Baseball Freak 主砲の一振り 7

後半戦

秘蔵っ子

　それはオールスターゲームと呼ぶにはあまりにも盛り上がりの欠ける試合だった。


　6回の表、アポロリーグは山口Knightsの楠木が放ったソロホームランで1点を先制するが、その後は両チーム共に打線が沈黙。


　ネプリーグリーグは唐澤、徳川といったリーグを代表する打者を投入するも、アポロリーグの投手陣を打ち崩せず。


　アポロリーグも次々と選手を交代するも、追加点を奪えず。


　結局、試合は1-0でアポロリーグの勝利となったが、とても夢の競演とは言い難い程の内容となってしまった。


　この結果に、各評論や球団OBは「史上最低のオールスターゲーム」と酷評。


「せっかく各球団からファン投票で選ばれた選手なのに、これといった見せ場も作らず終わるなんて、プロとしてあるまじき試合だ！」と苦言を呈した。



　MVPは決勝のホームランを打った楠木が受賞。


　来年こそは、これぞオールスターゲームと呼ぶに相応しい試合を願うのみだ。








　オールスターゲームから3日後、ペナントレースが再開。


　SAITAMA Glanzは本拠地さいたま S Villageにて、東北マーリンズとの3連戦がスタートする。


　後半戦に備え、Glanzはベテラン城戸を二軍に落とし、代わりに育成出身でプロ4年目の菅原湖南(すがわらこなん)外野手を昇格。


　22歳の菅原はこれが初の一軍であり、ようやく巡ってきたチャンスをモノをしようと張り切る。


　日本球界では珍しい左投げのスイッチヒッターで、二軍の首脳陣は左打ちに専念させようとしたのだが、ファーム育成野手コーチの小林は、

「今のままで十分。無理に変えても、彼の長所を無くしてしまう」とスイッチヒッターのまま育てる方が良いと主張。


以降、菅原は小林と二人三脚により、小林が編み出した独自の練習法で打力を強化させ、二軍で好成績を挙げた。



小林がスイッチヒッターを推し通した理由は、右打席と左打席では異なるバッティングをする菅原を見て、

「これは面白い」と判断したからだ。




菅原は主にレフトを守り、肩は平均よりやや下回るが、クッションボールの処理や打球判断、守備範囲は良く、俊足でベースランニングも一軍の選手に引けを取らない。


小林は菅原の俊足に着目し、脚力を活かしたバッティングをするようアドバイスした。

菅原は左打席では長打を連発するスラッガースタイルだが、右打席ではバンドや右打ちといった、バットコントロールを駆使した、内野手の頭上や間を打つスラップヒッター、所謂単打の多いバッティング。


小林が面白いと感じたのは右と左では正反対のバッティングをする事で、更に磨けば大砲とリードオフマンの2役をこなせると思い、スイッチヒッターのままで良いと判断した。



菅原は小林の考案した練習法でメキメキと頭角を現し、育成2年目のシーズンに支配下登録された。




背番号39を身に纏った若き選手が出番に備えてベンチ裏で黙々とバットをふっている。