プロ野球選手が異世界に転移したら向こうでも野球をやるハメに… 〜主砲の一振り Another story

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試合よりも乱闘

呪われたバット

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「おい、何やってんだ!」


近衛が馬車から降りて助けに入った。


「誰だぁ、テメーは!」


小柄な男が凄んでくる。


「あぁ、悪ぃな…コイツ、ウチのチームのスタッフなんだけど、許してくんないかな」


「スタッフだぁ、だったらキチンと教育してやらにゃダメだろうが!」


「何なら、オレらが手取り足取り教育してやってもいいぜw」


お決まりのセリフだ。



「はぁ~…めんどくせぇな、ホントに」


近衛はため息をつきながら頭をボリボリ掻いた。


「いいから、この女をコッチによこせよ!」


「だから、コイツのした事は謝るよ。それで勘弁してくれないかな?」


まぁ、許すハズは無いだろ。



「バカか、お前は!オレらに対してバット振り回したんだぞ!謝るぐらいで許すワケ無いだろ!」


「もし許して欲しけりゃ、さっさと出せよ」


仲間の1人が手を出してきた。


「出すって…あぁ、金か。それなら、ほら」


近衛はポケットから金貨を数枚出した。



「チョッ…何してんのよ!こんなヤツらにお金なんてあげちゃダメじゃない!」


「何だと、このビッチが!」


「誰がビッチよっ!!」


再びクレアがバットを振り回して威嚇する。


「おい、よせっ!お前が事を大きくしてんじゃねぇか!」



「危ねぇな、おいっ!」


「コイツ、オレらを殺す気かよ!」


「逃げろっ!」


「待て、コラァ~っ!」


クレアは逃げ惑う連中を追い掛けながらバットを振り回す。

「あっ…」

すると、バットがすっぽ抜け、建物の外壁に当たって根元からポッキリと折れてしまった。


バキッ…


「あぁ!何やってんだよ、お前!」


折れたバットを手にしながら近衛が激怒する。


「ゴメーン!でも、ああするしかなかったから…」


「ふざけんなよ、このバットしか持ってないんだぞ!これじゃ、試合に出れないだろ!」


「バットなら、道具屋で売ってるじゃない!」


「へ?道具屋…何処にあんの、それ?」


バットやグラブを売ってる店はこの先にあるらしい。







「クソっ、あのバットかなり良い素材だったのに」


あのバットは、アオダモを使用した有名メーカーのものだ。


異世界で作るバットはどんな素材なのか。



カポノ神殿から10分程歩いた場所に、バットとグラブのデザインが書かれた木製の看板を掲げた店を発見した。



「ここか…入ってみよ」


ギィィ、と建付けの悪そうな扉を開けた。



「おぉ、バットやグラブがいっぱいある」


店内は無数のバットとグラブが置いてある。



店内の奥には、如何にも異世界マンガに出てきそうな、髭を蓄えた頑固そうなドワーフがバットを制作していた。



「…何だ、見ねえ顔だな。お前、何処の選手だ?」


ドワーフは訝しげな表情で近衛を見た。


「オレはベスパネット・ワイズスの近衛 克哉。バットが必要でこの店に来たんだが」


するとドワーフは作業を止め、近衛の前に立った。


(ホントにちっちゃいんだな)


ドワーフは近衛の腰の位置程の背丈で、オーバーオールを穿いているが、かなり屈強な身体付きで二の腕がかなり太い。



「ワイスズの選手が、わざわざ敵の国のバットを買いに来るのかよ」


「チョット訳あって、バットを折ってしまって…
このままじゃ、試合に出れないからこの店に来たって事」


「エクストリームボールの選手がバットをへし折るとは、お前はそんなに粗末に扱ってるのか?」


「オレじゃねぇよ!ウチのスタッフが折っちゃったんだよ!」


「フン、そんな大事なもんなら、お前がちゃんと持ってろ!他人に任せるんじゃねぇ!」


ごもっともだが、これは近衛よりもクレアに責任がありそうな気が…



「説教なら試合が終わってからいくらでも聞くから、今すぐにでもバットが必要なんだよ」


「バットならそこらにいっぱいあるだろ、好きなもん持っていけ!」


(何だ、このオヤジは!ムカつくヤツだな)



そんな事を思いながら、店内にあるバットを選んだ。


近衛が普段使用しているバットはミドルバランスタイプだ。


手に取ってしっくりくるものを探したが、これといったバットが見当たらない。



「ん~、これでもないし…どれがいいかなぁ」


ふと反対側に置かれたバットを見ると、茶色のグリップエンドが大きいバットが目に入った。



「こけしバットだ…コッチにもこのタイプがあるんだ」


近衛が手にしたバットはこけしバットと言われ、グリップエンドが太く、バットコントロールは出来るが長打が出にくいというデメリットもある。



「ほぉ、まさかそのバットを手にするとはなぁ」


ドワーフが興味深い表情で見つめる。


「え?いや、何となく目に入ったもんで」


「そのバットは呪いのバットって呼ばれて、手にする者は必ず呪われるという言い伝えがあるんだ」


「呪われたバット?はァァ?」


物騒なバットだ。
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