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そして開幕
The 二刀流
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1回の表、Dodgersの攻撃。
トップバッター与田が右打席に入った。
濃紺のビジター用ユニフォームを身にまとい、黒のバットをやや短めに持つフォーム。
マウンド上の反町は2年連続2度目の開幕投手。
2度目とは言え、開幕投手はやはり緊張するもの。
大きく深呼吸して、ぐるりと周りを見渡す。
こんな大舞台で投げれるのは投手冥利に尽きる。
そう思うと、今からワクワクしてきた。
反町にとっては、今年は試練の年になる。
新しい球場に、新球団北陸UnitedのGMは父勉が就任した。
ここで緊張なんかしているヒマはない。
開幕戦を勝って、弾みをつけたいところ。
「プレーボールっ!!」
球審の手が挙がった。
ノーワインドアップから第1球を投げた。
内から外に流れるスライダー。
「ボールワンっ!」
与田は見送った。
見送ったというより、手が出なかった様にも見える。
今のはスライダーというより、スイーパーに近い曲がりを見せた。
縦のシュートだけではなく、スライダー、カットボール、カーブ、フォークとどれをとってもキレの良い変化球を投げる。
そして2球目、今度は伝家の宝刀、縦のシュートを投じた。
ボールはインコースの低めに鋭く沈んだ。
「ストライクワンっ!」
これも与田は手が出なかった。
反町が投げる縦のシュートは、ベース手前で鋭角的にスライドするように縦に変化する。
バッターの目線からは、急激に消えるような変化をする為、魔球と呼ぶに相応しい。
だが、その代償として肘にかなり負担がかかるせいで、1試合に8~10球が限度。
その魔球を初回から投げる事は滅多にないのだが、開幕戦とあって、初っ端からエンジン全開というアピールにもとれる。
打席の与田は緊張というより、萎縮している感じだ。
(コリャ、確実にアウト1つとれるな)
マスクを被るのは、今年から正捕手に任命された比村。
昨年までの正捕手滝沢と比較すると、捕手としての能力は若干劣るが、滝沢よりも遥かに上回る打撃力を買われて正捕手の座を掴んだ。
勅使川原バッテリーマネージャーは、比村はあくまで暫定的な正捕手であり、南方が捕手としての技術や能力を身につけるまでの繋ぎという考えだ。
比村は捕手よりも、打撃を生かした守備の方が本人の為にも良いと判断し、いずれは外野もしくは一塁手にコンバートさせる予定だ。
捕手としては油断は禁物なのだが、今の与田は反町の球は打てないと読んだ。
(とは言うものの、確実にアウトを取るにはこれがいいかな)
サインを出した。
反町は頷き、躍動感溢れるフォームから3球目を投げた。
真ん中低めからワンバンに落ちるフォーク。
与田はこれに手を出し、ボールの上っ面を叩いてファーストゴロ。
徳川が前進して捕ると、自らベースを踏んだ。
「アウト!」
「ヨシ、早くもワンアウト!」
冷静な反町とは反対に、ミットを叩いて喜ぶ比村。
ワンアウトとなり、次のバッターは二刀流及川。
Glanzの本拠地だが、及川がコールされると場内は歓声に包まれる。
189cmと恵まれた体格を持ち、投打の両輪でチームを引っ張るDodgersのニュースター。
独特のスイングで3回素振りをしてから右打席に入ると、入念に足場を固めた。
及川のバッティングはノーステップからアッパー気味のスイング。
傍から見ると、上体の力で遠くに飛ばす様に見えるが、実にシンプル且つムダの無いフォームで、身体の中心を軸に回転する。
自分に合ったスイングを会得する為に、毎日欠かさずバットを振っている。
今年の目標は、リーグ制覇並びに日本一を成し遂げる事だが、個人的な目標としては、投手野手両部門でタイトルを獲得すると豪語。
今までは控え目なタイプだったが、Dodgers復活の為には、自分から行動を示さないと周りを動かす事は出来ないと気づいた。
「二刀流はコイツだけやない!
ワシかて、二刀流じゃけんのぉ!」
ブルペンでモニターを観ながら麻生がボヤく。
「アンタは今年はリリーフ専門でしょ!投げる事に専念なさい!」
今年ピッチングコーチに復帰した水卜舞が一喝する。
「姐さん!ワシャ、投げるだけやのぅて、打つ方もやりたいんじゃぁ!」
「だったら、まずはピッチングで結果を残しなさい!」
「はぁ~…ワシャ、リリーフなんかより、先発の方が向いとるんじゃがなぁ」
「それも、リリーフで結果を出してからね」
「…」
首脳陣は、今年の麻生は二刀流よりも投手に専念させるつもりだが、場面によっては打者として出場させる事も考えている。
トップバッター与田が右打席に入った。
濃紺のビジター用ユニフォームを身にまとい、黒のバットをやや短めに持つフォーム。
マウンド上の反町は2年連続2度目の開幕投手。
2度目とは言え、開幕投手はやはり緊張するもの。
大きく深呼吸して、ぐるりと周りを見渡す。
こんな大舞台で投げれるのは投手冥利に尽きる。
そう思うと、今からワクワクしてきた。
反町にとっては、今年は試練の年になる。
新しい球場に、新球団北陸UnitedのGMは父勉が就任した。
ここで緊張なんかしているヒマはない。
開幕戦を勝って、弾みをつけたいところ。
「プレーボールっ!!」
球審の手が挙がった。
ノーワインドアップから第1球を投げた。
内から外に流れるスライダー。
「ボールワンっ!」
与田は見送った。
見送ったというより、手が出なかった様にも見える。
今のはスライダーというより、スイーパーに近い曲がりを見せた。
縦のシュートだけではなく、スライダー、カットボール、カーブ、フォークとどれをとってもキレの良い変化球を投げる。
そして2球目、今度は伝家の宝刀、縦のシュートを投じた。
ボールはインコースの低めに鋭く沈んだ。
「ストライクワンっ!」
これも与田は手が出なかった。
反町が投げる縦のシュートは、ベース手前で鋭角的にスライドするように縦に変化する。
バッターの目線からは、急激に消えるような変化をする為、魔球と呼ぶに相応しい。
だが、その代償として肘にかなり負担がかかるせいで、1試合に8~10球が限度。
その魔球を初回から投げる事は滅多にないのだが、開幕戦とあって、初っ端からエンジン全開というアピールにもとれる。
打席の与田は緊張というより、萎縮している感じだ。
(コリャ、確実にアウト1つとれるな)
マスクを被るのは、今年から正捕手に任命された比村。
昨年までの正捕手滝沢と比較すると、捕手としての能力は若干劣るが、滝沢よりも遥かに上回る打撃力を買われて正捕手の座を掴んだ。
勅使川原バッテリーマネージャーは、比村はあくまで暫定的な正捕手であり、南方が捕手としての技術や能力を身につけるまでの繋ぎという考えだ。
比村は捕手よりも、打撃を生かした守備の方が本人の為にも良いと判断し、いずれは外野もしくは一塁手にコンバートさせる予定だ。
捕手としては油断は禁物なのだが、今の与田は反町の球は打てないと読んだ。
(とは言うものの、確実にアウトを取るにはこれがいいかな)
サインを出した。
反町は頷き、躍動感溢れるフォームから3球目を投げた。
真ん中低めからワンバンに落ちるフォーク。
与田はこれに手を出し、ボールの上っ面を叩いてファーストゴロ。
徳川が前進して捕ると、自らベースを踏んだ。
「アウト!」
「ヨシ、早くもワンアウト!」
冷静な反町とは反対に、ミットを叩いて喜ぶ比村。
ワンアウトとなり、次のバッターは二刀流及川。
Glanzの本拠地だが、及川がコールされると場内は歓声に包まれる。
189cmと恵まれた体格を持ち、投打の両輪でチームを引っ張るDodgersのニュースター。
独特のスイングで3回素振りをしてから右打席に入ると、入念に足場を固めた。
及川のバッティングはノーステップからアッパー気味のスイング。
傍から見ると、上体の力で遠くに飛ばす様に見えるが、実にシンプル且つムダの無いフォームで、身体の中心を軸に回転する。
自分に合ったスイングを会得する為に、毎日欠かさずバットを振っている。
今年の目標は、リーグ制覇並びに日本一を成し遂げる事だが、個人的な目標としては、投手野手両部門でタイトルを獲得すると豪語。
今までは控え目なタイプだったが、Dodgers復活の為には、自分から行動を示さないと周りを動かす事は出来ないと気づいた。
「二刀流はコイツだけやない!
ワシかて、二刀流じゃけんのぉ!」
ブルペンでモニターを観ながら麻生がボヤく。
「アンタは今年はリリーフ専門でしょ!投げる事に専念なさい!」
今年ピッチングコーチに復帰した水卜舞が一喝する。
「姐さん!ワシャ、投げるだけやのぅて、打つ方もやりたいんじゃぁ!」
「だったら、まずはピッチングで結果を残しなさい!」
「はぁ~…ワシャ、リリーフなんかより、先発の方が向いとるんじゃがなぁ」
「それも、リリーフで結果を出してからね」
「…」
首脳陣は、今年の麻生は二刀流よりも投手に専念させるつもりだが、場面によっては打者として出場させる事も考えている。
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