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忌まわしき過去

5000万で掌握

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一週間後、吉村は達也の会社を訪れた。
アタッシュケースの中にはキャッシュで二億円がギッシリと入っていた。

本来ならば、口座に振り込むべきだが、使途不明金としてバレてしまうので、キャッシュで渡した。
鴨志田も同席し、示談に応じた。
この件はこれで終わりにします、というサインをして、吉村は帰った。

「ねえ、二億ならアタシにも少し多めにしてよ。それぐらいいいでしょ?」

山積みになっている現金を目の前に、鴨志田は浮かれて報酬の増額を要求した。

「バカ言うな!
この金であの弁護士に払って、沢渡にもいくらか渡さなきゃならない。で、アンタに三千万だ。
あっという間にこの金が吹っ飛ぶんだ。
それよりも、もっとこの会社を大きくする。
その時はアンタにも数億の金が転がってくる。
ま、楽しみにしててくれよ」

達也は約束通り、三千万を鴨志田に渡した。

「ねえ、母親の資産てどこにあるの?それ山分けする約束だったじゃない?」

鴨志田は達也に協力する為に汚れ役を買ってでた。

「資産か…資産なら、あちこちに展開してる店舗が資産だ。
今のところ順調に利益を上げているからそれまで待っててくれよ」

達也は鴨志田に大きな紙袋を渡した。

「その中に金を入れるんだ。
バレないようにロッカーにでも入れておけ」

「ま、約束通り三千万手に入ったからいいわ。でも今度こんな事があったら、もう少し色つけてよね」

鴨志田は部屋を出て、ロッカーに紙袋をしまった。

「これならもっと甘い汁が吸えそうだわ…」
ウキウキ気分で鴨志田はロッカーの扉を閉め、念入りに鍵をかけた。

達也は社内電話をかけた。

「あ、もしもし、お疲れ様です。沢渡さんをここに呼んでもらえますか?」

社長室のドアをコンコンとノックする音がした。

「どうぞ」

「失礼します」

沢渡がドアを開け、入ってきた。

「社長、何か御用ですか?」

「いやだなぁ、沢渡さん。約束したじゃないですか、忘れたんですか?」

笑顔の達也は机の上にドン、と紙袋を置いた。

「確認してください。全部で五千万入ってます」

「えっ…」

沢渡は紙袋の中を見た。

そこには札束がぎっしりと積まれていた。

「こ、これは…」

「そうです、これで約束の件をちゃんと守りましたよね?」

沢渡は、目の前に積まれた大金を前に呆気にとられている。

「沢渡さん、そんなとこに突っ立ってないでそこにお座り下さい」

「あ…あぁ、はい…」

まさか五千万もの大金が手に入るとは…さすがの沢渡も、達也の豪快さに参った様子だ。

分厚いガラス製のテーブルを挟み、向き合う形でソファーに座ると、達也は話を始めた。

「沢渡さん、貴方は前社長の右腕としてこの会社に貢献してきました。
ですが、あの人はワンマンでヒステリックな性分な為、怒鳴られたりした場面を何度か見たことがあります」

千尋は何かと沢渡に厳しく当たっていた。
会社のナンバー2で千尋のブレーンであるにも関わらず、事ある毎に沢渡を怒鳴り、時には八つ当たりもしていた。
それも他の社員のいる前でもお構い無しに。

いくら社長とはいえ、女性に怒鳴られ、八つ当たりされては男のプライドにキズがつく。

だが、沢渡は文句1つ言わず、千尋に付き、献身的にフォローしてきた。

「…」

「確かに僕は沢渡さんとの約束を守り、社長に就任しました。
ですが、僕はあの人の様に沢渡さんのプライドをキズ付けるような事はしません」

「…はい」

「確かに社長はかなりやり手でここまで会社を大きくしてきました。でも、それもこれも沢渡さんがいるからこそ、成長したんです。あの人はワンマン過ぎました。それに男の気持ちを理解してなかった。
何故、あんなに辛くあたるのか…沢渡さんも限界だったのでしょう」

「…いえ、私が至らないばかりに」

「そんな事はありません。社長はヒステリック過ぎだ。僕はそれを目の当たりにして、これじゃいけないと思ってました。
言わば、織田信長と明智光秀のような関係になってしまう、そう懸念してました」

「そうでしたか…」

沢渡も千尋から随分と怒鳴られ、ついカッとなってしまう事も度々あった。

「僕は社長になりましたが、実質上の会社の代表は沢渡さんだと思ってます。それにまだヒヨッ子の僕が沢渡さんにそんな事出来るワケないじゃないですか」

達也は真剣な眼差しで沢渡を持ち上げた。

「ありがとうございます。そこまで私の事を思っていたとは…」

沢渡は礼を述べた。

「沢渡さん、今社長は行方不明です。
息子である私からすれば、一日でも早く見つかって欲しい。だが、この会社の代表取締役という事を放棄したんです。
もし、万が一、あの人が戻ってきたとしても、この会社を明け渡すつもりは無いです。
今更ノコノコ出て来て、また社長に戻るなんて事は絶対に許しません」

「承知致しました」

「ですから沢渡さん、これからは新体制でこの会社を更に大きくしていきましょう」

達也は右手を差しのべた。

「いえ、こちらこそよろしくお願いします!」

沢渡は両手でガッチリと握手した。

五千万で沢渡をも掌握した達也の野望は止まらない。


次のターゲットを、既に頭の中で決めており、どのようにして消し去るかシミュレーションしていた。
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