The Baseball 主砲の一振り 続編1

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華々しく開幕した影で、二軍球場で必死になっている選手もいる。


梁屋航 25才。


今年26才になる彼は投手から外野手、そしてまた投手に転向する為、今日も二軍球場でひたすら練習に励む。


榊のアドバイスでオーバースローからスリークォーターに変えたところ、球速も上がって制球力も見違える程に良くなった。


しかし、これだけでは一軍のキップを手にする事は出来ない。


それは【決め球】だ。


一流のピッチャーは必ず決め球を持っている。


例えばマーリンズの天海は165km/hのバレットと呼ばれる高回転のフォーシーム。

キングダムの翔田は、縦に鋭く変化するスライダー。


昨日完投勝利を挙げた真咲は三種類のカーブ。


エースの中邑は落差の大きいフォークボール、と言った具合にウインニングショットを身につけている。


今の梁屋は、ストレートが最速149km/h

変化球はスライダーとチェンジアップのみ。

その二つも、変化量は差程大きくなく、カウントを獲る為には有効的だが、決め球にするには程遠い。



そこで榊は現役時代決め球にしていたカーブを伝授した。


ただこのカーブは普通のカーブと違い、内側から外側へ捻るように投げる。

シュートを投げる様な感覚だが、これをマスターすればドライブのかかった縦のカーブをモノに出来る。


榊はこのカーブで歴代最多奪三振を記録した。


【魔球】とも呼ばれ、約70cmもの落差のあるカーブは分かっていても打てなかった。


チームメイトだった櫻井でさえも

「榊さんのカーブは打てる気がしない」

と言うほどだった。


それだけに、習得するまでの期間が長い。


榊はマスターするのに3か月掛かったというが、梁屋はその倍の半年になるが、一向に変化しない。


「指を切るように投げる…こうか」


何度も手の向きを確認しながら投げる。

時折、少し曲がった軌道になるが、続けて曲がる事は無い。


「ウーン…ホントにこの投げ方でいいのかな」


段々と疑心暗鬼になる。


そもそも、この投げ方は肘をおかしくするのでは?と思うのだが、梁屋の肩と肘は柔軟で痛いと思った事は一度も無い。


それを見抜いて榊はカーブを伝授したのだろうが、いつまで経ってもイメージ通りの軌道にはならない。


もしかして、この投げ方は間違ってるのだろうか?

いや、そんな事は無い!

でも、この投げ方でホントに曲がるのか?


疑問に思う度にその思いをかき消すが、また新たな疑問が生じる。



「オレ、ダメなのかなぁ」


投げるのを止め、マウンドに座り込んだ。


「ピッチャーがダメなら…」

脳裏に浮かんだ。


野手としては、守備と走塁に関しては問題無いが、肝心の打撃はイマイチ。


おまけに、同じタイプの外野手はチームに何人もいる。


という事は、自分はチームに必要の無い選手…


それだけはイヤだ!


オレはスカイウォーカーズが好きだ!


他のチームでプレーするなんて、有り得ない。


そう考えると、石にかじりついてでもカーブをマスターしなきゃならない。



「考えても仕方ない…オレにはこれしかないんだ」


肚を括った。
    

もしダメだったら、その時はこの世界から身を引こうと。

だが、それまでは必死にやるのみ。



スクっと立ち上がり、再びボールを握った。


「縫い目に沿って指を置いてみよう」


縫い目の上に人差し指を置く。


「手のひらを後ろに向けるようにして、リリースの瞬間、外側に捻る」


何度も何度もこの投げ方をした。


「指で弾くようにして投げてみようか」


切るようにではなく、弾くように。

リリースの瞬間、指先を強く意識してボールを弾き出す様なイメージ。


梁屋は投げてみた。


(あっ、イイ感じ)


リリースの際、指から離れた感覚が先程よりも違う。


ボールはギューン、と縦に変化した。


「ス、スゲー…」


途中までストレートの軌道だが、ベース付近で一気に落ちた。

落ちるというより、急降下するという感じか。



「こ、これが監督の言ってたカーブ…」


ようやくイメージ通りの軌道になった。


「それじゃ、次はどうだ?」


もう一球投げてみた。


今度も指先の引っ掛かりが良い。


ボールは縦の変化球みたいに鋭く落ちた。


「これ、カーブというよりフォークみたいだ」


それだけ落差の大きいカーブだ。


「これで次はカーブのコントロールを付ければ完成だ」


梁屋はその後も投げ続けた。


もうすぐで完成する。


完成した時、一軍に昇格する。

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