プロ野球選手が異世界に転移したら向こうでも野球をやるハメに… 〜主砲の一振り Another story

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覇者 プリースト

プリーストの頭脳

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プリーストの核弾頭 ヴラジーミルの脚を封じたら、次はプリーストの頭脳でもある、ロベルト=マークス捕手にターゲットを絞った。


ロベルトの持ち味は、この世界では珍しくデータ重視のリードで投手陣を引っ張る。


打力は7番を打っているせいか、大した成績は残せてないが、チャンスの時にはめっぽう強く、得点圏打率では4割を超える程のバッティングだ。



「次はコイツか…確かにこの中では優秀なキャッチャーかもしんないけど、オレらの世界じゃ二流ってとこだな」



近衛が不敵な笑みを浮かべる。


それもそのハズ、ロベルトの弱点をいとも簡単に見抜いた。




この回、ワイズスの攻撃は6番のウィルから。



「ウィル」


近衛がウィルを呼び止めた。


「ん、何だ?」


「実はな…」


ウィルに耳打ちした。



「…大丈夫なのか、それで?」


「いいから、試しにやってみな」


半信半疑な表情を浮かべるウィルの腰をポーンと叩いた。



右バッターボックスに入るとロベルトが薄ら笑いを浮かべながら話し掛けてきた。


「よぉ、勝てないからってキャッチャーの真似事かよ?弱小チームのやる事は理解出来ねぇなぁ」



「なにィ!」



「そうカリカリすんなよ。何なら、お詫びに打ちやすい球を投げさせてやろうか?」



ロベルトのもう一つの特技は、バッターに対して心理的に揺さぶる言葉で抑える事だ。



実はプリーストの投手陣は野手に比べて能力が劣る。


そんな投手陣をサポートするように、ロベルトはデータプラス、囁き戦術でバッターを翻弄する。


やりくり上手と言えばそれまでなのだが、やや姑息な手段とも言える。



「ンだと、コノヤロー…」


ウィルは平常心を失っている。



「タイム、タイムっ!」


すかさず近衛がタイムをかけた。


「おい、ウィル!」



「何だよ」


ウィルを再度呼び寄せた。



「カッカすんな、アレがアイツのやり方なんだ。ああやってバッターの集中力を削ごうとしてるんだよ」


「分かってるよ…分かってるけど、イチイチ言う事が腹立つって言うか…」


ウィル自身も分かってはいるのだが、核心を突く言い方がスルー出来ずにいる。


「まぁ、確かにムカつくわな。でもな、さっき言った通りにすれば塁に出れる。冷静になって打つんだ、いいな?」


「わ、分かった」


深呼吸を繰り返して再び打席に入った。



「ムリムリ、そんな事したって打てっこないんだから」



(うるせぇ、早く投げろっつーの!)


イライラを抑えながらバットを構えた。



マウンド上のロナウドはここまで2安打ピッチングでワイズスを0に抑えている。



(コノエが言うには、ロナウドは直球とカーブしかないらしいが…)



ロナウドの持ち球はストレートとカーブのみ。


しかも、抜群のキレがあるわけでもなく、ロベルトのリードのお陰で抑えている。



「頼むぜぇ、ウィル。お前なら出来る」


近衛がその様子を見守る。



やや間があって、ロナウドが初球を投げた。



真ん中から外に逃げるカーブだ。



(これだ!)


ウィルはセーフティバントをした。



打球は一塁側へ転がった。



ファーストを守るケリーのダッシュが少し遅れた。



ウィルは全速力で一塁へ走る。


ケリーが捕って反転して一塁へ送球。


カバーに入ったロナウドがキャッチしようとするが、ボールが逸れてファールゾーンへ転々と転がった。



「行けぇ、ウィル!二塁だ!」


近衛がベンチから大声を出す。



ウィルは一塁を蹴って二塁へ。


ロナウドはフェンス際でようやくボールを捕るが、ウィルは既に二塁へ到達。



「やったぜ、ウィル!作戦通りだ!」


「あ、ハハハハハハハ…ホントに作戦通りになっちゃった」


笑顔のウィルとは対照的に、ロベルトは苦虫を噛み潰したような顔でロナウドを詰る。



「何であの球を捕らないんだっ!!お前が捕ってればアウトになったんだぞ!」


「ムチャ言うなよ!あんなに逸れた球をどうやって捕れって言うんだ」


すると今度は送球したケリーを問い詰める。



「お前がちゃんと投げないから、ああなったんじゃないか!」


「オレだって、全力でダッシュしてすぐに投げたんだ!しかも、振り向きざまに素早く投げたんだぞ!」




「おーおー、揉めてるわ」


近衛はその様子をベンチから眺めている。



一塁を守るケリーは左投げで、ダッシュしてボールを捕った直後、振り向きざまに一塁へ送球した。


近衛はケリーの左投げに目をつけた。



ウィルに命じたのは、カーブに狙いを定めてセーフティバントする事だった。


打球は一塁側へ転がるから、当然のようにケリーがボールを捕る。


正面でボールを捕れば、一塁へ送球する時には身体を反転させなければならない。


これが右投げならば、ステップするだけで送球出来たのだが、左投げとなれば背を向けた状態から身体の向きを替えなければならない。


しかも、振り向きざまに投げたせいでコントロール出来ずに逸れた。



だが、通常ならばロナウドの後ろにロベルトがバックアップするべきなのだが、現世の野球に比べてレベルが格段に劣る異世界の野球ではバックアップというフォーメーションは存在しない。



つまり、近衛はバックアップ出来ない事を既に見抜いていたのだった。



「へっへー、これからだぜ」



ノーアウトランナー二塁という先制点のチャンスを迎えた。
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