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忌まわしき過去

依頼

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約束通り、2日後に達也はバッグに現金を入れ、弁護士の事務所を訪れた。

机の上に1000万と500万入った分厚い封筒を2つ置いた。

「こちらが報酬額の1000万です。確認して下さい」

弁護士は封筒の中をチラッと見ただけで引き出しに閉まった。

「ちゃんと確認しなくていいんですか?」

「数えなくても見れば分かる。で、この金を店に渡せばいいんだな?」

弁護士は500万の入った封筒を懐に閉まった。

「で、いつ頃までに出来そうですか?」

「明日、店が終わったら外で待ってろ。それでこの仕事は終わりだ」

「明日でカタがつくんですか?」

ホントだろうか?

「おう、オレは信用が第一の弁護士だ。不義理などしたらヤクザ相手に仕事なんか出来るか」

言われてみれば、そうだ。

「で、どこの店なんだ?」

達也は鴨志田の勤めているソープランドの場所を伝えた。

「源氏名は皐月です。よろしくお願いします」

達也は頭を下げた。

「この店か。よく知ってるよ。何せ、ここのケツ持ちのヤクザもここに来て仕事の依頼をしてくるんだ。まぁ、10分あればケリが着くだろう」

そんなに早く話が解決できるのだろうか。
だが、任せるしかない。

「分かりました。では明日、営業時間が終わる頃に店の近くで待機してます」

「うむ、しかし高校教師が借金でソープ嬢とは、絵にかいたような転落ぶりだな。こんな女助けてもロクな事ないぞ?いいのかそれで?」

弁護士の言う通り、鴨志田はまた同じ過ちを犯すだろう。
だが、達也の目的を果たすのに鴨志田は必要だ。

「それは承知の上です。ですからこの仕事引き受けて下さい」

達也は再度頭を下げた。

(何度もしつこいんだよ、このジジイは!)

弁護士の上から目線な口調に苛立っていた。

「分かった分かった。もう用は済んだろ、さっさと帰れ」

「1つだけお聞きしたいのですが…」

どうしても聞きたい事があった。

「ん、何だ?」

「先生のお名前を教えてもらいたいのですが…」

弁護士の事務所なのに看板も掲げてない。名前も無い、連絡先も無い。
ホントに弁護士なのか?達也じゃなくとも、誰もが疑う。

「名前?何でオレの名前が必要なんだ。オレはお前から金を受け取った。後はもうお前とは会う事はないだろう。だから名乗る必要もない」

ぶっきらぼうな口調で名前を教えてくれない。

「何故です!せめて名前だけでも教えてくれてもいいじゃないですか?」

「ほう、オレの事が信用ならないってのか…?」

弁護士の目付きが鋭くなった。
とても弁護士とは思えない程の凄味だ。

「…」

達也は蛇に睨まれた蛙の様に身体が硬直して動けない。

「お前、オレがカタギに見えないってのか?」

「…むしろ、同業者に見えます」

「何ぃ!」

「…」

視線は達也を捕らえたまま、沈黙が続く。
達也は身の危険を感じた。


(コイツ、ホントに弁護士か…)

すると弁護士はニヤリと笑った。

「…おい、お前はやっぱりカタギよりもコッチの世界の方が似合ってるな」

「…?」

「お前のその目付き、カタギにしておくには勿体無い」


気づけば、達也も弁護士に鋭い視線を送っていた。

「お前じゃなくても、ここに来る連中は皆口を揃えてオレの素性を知りたがるし、弁護士なんてウソじゃないかって疑う。
だがな、オレは敢えて名乗らないし、連絡先も教えない。
それはオレのポリシーだ。
オレは名もなき弁護士、それでいいじゃないか



机の引き出しを開けて弁護士バッチを見せた。

「オレが弁護士だという事が分かったろ?
心配するな、明日必ずあの女を自由にしてやる」

「…わかりました。よろしくお願いします」

上手く言いくるめられたようだが、弁護士だという証明は出来た。


「お前、気に入ったから、次からは料金割り引いてやる」

そう言うと、バッチを再び引き出しに閉まった。

「失礼します」

達也は一礼して事務所を後にした。

相変わらずこの界隈は異臭を放ち、日中にも関わず人の気配が無く、静まり返っている。

犯罪が起きても、何ら不思議は無い程の雰囲気が漂う。

逃げ出すように達也は走り、大通りに差し掛かるとタクシーを拾い、千尋のマンションへ向かった。

この時間は亮輔がまだ寝ている頃だろう。
小島と夜遊びをして、朝方に帰るという昼夜逆転の生活をしている。

マンションに着くと、地下の駐車場に停めてある車に乗り込み、千尋に教えた会社までのルートを通った。

例の鬱蒼とした路地で車を停め、周囲を見渡した。

(よし、この場所だ)

木に覆われてよく見えないが、脇に車一台分程の狭い路地がある。

ここなら車を停めても分かりにくい。

これで計画通りに実行出来る。

後は鴨志田を待つのみ。

その後、部屋に戻ってシャワーを浴び、深い眠りについた。

まずは明日。鴨志田が晴れて自由の身になってからだ。

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