快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

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忌まわしき過去

遺言

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達也が邪魔者を蹴散らし、独裁者気取りでふんぞり返っている頃、亮輔は汗だくになりながら、真夏のうだる暑さの中、道路の舗装工事をしていた。

暑さでアスファルトには陽炎が揺らめく。

残土をかき分けたり、アスファルトをトンボでまんべんなく敷いて、ローラーで平らにして固める。

かなりハードな仕事だが、型枠大工の時とは違い雑な扱いをされること無く、必死になって作業している亮輔を可愛がった。

「おい、アンちゃん!そんなに張り切るとバテるぞ!暑いんだから、休み休みやれ」

「はい、わかりました」

額から流れる汗を拭いながら、亮輔は黙々と仕事をした。

そして夕方になると、定時制の授業が始まる為、一足早く上がる。

「じゃ、すいません。お先に失礼します」

「おう、ちゃんと勉強してこいよ!」

汗臭いまま、学校に着いて、授業を受ける。
日中ハードな作業をしているせいか、授業中に寝てしまう事も度々あった。

終わるとアパートに帰って、風呂に入って飯を食ったらすぐに寝るという、毎日を送った。

肉体的にはキツいが、周りはいい人ばかりで、苦にならなかった。

生活の為に働き、鴨志田との約束通り学校を休まず通った。

あれが母親としての遺言だったのでは、と思う。

休日はどこへも行かず、疲れを取るため、ひたすら寝ている。

外に出ても、遊ぶ相手もいないから、部屋で過ごし、夕方スーパーで夕飯のおかずを買って自炊する。

無駄遣いはせず、節約を心掛けていたが、まだ15才。
買いたい物は山ほどある。

休日になり、給料が出たらゲームソフトでも購入しようと、久しぶりにパソコンを開いた。

すると、メールが一件着ていた。しかも日付は半月前だ。

亮輔はメールの差出人を見て驚いた。
鴨志田からのメールだった。

その内容は、亮輔が衝撃を受ける程、達也に関する重大な事が書かれてあった。

【古賀くんへ

多分このメールを読んでいる時、私はもうこの世にはいないでしょう。
だからこれは私の遺言書として読んでください。

貴方の母親、つまり育ての親である千尋さんが失踪した件は、貴方のお兄さんが、人気の無い暗い夜道で待ち伏せ、気をとられている瞬間、外国人らしき人物に拐われて、車ごと千尋さんを外国船に乗せてしまったのです。

今何処で何をしているのか不明です。
異国の地で生存の確認すら出来ない状況です。

それもこれも、私がソープ嬢をしている頃、貴方のお兄さんが客として現れ、私の借金を肩代わりする代わりに、千尋さんを消し去り、会社を乗っ取り、資産を分配しようという誘惑にかられ、お兄さんの手伝いをしてしまいました。

その時、私は別の車の中で一部始終を目撃したのです。
それからというもの、私はお兄さんの手足のように、色々と汚い手を使い、お兄さんを社長にするべく、何人もの人達を罠にはめ、社長になりました。

お兄さんが社長に就任すると、私はお兄さんの秘書という形で会社に入り、千尋さんが所有していたマンションと、お兄さんが住んでいたワンルームマンションの建物と土地を売却したのです。

そして貴方には、会社が赤字で倒産寸前まで追い込まれたとウソをつき、貴方をマンションから追い出したのです。今思えば、私はお兄さんが企てた計画を断固阻止するべきだったと後悔しています。

その後もお兄さんは、社長として会社を思うがままに操り、挙句には赤字のキャバクラ店をソープランドに変えて、そこの店を任せると言われました。
最初は断りましたが、私をソープ嬢から救ってくれた恩と後ろめたさから、その話を引き受けました。

でも、結局は嫌がらせに遭い、店は閉店、私は莫大な借金を背負い、会社を追い出されました。

そして今、そのお金を工面するべく奔走していますが、私は口封じの為に命を奪われるでしょう。

今までは真相が言えずに本当にごめんなさい。

私がお金に目が眩んだばかりに、犯罪の片棒を担いでしまった。

お兄さんは社長に就任したと同時に、私の事を消すつもりでしょう。

つまり、私は用済みという事です。

そして最後に、このメールの内容を警察に見せ、告発して欲しいのです。

お兄さんの暴走を止めるのは貴方しかいません。

暴力に対して暴力では解決しません。
貴方がこの事を発表すれば、お兄さんは人身売買という罪で逮捕されるでしょう。
ですが、これ以上の犠牲者を出さない為にも、このメールを警察に見せてください。

そして、実の母として、貴方にお願いします。
亮輔、貴方は真っ当な人生を歩んでください。

私やお兄さんのような汚れた人間にはならないで下さい。

最後まで母親らしい事が何一つ出来ずにこの世を去るのは本当に辛いです。

だから、貴方には堂々と表を歩けるような立派な大人に成長して下さい。

これが私の遺言です。

では、身体に気をつけて。
そして必ず高校だけは卒業して下さいね。

鴨志田紗栄子】

亮輔は白い桐箱を抱き、号泣した。

もう、泣くまいと誓ったのに、涙が溢れ、嗚咽した。

(お母さん、今までありがとう、そしてゴメンなさい)


ひとしきり泣いた後、亮輔はパソコンを持って、警察署に行った。

本来ならば、この手で殺してやりたい。

だが、ここは遺言通り、このパソコンを持ってメールの内容を見せよう。

そしてこれ以上犠牲者が出ないように。
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