139 / 189
不毛な同棲生活
真実を語る時がきた
しおりを挟む
二十代は、勉強に費やす時間を増やしてみようか。
…だが、頭では分かっていても、動く事すら、億劫になっていた。
身体中が常に怠く、薬の副作用なのか、ボンヤリとしている。
ナツは昼間寝ている事が多いが、モデルの仕事を掛け持ちでやっている。
モデルといっても、新聞のチラシにある、バーゲン品を着ているモデルだ。
本業はどっちなのか、聞いた事が無いが、モデルの方に興味がありそうな事を言っていた気がする。
確かにスラッとして、スタイルがよく、おまけに美形だ。
鴨志田もどちらかと言えば、地味な顔立ちだった。
姉妹でも、こんなに違うものなのだろうか。
それよりも、いつ言おうか、まだ悩んでいる。
ここへ来て、一週間が経つ。
とにかく、話すことが何もないのだ。
テレビの無い部屋で、ナツはパソコンで動画を観ている。
オレは何もやることが無く、ナツが休みの日は、一日中一緒にいるのが、苦痛で耐えられなかった。
月にニ、三回、心療内科に通院する時だけ、外に出て、後は部屋にこもっている。
ナツが仕事に出掛けて、一人の時は、このシーンとした部屋が心地よいが、ナツが帰って来た途端、部屋の空気が変わり、息苦しくなる。
オレはここにいたら、余計ダメになる、ナツにホントの事を言って、ここを出よう。
そのタイミングを伺っていた。
半月経った時、いつものように、ナツは仕事を終え、真夜中に帰宅した。
オレはナツが帰ってくるまで、起きている事にしている。
部屋に転がり込んできて、家主より先に寝るというのは、失礼だと思い、起きている。
ナツは帰って来ると、シャワーを浴びて、朝方に寝る。その時、オレもベッドに入って、睡眠導入剤を飲んで寝るのが習慣になっていた。
その時、ナツが唐突に言ったのは、「亮ちゃんて…ホントに童貞なの?」
どうやら、山下の言葉を真に受けてるみたいだ。
「童貞か…そうかもね。うん、童貞だ」
ウソは言ってない。何せ、この数年、女の身体に触れていないからだ。
童貞みたいなもんだ。
「えっ、どっちなの?」
ナツはガバッと上体を起こすと、背を向けているオレの身体に擦り寄せた。
「…何で、そんな事聞くの?」
普通の男なら、同棲し始めの頃は、毎晩のように飢えた獣のように、女の身体に何度も射精するだろうが、オレはハナっから、そのつもりはない。
「…だってさ。もう、一緒に住んで半月ぐらいになるんだよ?フツーだったら…するでしょ?」
…このタイミングで話した方がいいかも。
ナツの方に身体を向け、話を切り出した。
「もし、オレとお前がセックスしたら、近親相姦になるからだよ」
「何それ~、チョー、意味不なんだけど!マジウケる」
冗談だと思っているのだろう、笑っていた。
「実は、お前が探していた姉ちゃんの事なんだが…」
「えっ、お姉ちゃん?お姉ちゃんがどうしたの?」
ナツの表情が一変した。
「広瀬紗栄子から、鴨志田紗栄子になっていた。その客から、養子縁組になったという話しは本当の事だ」
ナツは言葉を失った。
「お前の姉ちゃんが大学生の頃、お前と同じ水商売のバイトをしてた時に、ある企業の常務が、姉ちゃんの事を気に入って、子供がいない、妻に先立たれた常務は姉ちゃんを養子縁組にしたんだよ」
「…何それ?ウソでしょ?いくら亮ちゃんでも、そんな変なウソつかないでよ!」
ナツは語気を強めたが、構わずオレは話を続けた。
「だけど、その養子縁組で父親になった男はやっぱり女に飢えてたんだろな…養子とはいえ、娘に手を出して、妊娠した」
「もう、いい加減にして!冗談でも言って良いことと、悪いことがあるでしょ!」
今にも泣きそうな顔をしている。だが、話を止めなかった。
「で、妊娠したはいいが、その常務は堕ろせと言った。でも姉ちゃんは生みたいと言って、中絶をしなかった。というより、もう中絶できるような状態じゃない程に、お腹の中の子供は胎内で育っていった」
「…何でそんな事、亮ちゃんが知ってるの?」
「いいから、黙って聞け!」
オレはナツに怒鳴り付け、黙らせた。
「常務は生んでもいいが、絶対に認知はしないと言ったらしい。その常務は以前、ヤクザをやっていて、そこの企業の社長から、裏の仕事を引き受けていた。
ヤクザから足を洗った時、社長は会社の常務として、迎え入れたという事だ」
ナツの顔はクシャクシャになり、涙を流していた。
「そこで常務は、社長に養子縁組の娘ができちゃったからどうにかならないか?と相談を持ちかけた。社長も常務には、色々と汚い仕事をしてもらったせいで、何も言えなかったらしいがな」
「…ちょっと。じゃ、お姉ちゃんには子供がいるの?今どうしてるの?」
ナツは激しく詰め寄った。
オレはナツの手を振り払い、更に話を続けた。
ここまできたら、最後まで話すつりだ。
「社長はある社員に目をつけた。かつて、社長の秘書兼愛人だった女と社内結婚した社員に話を持ち掛け、昇進する代わりに、生まれてくる子供の親になって欲しいと」
「…」
「その男も秘書だった女と結婚し、男の子が生まれたが、女は育児の合間に社長との関係を続けていた。そして旦那の方も、皮肉な事に、姉ちゃんと深い仲になっていった。当初はその社員との間に生まれた子供だと思っていたが、血液型でその男の子供ではなく、常務の子供だと判明した」
「…何よ、それ?お姉ちゃん利用されたの、その常務って人に?」
構わずオレは続けた。
「でも、結局はその男の子供という事で認知する代わりに、何人もの社員をごぼう抜きして、役職の肩書きが付き、あっという間に出世した。だが、家庭は最悪で、それが原因で離婚した。
なのに、何故か旦那の方が実の子供を引き取り、妻には姉ちゃんが生んだ子供を社長に頼まれ、という感じで、シングルマザーとして、その子を育てた」
「…何なの?何で、そんな汚い事してまで…」
「いいから、最後まで聞け、それまで黙って聞いてろ」
「冗談も程々にしてよね!それ以上言うと、ここから出てってもらうからね!」
「そのつもりで話してんだ、こっちは!」
「…ウソ?」
「ホントだ」
「…何で?何で亮ちゃんがお姉ちゃんの事知ってるの?何がなんだか全っ然分かんないだけど!」
少しずつ鼓動が速まってきた。
言わなきゃ…
「知ってるもなにも…その子供がオレだからだ」
「…っ!!」
ナツは頭の中が混乱した。
「いや~っ!」
ベッドの周辺にある、物を投げつけた。枕や目覚まし時計が壁に当たり、ジリリリリリ!と鳴った。
だが、この後の話の方が、ナツにとっては、もっと辛い話になるんだ。
少し息苦しくなってきた…
オレは頓服薬を飲んで、呼吸を意識的にゆっくりと息を吐いた。
この先の事を言うのは、ナツにもオレにも辛い話しだ…何でこんな運命なのだろうか?
…だが、頭では分かっていても、動く事すら、億劫になっていた。
身体中が常に怠く、薬の副作用なのか、ボンヤリとしている。
ナツは昼間寝ている事が多いが、モデルの仕事を掛け持ちでやっている。
モデルといっても、新聞のチラシにある、バーゲン品を着ているモデルだ。
本業はどっちなのか、聞いた事が無いが、モデルの方に興味がありそうな事を言っていた気がする。
確かにスラッとして、スタイルがよく、おまけに美形だ。
鴨志田もどちらかと言えば、地味な顔立ちだった。
姉妹でも、こんなに違うものなのだろうか。
それよりも、いつ言おうか、まだ悩んでいる。
ここへ来て、一週間が経つ。
とにかく、話すことが何もないのだ。
テレビの無い部屋で、ナツはパソコンで動画を観ている。
オレは何もやることが無く、ナツが休みの日は、一日中一緒にいるのが、苦痛で耐えられなかった。
月にニ、三回、心療内科に通院する時だけ、外に出て、後は部屋にこもっている。
ナツが仕事に出掛けて、一人の時は、このシーンとした部屋が心地よいが、ナツが帰って来た途端、部屋の空気が変わり、息苦しくなる。
オレはここにいたら、余計ダメになる、ナツにホントの事を言って、ここを出よう。
そのタイミングを伺っていた。
半月経った時、いつものように、ナツは仕事を終え、真夜中に帰宅した。
オレはナツが帰ってくるまで、起きている事にしている。
部屋に転がり込んできて、家主より先に寝るというのは、失礼だと思い、起きている。
ナツは帰って来ると、シャワーを浴びて、朝方に寝る。その時、オレもベッドに入って、睡眠導入剤を飲んで寝るのが習慣になっていた。
その時、ナツが唐突に言ったのは、「亮ちゃんて…ホントに童貞なの?」
どうやら、山下の言葉を真に受けてるみたいだ。
「童貞か…そうかもね。うん、童貞だ」
ウソは言ってない。何せ、この数年、女の身体に触れていないからだ。
童貞みたいなもんだ。
「えっ、どっちなの?」
ナツはガバッと上体を起こすと、背を向けているオレの身体に擦り寄せた。
「…何で、そんな事聞くの?」
普通の男なら、同棲し始めの頃は、毎晩のように飢えた獣のように、女の身体に何度も射精するだろうが、オレはハナっから、そのつもりはない。
「…だってさ。もう、一緒に住んで半月ぐらいになるんだよ?フツーだったら…するでしょ?」
…このタイミングで話した方がいいかも。
ナツの方に身体を向け、話を切り出した。
「もし、オレとお前がセックスしたら、近親相姦になるからだよ」
「何それ~、チョー、意味不なんだけど!マジウケる」
冗談だと思っているのだろう、笑っていた。
「実は、お前が探していた姉ちゃんの事なんだが…」
「えっ、お姉ちゃん?お姉ちゃんがどうしたの?」
ナツの表情が一変した。
「広瀬紗栄子から、鴨志田紗栄子になっていた。その客から、養子縁組になったという話しは本当の事だ」
ナツは言葉を失った。
「お前の姉ちゃんが大学生の頃、お前と同じ水商売のバイトをしてた時に、ある企業の常務が、姉ちゃんの事を気に入って、子供がいない、妻に先立たれた常務は姉ちゃんを養子縁組にしたんだよ」
「…何それ?ウソでしょ?いくら亮ちゃんでも、そんな変なウソつかないでよ!」
ナツは語気を強めたが、構わずオレは話を続けた。
「だけど、その養子縁組で父親になった男はやっぱり女に飢えてたんだろな…養子とはいえ、娘に手を出して、妊娠した」
「もう、いい加減にして!冗談でも言って良いことと、悪いことがあるでしょ!」
今にも泣きそうな顔をしている。だが、話を止めなかった。
「で、妊娠したはいいが、その常務は堕ろせと言った。でも姉ちゃんは生みたいと言って、中絶をしなかった。というより、もう中絶できるような状態じゃない程に、お腹の中の子供は胎内で育っていった」
「…何でそんな事、亮ちゃんが知ってるの?」
「いいから、黙って聞け!」
オレはナツに怒鳴り付け、黙らせた。
「常務は生んでもいいが、絶対に認知はしないと言ったらしい。その常務は以前、ヤクザをやっていて、そこの企業の社長から、裏の仕事を引き受けていた。
ヤクザから足を洗った時、社長は会社の常務として、迎え入れたという事だ」
ナツの顔はクシャクシャになり、涙を流していた。
「そこで常務は、社長に養子縁組の娘ができちゃったからどうにかならないか?と相談を持ちかけた。社長も常務には、色々と汚い仕事をしてもらったせいで、何も言えなかったらしいがな」
「…ちょっと。じゃ、お姉ちゃんには子供がいるの?今どうしてるの?」
ナツは激しく詰め寄った。
オレはナツの手を振り払い、更に話を続けた。
ここまできたら、最後まで話すつりだ。
「社長はある社員に目をつけた。かつて、社長の秘書兼愛人だった女と社内結婚した社員に話を持ち掛け、昇進する代わりに、生まれてくる子供の親になって欲しいと」
「…」
「その男も秘書だった女と結婚し、男の子が生まれたが、女は育児の合間に社長との関係を続けていた。そして旦那の方も、皮肉な事に、姉ちゃんと深い仲になっていった。当初はその社員との間に生まれた子供だと思っていたが、血液型でその男の子供ではなく、常務の子供だと判明した」
「…何よ、それ?お姉ちゃん利用されたの、その常務って人に?」
構わずオレは続けた。
「でも、結局はその男の子供という事で認知する代わりに、何人もの社員をごぼう抜きして、役職の肩書きが付き、あっという間に出世した。だが、家庭は最悪で、それが原因で離婚した。
なのに、何故か旦那の方が実の子供を引き取り、妻には姉ちゃんが生んだ子供を社長に頼まれ、という感じで、シングルマザーとして、その子を育てた」
「…何なの?何で、そんな汚い事してまで…」
「いいから、最後まで聞け、それまで黙って聞いてろ」
「冗談も程々にしてよね!それ以上言うと、ここから出てってもらうからね!」
「そのつもりで話してんだ、こっちは!」
「…ウソ?」
「ホントだ」
「…何で?何で亮ちゃんがお姉ちゃんの事知ってるの?何がなんだか全っ然分かんないだけど!」
少しずつ鼓動が速まってきた。
言わなきゃ…
「知ってるもなにも…その子供がオレだからだ」
「…っ!!」
ナツは頭の中が混乱した。
「いや~っ!」
ベッドの周辺にある、物を投げつけた。枕や目覚まし時計が壁に当たり、ジリリリリリ!と鳴った。
だが、この後の話の方が、ナツにとっては、もっと辛い話になるんだ。
少し息苦しくなってきた…
オレは頓服薬を飲んで、呼吸を意識的にゆっくりと息を吐いた。
この先の事を言うのは、ナツにもオレにも辛い話しだ…何でこんな運命なのだろうか?
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる