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フィレニア国
先制点
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近衛が目をつけた選手は、ショートを守るゼッケン93番の獣人だった。
ボロボロのグラブを使用しているが、柔らかいグラブ捌きに素早いスローイングは天性のものだろう。
守備範囲はあまり広くないが、鍛えれば更に向上するハズ。
オマケに打順は6番で近衛の前を打っている。
(コイツと組んでみる価値はあるかも)
4回の表、Cチームは三者凡退で終了。
Cチームはいまだノーヒット。
Dチームは近衛の放った三塁打のみ。
ベンチに戻ると、近衛は93番の獣人に声を掛けた。
「なぁ、アンタ守備がかなり上手いじゃん!」
「あ…あぁ、どうも」
獣人は控えめな態度だが、笑みを浮かべていた。
茶色い髪の頭頂部から耳がニョキっと出ている。
パッと見は人間と何ら変わりはない。
「オレの名前は近衛克哉。アンタの名は?」
「ボ、ボクはイシュー。狐の獣人です」
「キツネ…なる程、キツネみたいに俊敏な身のこなしなのか」
近衛よりもやや小柄だが、その分動きが素早い。
年齢はハタチ前後で童顔な顔立ちをしている。
「なぁ、アンタ。この試合に勝って、トライアウト合格したいと思わないか?」
「エッ…勝てば合格出来るんですか?」
興味津々の眼差しを向ける。
「敗けるよりも、勝った方が合格する確率が高いと思うんだ。
じゃあ、勝つにはどうすればいいか?」
「ど、どうすればいいんですか?」
食いついた、と近衛は思った。
「オレとアンタが組んで、どうやったらこの試合勝てるか作戦を練るんだ。
他のヤツらは勝つ事よりも、自分のプレーしか頭に無い。
アレじゃ、良いプレーは出来ねぇよ」
「でも、ボクたち2人だけでどうやって勝てるか」
「大丈夫だ。アンタが塁に出てくれりゃ、後はオレが何とかする」
そう言うと、作戦を耳打ちした。
「エッ!そんなんで勝てるんですか?」
イシューは半信半疑だ。
「これで絶対に勝てる…」
試合は0対0のまま、中盤の6回へ。
Dチームの攻撃はワンアウトから6番のイシュー。
グレーの泥だらけになったユニフォームは所々が継ぎ接ぎになってる。
これ一着しか無いのだろう。
聞けば、獣人は貧しい暮らしをしているらしい。
イシューは野球で成功して、家族を楽にさせたいという願いがある。
その為には何としてでもトライアウトに合格したい。
右打席に入り、バットを短めに持つ。
近衛が短く持つようアドバイスした。
Cチームは3人目のゼッケン55番を付けた左ピッチャー。
初球ストレートが外れてボール。
2球目はカーブでストライク。
3球目、カーブがワンバンしてツーボール。
カウントはツーボール、ワンストライク。
イシューは一旦打席を外し、ベンチを見た。
近衛が右拳を挙げた。
「…ヨシ」
意を決してイシューがバットを構えた。
ピッチャーが4球目を投げた。
今度は外角へのストレート。
(コレだっ)
イシューはベースに寄りに立っていた。
ベース寄りに立てば、バットを短く持っても届く。
イシューは逆らわずに右方向へ弾き返した。
カキーン…
打球はファーストの頭上を越え、ライト線を破る長打コース。
イシューは二塁でストップ。
「よくやった、イシュー!後はオレに任せろ!」
自信満々の表情で近衛が打席に入った。
(初球をぶっ叩く!変化球より、ストレートを投げてくるに違いない)
相手ピッチャーは力任せにストレートを投げてくるだろうと予想した。
案の定、ピッチャーはイシューのような非力なバッターに長打を打たれてカッカしている。
左対左とは言え、力の差は歴然。
ピッチャーが初球を投げた。
(…フフっ、読み通りだ)
インコースやや低めのストレートをギリギリまで引き付けて鋭く振り抜いた。
ガツン!という打球音と共に打球はライナーでライトへ。
そのまま打球は伸びてスタンドに突き刺さった。
「は、入った…」
その打球の速さにイシューは呆然としていた。
「これでこの試合勝ったな」
スタンドに入ったのを確認してからゆっくりとベースを回った。
近衛のツーランホームランでDチームが2点を先制した。
「コノエ=カツヤ…あの男こそ、我がチームを優勝に導いてくれるハズ…レベルが違いすぎる」
ミリアは近衛を合格させる事に決めた。
ボロボロのグラブを使用しているが、柔らかいグラブ捌きに素早いスローイングは天性のものだろう。
守備範囲はあまり広くないが、鍛えれば更に向上するハズ。
オマケに打順は6番で近衛の前を打っている。
(コイツと組んでみる価値はあるかも)
4回の表、Cチームは三者凡退で終了。
Cチームはいまだノーヒット。
Dチームは近衛の放った三塁打のみ。
ベンチに戻ると、近衛は93番の獣人に声を掛けた。
「なぁ、アンタ守備がかなり上手いじゃん!」
「あ…あぁ、どうも」
獣人は控えめな態度だが、笑みを浮かべていた。
茶色い髪の頭頂部から耳がニョキっと出ている。
パッと見は人間と何ら変わりはない。
「オレの名前は近衛克哉。アンタの名は?」
「ボ、ボクはイシュー。狐の獣人です」
「キツネ…なる程、キツネみたいに俊敏な身のこなしなのか」
近衛よりもやや小柄だが、その分動きが素早い。
年齢はハタチ前後で童顔な顔立ちをしている。
「なぁ、アンタ。この試合に勝って、トライアウト合格したいと思わないか?」
「エッ…勝てば合格出来るんですか?」
興味津々の眼差しを向ける。
「敗けるよりも、勝った方が合格する確率が高いと思うんだ。
じゃあ、勝つにはどうすればいいか?」
「ど、どうすればいいんですか?」
食いついた、と近衛は思った。
「オレとアンタが組んで、どうやったらこの試合勝てるか作戦を練るんだ。
他のヤツらは勝つ事よりも、自分のプレーしか頭に無い。
アレじゃ、良いプレーは出来ねぇよ」
「でも、ボクたち2人だけでどうやって勝てるか」
「大丈夫だ。アンタが塁に出てくれりゃ、後はオレが何とかする」
そう言うと、作戦を耳打ちした。
「エッ!そんなんで勝てるんですか?」
イシューは半信半疑だ。
「これで絶対に勝てる…」
試合は0対0のまま、中盤の6回へ。
Dチームの攻撃はワンアウトから6番のイシュー。
グレーの泥だらけになったユニフォームは所々が継ぎ接ぎになってる。
これ一着しか無いのだろう。
聞けば、獣人は貧しい暮らしをしているらしい。
イシューは野球で成功して、家族を楽にさせたいという願いがある。
その為には何としてでもトライアウトに合格したい。
右打席に入り、バットを短めに持つ。
近衛が短く持つようアドバイスした。
Cチームは3人目のゼッケン55番を付けた左ピッチャー。
初球ストレートが外れてボール。
2球目はカーブでストライク。
3球目、カーブがワンバンしてツーボール。
カウントはツーボール、ワンストライク。
イシューは一旦打席を外し、ベンチを見た。
近衛が右拳を挙げた。
「…ヨシ」
意を決してイシューがバットを構えた。
ピッチャーが4球目を投げた。
今度は外角へのストレート。
(コレだっ)
イシューはベースに寄りに立っていた。
ベース寄りに立てば、バットを短く持っても届く。
イシューは逆らわずに右方向へ弾き返した。
カキーン…
打球はファーストの頭上を越え、ライト線を破る長打コース。
イシューは二塁でストップ。
「よくやった、イシュー!後はオレに任せろ!」
自信満々の表情で近衛が打席に入った。
(初球をぶっ叩く!変化球より、ストレートを投げてくるに違いない)
相手ピッチャーは力任せにストレートを投げてくるだろうと予想した。
案の定、ピッチャーはイシューのような非力なバッターに長打を打たれてカッカしている。
左対左とは言え、力の差は歴然。
ピッチャーが初球を投げた。
(…フフっ、読み通りだ)
インコースやや低めのストレートをギリギリまで引き付けて鋭く振り抜いた。
ガツン!という打球音と共に打球はライナーでライトへ。
そのまま打球は伸びてスタンドに突き刺さった。
「は、入った…」
その打球の速さにイシューは呆然としていた。
「これでこの試合勝ったな」
スタンドに入ったのを確認してからゆっくりとベースを回った。
近衛のツーランホームランでDチームが2点を先制した。
「コノエ=カツヤ…あの男こそ、我がチームを優勝に導いてくれるハズ…レベルが違いすぎる」
ミリアは近衛を合格させる事に決めた。
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