46 / 189
忌まわしき過去
依頼
しおりを挟む
約束通り、2日後に達也はバッグに現金を入れ、弁護士の事務所を訪れた。
机の上に1000万と500万入った分厚い封筒を2つ置いた。
「こちらが報酬額の1000万です。確認して下さい」
弁護士は封筒の中をチラッと見ただけで引き出しに閉まった。
「ちゃんと確認しなくていいんですか?」
「数えなくても見れば分かる。で、この金を店に渡せばいいんだな?」
弁護士は500万の入った封筒を懐に閉まった。
「で、いつ頃までに出来そうですか?」
「明日、店が終わったら外で待ってろ。それでこの仕事は終わりだ」
「明日でカタがつくんですか?」
ホントだろうか?
「おう、オレは信用が第一の弁護士だ。不義理などしたらヤクザ相手に仕事なんか出来るか」
言われてみれば、そうだ。
「で、どこの店なんだ?」
達也は鴨志田の勤めているソープランドの場所を伝えた。
「源氏名は皐月です。よろしくお願いします」
達也は頭を下げた。
「この店か。よく知ってるよ。何せ、ここのケツ持ちのヤクザもここに来て仕事の依頼をしてくるんだ。まぁ、10分あればケリが着くだろう」
そんなに早く話が解決できるのだろうか。
だが、任せるしかない。
「分かりました。では明日、営業時間が終わる頃に店の近くで待機してます」
「うむ、しかし高校教師が借金でソープ嬢とは、絵にかいたような転落ぶりだな。こんな女助けてもロクな事ないぞ?いいのかそれで?」
弁護士の言う通り、鴨志田はまた同じ過ちを犯すだろう。
だが、達也の目的を果たすのに鴨志田は必要だ。
「それは承知の上です。ですからこの仕事引き受けて下さい」
達也は再度頭を下げた。
(何度もしつこいんだよ、このジジイは!)
弁護士の上から目線な口調に苛立っていた。
「分かった分かった。もう用は済んだろ、さっさと帰れ」
「1つだけお聞きしたいのですが…」
どうしても聞きたい事があった。
「ん、何だ?」
「先生のお名前を教えてもらいたいのですが…」
弁護士の事務所なのに看板も掲げてない。名前も無い、連絡先も無い。
ホントに弁護士なのか?達也じゃなくとも、誰もが疑う。
「名前?何でオレの名前が必要なんだ。オレはお前から金を受け取った。後はもうお前とは会う事はないだろう。だから名乗る必要もない」
ぶっきらぼうな口調で名前を教えてくれない。
「何故です!せめて名前だけでも教えてくれてもいいじゃないですか?」
「ほう、オレの事が信用ならないってのか…?」
弁護士の目付きが鋭くなった。
とても弁護士とは思えない程の凄味だ。
「…」
達也は蛇に睨まれた蛙の様に身体が硬直して動けない。
「お前、オレがカタギに見えないってのか?」
「…むしろ、同業者に見えます」
「何ぃ!」
「…」
視線は達也を捕らえたまま、沈黙が続く。
達也は身の危険を感じた。
(コイツ、ホントに弁護士か…)
すると弁護士はニヤリと笑った。
「…おい、お前はやっぱりカタギよりもコッチの世界の方が似合ってるな」
「…?」
「お前のその目付き、カタギにしておくには勿体無い」
気づけば、達也も弁護士に鋭い視線を送っていた。
「お前じゃなくても、ここに来る連中は皆口を揃えてオレの素性を知りたがるし、弁護士なんてウソじゃないかって疑う。
だがな、オレは敢えて名乗らないし、連絡先も教えない。
それはオレのポリシーだ。
オレは名もなき弁護士、それでいいじゃないか
」
机の引き出しを開けて弁護士バッチを見せた。
「オレが弁護士だという事が分かったろ?
心配するな、明日必ずあの女を自由にしてやる」
「…わかりました。よろしくお願いします」
上手く言いくるめられたようだが、弁護士だという証明は出来た。
「お前、気に入ったから、次からは料金割り引いてやる」
そう言うと、バッチを再び引き出しに閉まった。
「失礼します」
達也は一礼して事務所を後にした。
相変わらずこの界隈は異臭を放ち、日中にも関わず人の気配が無く、静まり返っている。
犯罪が起きても、何ら不思議は無い程の雰囲気が漂う。
逃げ出すように達也は走り、大通りに差し掛かるとタクシーを拾い、千尋のマンションへ向かった。
この時間は亮輔がまだ寝ている頃だろう。
小島と夜遊びをして、朝方に帰るという昼夜逆転の生活をしている。
マンションに着くと、地下の駐車場に停めてある車に乗り込み、千尋に教えた会社までのルートを通った。
例の鬱蒼とした路地で車を停め、周囲を見渡した。
(よし、この場所だ)
木に覆われてよく見えないが、脇に車一台分程の狭い路地がある。
ここなら車を停めても分かりにくい。
これで計画通りに実行出来る。
後は鴨志田を待つのみ。
その後、部屋に戻ってシャワーを浴び、深い眠りについた。
まずは明日。鴨志田が晴れて自由の身になってからだ。
机の上に1000万と500万入った分厚い封筒を2つ置いた。
「こちらが報酬額の1000万です。確認して下さい」
弁護士は封筒の中をチラッと見ただけで引き出しに閉まった。
「ちゃんと確認しなくていいんですか?」
「数えなくても見れば分かる。で、この金を店に渡せばいいんだな?」
弁護士は500万の入った封筒を懐に閉まった。
「で、いつ頃までに出来そうですか?」
「明日、店が終わったら外で待ってろ。それでこの仕事は終わりだ」
「明日でカタがつくんですか?」
ホントだろうか?
「おう、オレは信用が第一の弁護士だ。不義理などしたらヤクザ相手に仕事なんか出来るか」
言われてみれば、そうだ。
「で、どこの店なんだ?」
達也は鴨志田の勤めているソープランドの場所を伝えた。
「源氏名は皐月です。よろしくお願いします」
達也は頭を下げた。
「この店か。よく知ってるよ。何せ、ここのケツ持ちのヤクザもここに来て仕事の依頼をしてくるんだ。まぁ、10分あればケリが着くだろう」
そんなに早く話が解決できるのだろうか。
だが、任せるしかない。
「分かりました。では明日、営業時間が終わる頃に店の近くで待機してます」
「うむ、しかし高校教師が借金でソープ嬢とは、絵にかいたような転落ぶりだな。こんな女助けてもロクな事ないぞ?いいのかそれで?」
弁護士の言う通り、鴨志田はまた同じ過ちを犯すだろう。
だが、達也の目的を果たすのに鴨志田は必要だ。
「それは承知の上です。ですからこの仕事引き受けて下さい」
達也は再度頭を下げた。
(何度もしつこいんだよ、このジジイは!)
弁護士の上から目線な口調に苛立っていた。
「分かった分かった。もう用は済んだろ、さっさと帰れ」
「1つだけお聞きしたいのですが…」
どうしても聞きたい事があった。
「ん、何だ?」
「先生のお名前を教えてもらいたいのですが…」
弁護士の事務所なのに看板も掲げてない。名前も無い、連絡先も無い。
ホントに弁護士なのか?達也じゃなくとも、誰もが疑う。
「名前?何でオレの名前が必要なんだ。オレはお前から金を受け取った。後はもうお前とは会う事はないだろう。だから名乗る必要もない」
ぶっきらぼうな口調で名前を教えてくれない。
「何故です!せめて名前だけでも教えてくれてもいいじゃないですか?」
「ほう、オレの事が信用ならないってのか…?」
弁護士の目付きが鋭くなった。
とても弁護士とは思えない程の凄味だ。
「…」
達也は蛇に睨まれた蛙の様に身体が硬直して動けない。
「お前、オレがカタギに見えないってのか?」
「…むしろ、同業者に見えます」
「何ぃ!」
「…」
視線は達也を捕らえたまま、沈黙が続く。
達也は身の危険を感じた。
(コイツ、ホントに弁護士か…)
すると弁護士はニヤリと笑った。
「…おい、お前はやっぱりカタギよりもコッチの世界の方が似合ってるな」
「…?」
「お前のその目付き、カタギにしておくには勿体無い」
気づけば、達也も弁護士に鋭い視線を送っていた。
「お前じゃなくても、ここに来る連中は皆口を揃えてオレの素性を知りたがるし、弁護士なんてウソじゃないかって疑う。
だがな、オレは敢えて名乗らないし、連絡先も教えない。
それはオレのポリシーだ。
オレは名もなき弁護士、それでいいじゃないか
」
机の引き出しを開けて弁護士バッチを見せた。
「オレが弁護士だという事が分かったろ?
心配するな、明日必ずあの女を自由にしてやる」
「…わかりました。よろしくお願いします」
上手く言いくるめられたようだが、弁護士だという証明は出来た。
「お前、気に入ったから、次からは料金割り引いてやる」
そう言うと、バッチを再び引き出しに閉まった。
「失礼します」
達也は一礼して事務所を後にした。
相変わらずこの界隈は異臭を放ち、日中にも関わず人の気配が無く、静まり返っている。
犯罪が起きても、何ら不思議は無い程の雰囲気が漂う。
逃げ出すように達也は走り、大通りに差し掛かるとタクシーを拾い、千尋のマンションへ向かった。
この時間は亮輔がまだ寝ている頃だろう。
小島と夜遊びをして、朝方に帰るという昼夜逆転の生活をしている。
マンションに着くと、地下の駐車場に停めてある車に乗り込み、千尋に教えた会社までのルートを通った。
例の鬱蒼とした路地で車を停め、周囲を見渡した。
(よし、この場所だ)
木に覆われてよく見えないが、脇に車一台分程の狭い路地がある。
ここなら車を停めても分かりにくい。
これで計画通りに実行出来る。
後は鴨志田を待つのみ。
その後、部屋に戻ってシャワーを浴び、深い眠りについた。
まずは明日。鴨志田が晴れて自由の身になってからだ。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話
神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。
つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。
歪んだ愛と実らぬ恋の衝突
ノクターンノベルズにもある
☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる