Baseball Freak 主砲の一振り 7

sky-high

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5月 交流戦前

右の最高打者

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【3番セカンド 鬼束…背番号5】

一難去ってまた一難、お次は鬼束の登場だ。


麻生は先程のピッチャーライナーの恐怖が抜け切ってないのか、少しオドオドしている。


「あのヤロー、ピッチャーライナーごときで何をビビってんだよ!」


ベンチでその様子を見ていた榊がマウンドに向かおうとしていた。


「ちょっと待った!アンタが行く必要ねぇよ」


「何っ!」


「オレが行ってくる」


ヘッドコーチの財前が榊を制してマウンドに向かった。


マウンド上にはバッテリーを組む比村とキャプテンの石川が麻生に声を掛けている。


「おい、ミツル!しっかりしろよ!」


「麻生さん、落ち着いていきましょう」


「ア、アホぉ!あんな恐ろしい打球が目の前に来たら落ち着いてられるか!」


傍若無人な振る舞いをしていた時とは打って変わって、ビビりな本性を見せた。


「コリャ、ダメだな」


「これじゃ打たれますよね…替えてもらった方がいいかも」


二人は交代もやむ無しと思った。



「おい、待て待て!まだツーアウトしか取ってないのに、交代なんて出来るか!」


財前が駆け寄る。



「でも、これじゃムリっすよ」


恐怖で全身が強ばっている。


「ったく、しょうがねぇな」


そう言うと、財前は麻生の耳元で囁いた。



「お前よォ、ここでマウンドを下りたらどうなるか分かってるよな?今後一切、一軍には上げないからな!それでもいいのか、あぁ?」


「そ、それは困る!ワシはこれから二刀流として、球界を代表する選手になるんじゃあ!それだけは許してつかぁさい!」


「だったら、あれしきの当たりでオドオドしてんじゃねぇ!それと、この打席で打たれたら…タダじゃ済まさねえからな!」



脳裏に榊をはじめとする、武闘派の首脳陣による地獄のスパーリングが過ぎった。


プロレスの入門生でさえ、味わう事が不可能なシゴキが待っている。


「い、嫌じゃ!それだけは嫌じゃ!ワシはプロレスラーじゃないけん!それだけは勘弁を!」


「だったら、さっさと抑えてチェンジにしろ!」


「ハ、ハイっ!」


榊や畑中にボコられても悪態をつく麻生だが、財前にだけは頭が上がらない。


何故なのか、それは後に知る事となる。



財前はベンチに戻り、プレーが再開された。




「何としてでも、ここを抑えにゃ」


気を取り直し、深呼吸をする。



打席では鬼束がバットを上段に構えて微動だにせず。


唐澤、結城のような自然体の構えとは真逆に足を大きく開き、ドッシリと腰を落とす構えは力強く見える。


打席で力みやすいタイプで、自分なりにリラックスした構えを試行錯誤したが、どれも効果無く、たどり着いた答えが、

「どうせ力むのなら、初めから力んだ構えにすればいい」


という結論に落ち着き、独特なフォームになったという。


それが今では、マーリンズの羽田と共に
【現役最高の右バッター】とまで称される程の選手にまで成長した。



リードをする比村はストレート主体の配球に変えた。



まずは初球、アウトコースギリギリに155km/hのストレートを投げた。


これは僅かに外れてボールワン。


どうやらピッチャーライナーの恐怖は収まりつつある。


2球目、これもストレートでインコースに決まった。


カウントはワンボール、ワンストライク。



次も速球でいくのか。


麻生のストレートはナチュラルに変化する。


所謂クセ球という呼び名で知られ、芯を外して打ち取るのが特徴。


3球目はインコースを抉るスライダーにバットを合わせるが、打球は切れてファール。


ツーストライクと追い込んだ。



(次はこれでいこう)


比村のサインに頷き、4球目を投じた。


152km/hの膝元へズバッと決まる、クロスファイヤーボールだ。


鬼束はバットを出すタイミングがコンマ数秒遅れた。


「クソッ、遅かったか…」


打った瞬間に凡打だと確信した。



打球はセンターに飛ぶが、差し込まれてクロフォードがガッチリ掴んでスリーアウトチェンジ。




「ようやくチェンジか…長かったわぃ」


これでスリーアウトチェンジ。


長く感じた1回の裏がようやく終了した。
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