

「おい、まだ10分も経ってないのに、こうやって連絡くるのかよ?」

「お前がそんなことされたらどうする?」

「そりゃ…逃げるしかないわな。で、さっき何て言おうとしたんだ?」

「あぁ、あの女とどのくらい付き合ってたんだ?」

「いや、そんなに長くは付き合ってないぞ。大体三ヶ月ぐらいかなぁ…で、それがどうかしたのか?」

「あの女は何処の出身か分かるか?」

「あの女って殺されたユキか?」

「そうそう、あの女。とても東京育ちには見えないんだけどな」

「それじゃ、田舎もん扱いじゃないか?」

「いや、そうじゃなく!ユキの出身地何処か分かるか?」

せめて、何処の出身か分かれば…

「何処だったか?」

「何か、聞いたことないか?地元の事とか?」

「んー…確か、関西の方に住んでたとか言ってたよな」

「関西?ナツは北海道だと言ってたぞ」

また着信だ。

【もしもし亮ちゃん?今どこ?】

無言で部屋を映した。

「分かったろ?さっさと仕事しろよ」

【はぁーい】

電話が切れた。

「コイツ、絶対おかしいよ!頭イッちゃってるぞ、おい!お前こんなとこにいると、殺されるぞ!」

「だから、あの女に聞きたかったんだよ…ナツの過去を」

「そうか。だけどアイツ、北海道だなんて言ったことないぜ。あ、そうだ!この前、大雪になっただろ?」

「あぁ、確かに。あの時はまだ、アパートに住んでた頃だよな」

「で、あの女が言ったんだよ。こんなに雪降ったの初めて見たって」

何だって?

「…てことは、北海道出身じゃないな」

「だろうな。年はサバ読む、出身地も違う。で、整形だとか言ってたからな」

「お前の言うとおりバックレるしかないかもな。そこで、一つ頼みたいんだが」

「何をだ?」

「沢渡さんに、ナツの素性を調べて欲しいって」

沢渡さんなら、何とかしてくれるに違いない。

「あの人にか…ん?待てよ。さっき、あんな感じで何度も電話かかってくるとか言ってたよな?」

「見たろ?あんな感じだよ、毎日」

「…売れっ子のキャバ嬢は、一時間に何度も電話してくる時間なんて出来ないぞ!」

山下は眉をひそめた。
確かに、頻繁に電話なんて、出来るはずがない。


「という事は、キャバクラで働いてるというのも…?」

「おそらく、ウソ臭えな」

何なんだ一体?

「おい、今から荷物まとめて、オレんとこ来いよ?ここにいない方がいい」

確かに、コイツの言うとおり、バックレた方がいいかも。

「このスマホ、着信拒否か、契約解除して他のスマホに切り替えるしかないぞ!この部屋、入った瞬間からヤバい感じがするんだよ」

「オレ、思うんだけど。どうも、ナツ一人じゃないような気がしてならないんだよな」

暫く沈黙が続いた。

「おい…」

山下が急に声をひそめた。

「何だよ、急に小さい声になって」

「シーっ!ここ、盗聴されてる可能性あるかも知れない」

「…マジで?」

「多分、その可能性が高いかもな」

と言う事は、この会話が全部筒抜けか…

よし、コイツの言うとおり出よう!

「待ってろ、今荷物まとめる…まただ、ちょい待って」

ナツからだ。

「何だよ、ちゃんと家にいるってば」

また部屋を映した。

【…亮ちゃん、今誰かいるでしょ?】

オレらは一瞬、凍りついた。

【出ていこうったって、無理だからね!】

ここを出よう!そして、山下の住んでるマンションにしばらく厄介になろう!

オレは電話を切り、電源をオフにした。 

「よし、じゃあ出よう!」

オレたちは玄関のドアを開けた。

「うわっ!」

山下が急に大きい声を上げた。

「何だ、どうした?…あっ!」

ドアを開けたら、ナツが立っていた。

悪夢だ…
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