快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

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新たな出発

早く殺してくれよ!

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季節は夏から秋へと変わっていった。

あれ以来、凜を無視する日々を送った。

凜も諦めたのか、話しかけるような事はしなくなった。

そして、オレは風俗を止めた。
どの店のどの女を指名しても、母のテクニックには及ばない。
萎えてしまうばかりで、空しくなったオレは行くのを止め、その時間はなるべく早く家に帰り、少しでも寝る時間に費やそうと考えた。

寝不足のまま仕事に行くと、肉体労働なだけに、かなりキツくなる。
十分な睡眠をとって、明日の為に備える。
少しだけだが、健康的な生活を送るようになった。


週末、授業が終わると、明日は休みだし何人かでまたカラオケに行こうという話をしていた。

オレはまた、坂本のヤンキー時代の話を延々と聞かされるのかと思うと憂鬱になるので、誰と誰が参加するのか、予め聞いてみた。

カラオケに行こうと言い出したのは、オレより3才上の吉永という男だ。
最近は彼とよく話をしている。
クラスでは比較的年齢が近いせいもあってか、周りの大人連中の話よりも彼の方が話が合うし、割りと真面目で明るい性格の人物だ。

「カラオケ行くのはいいけど、坂本さんのヤンキー話聞かされるのはちょっと…」

オレは難色を示した。

「いや、あの人は誘わない。ここだけの話、あの人周りから嫌われてんだよ」

吉永も坂本の事は良く思ってなかったらしい。
おまけにヤンキー時代のクセが抜けきらないのか、年下には高圧的な態度で接する。

同じ学年とは言え、目上の人には違いないが、そんな振る舞いを見て、周りは嫌気が差したのだろう。

「で、何人で行くの?」

「いや、比較的気の合いそうな人達ばかりで行こうかなと。大体4,5人ぐらいで」

吉永はこの人とこの人に声を掛けたと言った。
あまり話した事はないが、特に問題なさそうなメンバーなので、オレは行くと伝えた。

幸い、凜もその中に入ってなかったので、オレは前回みたいに途中で帰ることはないだろうと思った。

そのメンバーで学校の近くにあるちょっとした繁華街のカラオケルームに入った。

オレと吉永はまだ未成年という事を気遣ってか、アルコール類を注文する人はいなかった。

だが、メンバーの1人の女が、凜を呼んだらしく、遅れて来るらしいと言っていた。

凜が来るなら帰ろう、オレはアイツとは関わりたくない。
吉永には
「申し訳ないけど、ちょっと用事出来て、帰らなきゃならなくなったんだよね。今度また誘ってよ」と伝え、また五千円札を渡し、部屋を出ようとした。

が、タイミング悪く、凜がちょうど到着したので、ドアの入り口で鉢合わせになった。

オレはシカトして店を出ようとしたが、凜はオレを呼び止めた。

「私が来るから帰るの?そうなんでしょ?」
と少し怒ったような言い方でオレに聞いてきたが、オレはシカトしてそのまま店を出た。

(冗談じゃねえ、なんだってあんな女呼んだんだ?これじゃまたこの前と一緒じゃねえか)

ホントは最後までいるつもりだったが、凜が来ると、一気に場の雰囲気が変わってしまう。

そんな状況にいたくないからオレは途中で帰ることにした。

繁華街を抜け出し、人通りの無い細い道を歩いて、もうすぐで家に着く頃、前から三人組の男がこちらに向かって歩いてきた。


見るからにガラの悪いヤツらだ。

ストリート系ファッションにキャップを被り、シルバーアクセサリーを身につけている。

視線は皆、オレの方に向いていた。
絡まれると面倒だ、オレは道の端に寄り、そのまま歩を進めた。
だが、その三人組の一人がオレに声を掛けてきた。

「おい、そこのお前、ちょっとこっち来い!」

辺りにはオレしかいない。
何なんだコイツら?

こっちは何もしてない。

だが、ヤツらはオレに近づいてきた。

「おい、お前、古賀亮輔だろ?」

「っ!」

何でオレの名前を知ってるんだ?

一瞬立ち止まった。
するともう1人がオレの肩に手を回した。

「ちょっと付き合ってもらうぜ。お前にゃ話があるんだ」

オレは三人組に囲まれた。

オレをボコボコにするつもりなのか…
だが、ここで抵抗しても1対3だ、敵うはずがない。

オレはソイツらに囲まれるようにして行く手を阻まれ、仕方なく付いていく事になった。

しばらく歩いていると、ロープが張ってある廃墟の敷地内へと入っていった。

(ここでオレをボコボコにするつもりか)

どうやって逃げ出そうか…
隙を見て逃げるしかない。
だが、囲まれた状況で逃げ出すのは不可能だ。

言われるがままにオレは廃墟の中へ連れていかれた。

トタン張り中は暗く、工場の跡地なのか、錆び付いた卓上ドリルやら、切断用の機械等があった。

【ガシャン!】

一人が入り口のシャッターを閉めた。

真っ暗になって何も見えない。

もう一人が懐中電灯を照らす。

「おい、そこに突っ立ってないでここへ座れよ」

オンボロのパイプ椅子に座るように命令した。

コイツらの目的は金なのか?

「安心しろよ。オレ達ゃ、手荒なマネはしねえよ。ただ、言う事を聞けばの話だがな」

切れ長の一重の目の男が脅すように話した。

見た感じ、ハタチ前後だろうか。
他の二人も同じ年齢だろう。

「金だろ?ここに10万ある。それでも足りなきゃコンビニまで付き合ってくれよ。ATMで金下ろしてくるから」

金が目的ならば、沢渡さんから貰った残りの金全部くれてやる。

あんな金があるからオレは兄の幻影に怯えてるんだ。
あの金が無くなれば、兄の事は忘れられるだろうと。

「バーカ、何言ってんだテメーは」

ギャハハハハ、と笑いながら男は話を続けた。

「レンタル倶楽部…知ってるよな?」

「…えっ!」

コイツら、凜の知り合いか?

「知らねえとは言わせねえぞ。オレ達ゃお前の事は何も知らねえ。ただ頼まれただけだ。その仕事をやって欲しい、という依頼だ。お前がここでウンと言えばすぐに解放してやる。どうだ?」


何故そこまでして、オレを勧誘するのだろうか。

「アンタら凜に頼まれたのか?」

ふざけやがって!

「あぁ?知らねえよ、名前なんて。ただそこに入るようにしてくれって頼まれただけだよ」

凛を知らないって事は、金で雇ったのか。

「一つ聞きたいんだけど」

「何だよ?」

「アンタらいくらで頼まれた?オレがその倍の金出すからこの話は無かった事にしてくれないかな?」

金ならば、こっちも金で対抗してやる。

「は?何言ってんだ、テメーは」

「でも、結局は金だろ?だったらオレの口座に500万近くある。それ全部アンタらにやるから離してくれよ」

「テメーにそんな金があるワケねえだろっ!」

「じゃあ、付いてきてくれよ!コンビニまで。ATMで残高見せてやるよ。なぁ、これでどうた?」

この言葉で三人は動揺した。

そりゃそうだ。500万なんて大金手に入るんだからな。
もうオレにはあの金は必要ない。

あんな金さっさと無くなって欲しいぐらいだ。

コイツらに全部渡して、またコツコツ真面目に働いて学校に通えばいいだけの事だ。

「お前、ホントにその金あるのか」

「あるよ。だから一緒にコンビニに行こうよ。それか今キャッシュカード渡すからそれで金下ろしてくればいい。暗証番号は1122。ほらこのカード渡すから」

財布からキャッシュカードを出し、渡そうとした。

「確かにオレ達ゃ金が欲しいけどな、テメーのその態度が気に入らねえ!素直にオレ達の用件を飲んでくれりゃいいんだよ、分かったか?」

「バカらしい、そんな用件飲めるワケないだろ。どうせ断ったら、オレをボコボコにするんだろ?さぁ、やるならやってくれよ、おい!」

ウソでも何でもない。オレは殴られても蹴られても凜の誘いには乗らない。

「テメー、いい加減にしろよおいっ!」

もう一人の背の小さいヤツがナイフを取り出した。

「こうなったらテメーを刺すしかねぇな…もう一度言う。その女の用件を飲め!」

「断る!」

「ざけんじゃねぇぞ、このクソガキがっ!」

【ドガッ!】

切れ長のヤツがオレの土手っ腹に蹴りをぶち込んだ。

オレはそのまま座った状態から後ろに倒れた。

「…ぐっ!」

みぞおちに入ったせいか、息が出来なくなった。

「おい、手荒なマネはしたくねえんだよ!さっさとこっちの要求通りにしろよ、こらぁっ!」

更にもう一人のキャップを被った男が声を張り上げる。

だが、オレにはそんな脅しは通用しない。

「殴られようが蹴られようが、アンタらの要求にはNOだ!」

「テメー、刺されなきゃわかんねぇのかっ!」

ナイフを向け、オレを刺すように威嚇した。

そうくるか…オレは立ち上がり、上着を脱いで左胸を指した。

「殺るならやってくれよ!ここに刺せばオレは死ねるんだよっ!
なぁ、早く刺して殺してくれよ、おい!」

ハッタリでも何でもない。
オレは以前、兄にマンションを追い出された時、行き場所を無くし、生きる気力をも無くして死のうと思っていた。

早かれ遅かれ人は死ぬ。ただそれが早まっただけの事だ。

ナイフを持ったチビは後退りした。

「どうせ生きててもロクな事がねえんだよ、殺してくれよ、頼む!今すぐここを刺してくれよ!さぁ、早く殺してくれ、頼む!」

オレはチビに詰め寄った。

「お、お前頭おかしいんじゃないか?」

「おい、コイツかなりヤベーぞ」

「ここで刺したらマズイぞ!」

ヤツらはビビってしまった。

「早く!早く刺してくれよ!殺せって!もう生きてても何の意味もねぇんだよ!なぁ頼むよ、心臓目掛けてぶっ刺してくれよ!」

オレは本気だ。
この先、良いことなんてない。

だったらここで死んでしまおうと。
自殺より他殺の方がいいと思い、今まで死ぬのを踏みとどまった。

兄の幻影に悩まされるぐらいなら、いっそ死んで楽になりたい。


「…おい、もういい。早く帰れ」

切れ長のヤツがシャッターの方を指した。

「何で殺してくれないんだよ?オレは死にたいんだよ!自殺したら負けだと思って今まで生きてきたんだ。殺される方がマシだ!」


「うるせーっ!いいから出ていけ!おい、コイツをこっから追い出せ!」

切れ長の言葉で、他の二人はオレを押さえつけ、外に出された。

(何で殺してくれないんだよ…)

また生き地獄を味わうのか。



それなら、死ぬ前に凜に復讐してやる!

あの女の顔が、ニヤけた兄の顔と重なって、怒りが込み上げてきた。
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