Baseball Freak 主砲の一振り 7

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無回転

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先頭打者の室井を三球三振に仕留めた東山。


だが、次から三人連続で怪物バッターが襲いかかる。

【2番ん…センターぁ~、唐澤ぁ~、背番号1ぃ~っ】


相変わらずのアナウンスだ。

一説によると、ウグイス嬢はかなりの熟女で、声だけ聞くと20代と勘違いするらしいのだが、誰も正体を見た事は無いという。



そんな中、バットを手に唐澤が素振りをしながら打席に入る。


インターカンファレンスでは、アポロリーグを代表するピッチャーを次々と打ち崩した場面が多く見られた。



今年からバッティンググローブを外し、素手でバットを持つ事によって、バッティングの感覚をよりリアルにさせた事が功を奏す。


(イヤなバッターが立て続けに登場すんのかよ…)


唐澤の次は鬼束、鬼束の次は結城と、気が休まるヒマが無い。


相手投手はこの打順で神経をかなりすり減らすらしい。



いつもの様に、自然体の構えで力みが全く感じられない。


一見スキだらけのスタンスだが、どこを投げても打たれそうなオーラを放っている。



「私わかります(^^)」


「今度は何だ」


「唐澤選手は球種が読めるタイプですち!」


「らしいな。結城も同じタイプなんだろ?」


「んだな(^ ^)」


「何が言いてえんだよ!」


とにかく前置きが長い。


「唐澤選手や結城選手は、櫻井監督と同じ頭に球種が浮かぶ閃きタイプですち!」


「閃きタイプ…とは?」


「集中力を極限に高めると、ピッチャーが投げた瞬間に球種が分かるみたいですち!」


櫻井の全盛期はおよそ4割近い確率で球種が浮かんできたという。


ちなみに、結城や唐澤は3割程の確率らしい。



(どんなに打つバッターでも、残りの7割は凡退するんだ。
そう考えれば、ピッチャーの方が断然有利じゃないか)


東山は自分に言い聞かせる。



比村がサインを出した。


(ん?)


もう一度サインを見た。


(ホントかよ…)


少し戸惑いつつも初球を投げた。


ハーフスピードの球がお辞儀するように低めに沈む。


唐澤はピクリとも動かない。


「ボールワン!」


滅多に投げないパームボールを投げた。


ルーキー時代はパームを多投したが、長打になりやすい為、最近は封印している。



(こんな球通用しないって)


低めに外れたせいで見送ったが、ストライクゾーンに入ったら長打を打たれていただろう。


続いて2球目はワンシームを要求した。


(これも最近投げてないっつーの!)


それでも比村はワンシームを要求する。


シンカー気味に変化するワンシームだが、パーム同様最近は投げていない。


(打たれてもオレのせいじゃないからな)


仕方なくサインに頷き、2球目を投げた。


アウトコースからボールになるワンシームだが、唐澤は素早くバットを合わせた。


「打たれたっ…」


打球はライトへグーンと伸びるが、僅かに切れてファール。


「あっぶねぇ~…」


胸を撫で下ろす。


それにしても、パームやワンシームと最近投げてない球を要求するのは何か意図があるのだろうか。


(次はまともなサインを出してくれよ)


比村がサインを出した。


(…エェ~っ?)


今度はフォークだ。


ルーキー時代には二種類のフォークを投げていたが、それすらも封印している。


現在の東山の全球種は、ストレートにスライダー、カットにカーブ、シンカー、大きく沈むチェンジアップ。


以前はそれらの球種に加え、パームやフォークも投げていた。


(何でフォークまで封印したんだっけ…)


全く思い出せない。



(まぁいいか)



今は目の前のバッターに集中だ。


東山が3球目を投げた。


縫い目に指を掛けてないせいか、無回転になり、空気抵抗を受けて揺れながら落ちた。


比村は慌ててミットを出すが、予測出来ない軌道に戸惑い後逸してしまう。


「ボールツー!」


「今のは何だ?」


投げた本人でさえ、どう変化するのか分からない程だ。




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