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ストーブリーグ
縦のシュート
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キャンプも中盤に入り、各選手の順調な仕上がりを見せる。
そんなある日、ドラフト1位の反町が唐澤と何やら話をしていた。
「唐澤さん!」
「ん?どうした、レン」
「実は、唐澤さんと1打席勝負をして欲しいんです」
「勝負?」
突然な申し出に、唐澤は少し戸惑いの表情を浮かべる。
「あ、いや…別に変な考えは無いです。ただ、自分の球が一流選手に通用するかどうか、それを確かめたくて」
「そりゃ、ドラフト1位なんだし、通用すると思ったからこの世界に入ったんだろ」
「そうじゃなく、自分が考案した変化球が通用するかどうか…それを唐澤さんの目で判断して欲しいんです、お願いします!」
そう言うと、深々と頭を下げた。
「変化球って、どんな球なんだ?」
「ん~、まぁ…一言で言えば縦の変化なんですが」
「フォークとは別の変化球なのか?」
反町のフォークはプロでも通用すると言われる程のキレと変化だ。
「ハイ…多分、フォークよりも落差があります」
フォークより縦に変化する球とは。
「そんなに変化するのか…ヨシ、じゃあ勝負しよう」
「ありがとうございます!」
唐澤に礼を言うと、早速準備を始めた。
「ヨシ、準備はいいか?」
「あ、ハイ!大丈夫です」
「じゃあ始めよう!1打席のみだからな」
「わかりました」
滝沢がキャッチャーとなり、1打席のみの勝負が始まった。
「んじゃあ、オレが審判をやるとしよう」
中田監督が審判を買って出た。
選手やコーチ達はベンチ前やバックネットで勝負を見守る。
反町の持ち球は、158km/hのフォーシームとツーシーム、140中盤のカットボールにSFF気味に速く落差のあるフォークボールの4種類。
その気になれば、カーブやスライダー、チェンジアップ等も投げられるのだが、器用貧乏になりたくないと思い、必要ではない変化球を極力省いた結果、4種類の持ち球となった。
サインが決まり、ワインドアップから力強いスリークォーターのフォームで初球を投げた。
指先から放たれたボールは、物凄い速さでアウトコースギリギリに決まった。
「ストライクワンっ!」
「ほぉ~、154km/hだってよ」
スピードガンを持つ勅使川原が驚いた表情をする。
「仕上がりは上々ってとこだな」
これなら開幕一軍も夢じゃない、中田はそう思った。
(さて、次はどんな球を投げてくるんだ)
唐澤は悠然と見送った。
ハナからストレートやフォークには見向きもせず、反町の編み出した新球に狙いを定めている。
反町の顔つきが変わった。
(ヨシ、試してみよう)
新球を投げるつもりだ。
ゆったりとしたワインドアップモーションから2球目を投げた。
ギューン、と初球よりも回転の掛かったボールがベース手前で急激に下に変化した。
「なっ、…」
唐澤は思わず声を上げた。
「オット…」
滝沢は辛うじてボールをキャッチ。
「えーっと、今のはストライクかな」
ボールの変化に気を取られ、判定が曖昧になった。
「何だ、このボールは」
唐澤の目には、落ちるというより、下へ伸びるという球筋に見えた。
その軌道はフォークとは違い、変化量もかなり大きい。
「縦のスライダーみたいな変化だな」
「ですけど、少し変化が違うような」
縦のスライダーならば、スライダー回転しながら縦に変化するが、この球はスライダー回転はしていない。
「おーい、反町!もう1球投げてみろ」
「ハイ」
中田の指示通り、再び新球を投げた。
グイーン、と回転数の高いボールが鋭角的に縦に変化した。
しかも、落差が大きい。
「これは縦のシュートと呼ぶべきか…そんな軌道ですね」
バックネットで見ていた白石がこう評した。
「あぁ、確かに!縦の変化に目が行きがちだけど、少し外側にスライドしながら落ちたよ」
唐澤には僅かにシュートしながら鋭く落ちたように見えた。
「シンカーじゃないのか?」
「いや、シンカーならばもう少し緩く変化するだろ」
縦のシュート…それにしても、とんでもない変化球みたいだ。
そんなある日、ドラフト1位の反町が唐澤と何やら話をしていた。
「唐澤さん!」
「ん?どうした、レン」
「実は、唐澤さんと1打席勝負をして欲しいんです」
「勝負?」
突然な申し出に、唐澤は少し戸惑いの表情を浮かべる。
「あ、いや…別に変な考えは無いです。ただ、自分の球が一流選手に通用するかどうか、それを確かめたくて」
「そりゃ、ドラフト1位なんだし、通用すると思ったからこの世界に入ったんだろ」
「そうじゃなく、自分が考案した変化球が通用するかどうか…それを唐澤さんの目で判断して欲しいんです、お願いします!」
そう言うと、深々と頭を下げた。
「変化球って、どんな球なんだ?」
「ん~、まぁ…一言で言えば縦の変化なんですが」
「フォークとは別の変化球なのか?」
反町のフォークはプロでも通用すると言われる程のキレと変化だ。
「ハイ…多分、フォークよりも落差があります」
フォークより縦に変化する球とは。
「そんなに変化するのか…ヨシ、じゃあ勝負しよう」
「ありがとうございます!」
唐澤に礼を言うと、早速準備を始めた。
「ヨシ、準備はいいか?」
「あ、ハイ!大丈夫です」
「じゃあ始めよう!1打席のみだからな」
「わかりました」
滝沢がキャッチャーとなり、1打席のみの勝負が始まった。
「んじゃあ、オレが審判をやるとしよう」
中田監督が審判を買って出た。
選手やコーチ達はベンチ前やバックネットで勝負を見守る。
反町の持ち球は、158km/hのフォーシームとツーシーム、140中盤のカットボールにSFF気味に速く落差のあるフォークボールの4種類。
その気になれば、カーブやスライダー、チェンジアップ等も投げられるのだが、器用貧乏になりたくないと思い、必要ではない変化球を極力省いた結果、4種類の持ち球となった。
サインが決まり、ワインドアップから力強いスリークォーターのフォームで初球を投げた。
指先から放たれたボールは、物凄い速さでアウトコースギリギリに決まった。
「ストライクワンっ!」
「ほぉ~、154km/hだってよ」
スピードガンを持つ勅使川原が驚いた表情をする。
「仕上がりは上々ってとこだな」
これなら開幕一軍も夢じゃない、中田はそう思った。
(さて、次はどんな球を投げてくるんだ)
唐澤は悠然と見送った。
ハナからストレートやフォークには見向きもせず、反町の編み出した新球に狙いを定めている。
反町の顔つきが変わった。
(ヨシ、試してみよう)
新球を投げるつもりだ。
ゆったりとしたワインドアップモーションから2球目を投げた。
ギューン、と初球よりも回転の掛かったボールがベース手前で急激に下に変化した。
「なっ、…」
唐澤は思わず声を上げた。
「オット…」
滝沢は辛うじてボールをキャッチ。
「えーっと、今のはストライクかな」
ボールの変化に気を取られ、判定が曖昧になった。
「何だ、このボールは」
唐澤の目には、落ちるというより、下へ伸びるという球筋に見えた。
その軌道はフォークとは違い、変化量もかなり大きい。
「縦のスライダーみたいな変化だな」
「ですけど、少し変化が違うような」
縦のスライダーならば、スライダー回転しながら縦に変化するが、この球はスライダー回転はしていない。
「おーい、反町!もう1球投げてみろ」
「ハイ」
中田の指示通り、再び新球を投げた。
グイーン、と回転数の高いボールが鋭角的に縦に変化した。
しかも、落差が大きい。
「これは縦のシュートと呼ぶべきか…そんな軌道ですね」
バックネットで見ていた白石がこう評した。
「あぁ、確かに!縦の変化に目が行きがちだけど、少し外側にスライドしながら落ちたよ」
唐澤には僅かにシュートしながら鋭く落ちたように見えた。
「シンカーじゃないのか?」
「いや、シンカーならばもう少し緩く変化するだろ」
縦のシュート…それにしても、とんでもない変化球みたいだ。
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