プロ野球選手が異世界に転移したら向こうでも野球をやるハメに… 〜主砲の一振り Another story

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ベスパネット・ワイズスというチーム

気ままな宿生活

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コッチに来てまだ初日だと言うのに、あれよあれよという間にベスパネット・ワイズスのトライアウトを受けるハメになり、入団する事となった。


「ところで、これから何処に住めばいいんだ?」


異世界でも衣食住はかなり大事だ。


「ミリアに住むところの手配してもらえばよかったかな」


こんな時、ケータイがあれば便利なんだが、生憎この世界は文明が向こうの世界(地球上)よりかなり遅れている。



「しょうがない…町をブラブラしながら泊まるところを探すか」



アテもなく町中を彷徨いた。



しばらく歩くと、小さな看板に宿泊と書いてある建物を見つけた。


この世界は木造建築で外壁をレンガ造りにしてある建物が多い。


「こんな所に泊まれる部屋があるのか」


大きめでかなり重そうな扉を開けた。


「ようこそ、いらっしゃいました!お客様は宿泊でよろしいですか?」


口ひげをたくわえ、恰幅のいい主人とその娘らしき少女が店を切り盛りしていた。

客は4、5人ほど。

どうやら、一階は食堂みたいだ。



「あ、ええ。泊まりなんだけど」


「泊まりは1泊で銅貨50枚になりますが」


「困ったな…銅貨なんて無いなぁ」


ストレージから金貨の入った袋を出した。


先ほど、支度金と言ってミリアから金貨5枚を渡された。


「お、お客様…金貨だなんて…これじゃ、お釣りが足りないですよ!」


主人が慌てふためく。


どうやら、この国の住人にとって金貨はべらぼうに高い金額みたいだ。


「じゃあ、こうしよう。オレは今日から1ヶ月ここで住むから、その間の宿泊代って事にしてよ」


「1ヶ月でもそんなにしませんよ!」


目を白黒させている。


「いいから、いいから!オレが持ってても使い道ないんだし、これで何とか頼むよ」



「お兄ちゃん、スゴいお金持ちなんだね~っ!」


小さいながら、懸命に店の手伝いをする少女が驚きの声を上げた。


「お金持ちかぁ、お兄ちゃんもそうなりたいもんだよ」


そう言って、少女の頭を撫でた。



「とにかくご主人、この金で1ヶ月の宿泊代にして欲しい。
出来れば、食事もお願いしたんだが」


「ハイ…口に合うかどうか分かりませんが、腕によりをかけてご馳走を作りますので」



これで当面の住まいは確保出来た。





近衛の泊まる部屋は二階の奥にある四畳半程の広さだ。


窓際にはセミダブル程の大きさのベッドと丸いテーブルと椅子。


壁には絵画が飾られ、ひし形のランプが部屋を照らしている。





「ありがとう、ルーシア。悪いけど、疲れたから少し寝るよ。夕飯の時間になったら起こしてくれないか?」


ルーシアとは、少女の名前だ。



「うん、分かった!では、ごゆっくりどうぞ」


ニコッと笑い一階へ戻った。





「ふぁ~あ、スゲー眠い…」


異世界に来て早々、目まぐるしい展開で心身ともに疲れた。


ベッドで横になると、ソッコーで爆睡した。






「えぇ~っ!!ワイズスのトライアウトに合格したんですかっ?!」


主人の驚いた声が食堂内に響く。



「お兄ちゃん、エクストリームボールの選手なんだ!だからお金持ちなんだね!」


ルーシアがスープの入った皿を運んできた。


「まぁ…なんて言うか、トライアウト受けたら合格してしまったというか」


テーブルには、主人特製のダークボア(暗黒猪)のソテー、異世界の根菜を洋風に煮込んだラタトゥイユに、緑黄色野菜とハーブをふんだんに使ったスープ、そしてこの国の主食でもあるソイヌードルという、大豆を原料とした麺が。


ソイヌードルはそのまま食べると味はイマイチな為、主人がオリーブオイルで炒めてニンニクで味付けして、ペペロンチーノ風に仕上げた。


ニンニクの風味が食欲をそそる。


「あんな難関のテストを合格するとは…そんなお方が、こんな寂れた宿に泊まるなんて、信じられない」


「そんな事ないって!マスターの作るメシは美味いし、居心地はいいし、1ヶ月と言わず、ずっと住みたいぐらいだよ」


初めて食べる物ばかりだが、どれも美味い。



「エクストリームボールの選手になれば、この先行ったところに、アパートメントという集合住宅があるんですが、ワイズスの選手専用の住まいで費用は0なんですよ?そこに移った方がいいのでは?」


(寮みたいなもんなのか?あのオンナ(ミリア)そんな事言ったっけ?)


寮だったら、先輩選手に気を使いながら過ごさなきゃならない。


それだったら、この宿で過ごした方が断然いい。


ここでしばらく滞在しよう、そう思った。
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