The Baseball 主砲の一振り 続編1

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ストーブリーグ

起用法その2

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「では中田さん、トップバッターは誰がいいと思いますか?」


「1番か…確か財前がラファエルに代わって1番を打つんじゃないのか?」


榊の構想では、財前はリードオフマンとして起用すると明言している。


「やっぱりそうですよね…財前くんは脚もあるし、出塁率も高いし打率もある。
そう考えると、1番はやっぱり財前くんですかね」


櫻井も異論は無いようだ。


「でもな」

中田が一言付け加えた。

「でも…?」


「うん。お前は結城と鬼束は動かしたくないって言うが、オレは財前を3番にして、結城を1番でもいいんじゃないかって思うんだよな」


「結城くんを1番に?」


全く予想もつかない打順だ。


「驚く事は無いだろ~。結城は元々中距離ヒッターで脚も速いし、出塁率も高い。
財前も確かに打率は高いだろうが、長打力に関して言えば、鬼束よりも上だと思うんだが」


「という事は…鬼束くんを3番にして、財前くんを4番に…ですか?」


タバコが吸えないせいか、ソワソワしながら中田は話す。


「あぁ、ダメだ!ヒロト、悪い!場所変えないか?出来ればタバコが吸える場所がいい!」


ガマン出来ないらしい。


「喫煙者はアイデアが詰まるとタバコを吸うみたいですからね。
いいですよ。長居するもの良くないし、場所を変えましょう」


喫煙が可能な場所を探しているうちに、居酒屋に辿り着いた。




吉祥寺の繁華街にある海鮮物が新鮮な個室居専用の居酒屋に入り、和室でくつろぎながら紫煙を燻せ満足気な表情を浮かべている。


「飲めないなんて言いながら、結局は居酒屋に来ちゃったな」


「タバコが吸える場所といったら、酒を飲む所ぐらいですし。
中田さん、相当イライラしてましたから、場所を変えて正解です」


「悪いな、なるべくお前の方には煙が行かないようにするから。
そうだ!どうせ居酒屋に来たんだから、ここで飯でも食いながらゆっくり話そう、な!」


「いいですね、食事をしながらだといい案も浮かんできそうだし」



そんな感じでテーブルには海鮮物が所狭しと置かれた。


舌鼓を打ちながら、来季の打順について話し合った。


「ところで、さっき言ってた3番を鬼束くんに置いて4番を財前くんが打つという話ですけど」


櫻井は梅酒ソーダを飲んでいる。


「もっと極端な事を言えば、一番長打力のある毒島を4番にしてもいいと思うんだが…そうなると5番を打つ選手がいなくなる。
となると、5番は毒島しかいないと思うんだ」


「中田さんは5番を固定したいワケですね?」


「鬼束や財前が5番というワケにはいかないだろう?
で、鬼束を3番にして財前を4番にってのは、鬼束よりも財前の方が格は上だと思うんだよ、相手ピッチャーは。
財前に回す前に、何とかここで終わらせたいという焦りの中で鬼束を打席に迎えたらどうなる?」


「あぁ、なる程…プレッシャーは相当あるでしょうね」


中田は財前を3番か4番に据えたいらしい。


「逆でもいいんだよ。3番が財前で4番が鬼束でも。
ただ、オレは4番財前の方が面白そうだなって思って言っただけだからさ」


「うーん…ボクとしては、トップが結城くんというのがちょっと…すみません、アイデアを出してもらったのに」


櫻井は深々と頭を下げた。


現役を退いたとは言え、上下関係はいつまでも続くものだ。


「謝る事は無えよ!お前はヘッドコーチなんだし、そもそも打順を考えるのは監督がやる事だろ?
それなのに、ウチの監督はいつまで経っても将軍様のつもりでいやがる。
困ったもんだ」


「アハハハハ、榊さんは野手に関してはボクに任せっきりなんです。
自分は投手出身だから、野手はお前に任せた!って丸投げですよ」


「待てよ、そうなると来年はオレら二人に任せっきりってなるのか?」


「そうでしょうね」


はァ…と深いため息をついて、タバコに火をつけた。


「あのヤロー、面倒臭い事はコッチに押し付けるつもりかよ!」


「でも、やってみると結構楽しいもんですよ」


「そうかぁ?オレは去年、ニックスでヘッドコーチしてたけど、まぁ大変だった!」


長野ニックスでヘッドコーチをしていたが、外様という立場からか、肩書きだけのコーチで辟易していた。


そのお陰で鬼束をスカイウォーカーズに入れたのだから、中田の功績は大きい。


「スカイウォーカーズのコーチ陣はピストルズのメンバーですし、中田さんも気を使わないで気楽にやれますよ」


「ピストルズっていや、ヤマオカのオヤジさんブラックスの監督に就任したよな?いきなりチーム名変えてバンバン補強してるじゃん」


「ヤマオカ監督と敵味方に別れて戦うのは…手強い存在ですよね」


愛媛ブラックス改め、名古屋99ersは要注意だ。


「あぁ、そうだ!それともう一つ、外野はセンターが唐澤くんで、ライトは財前くんに任せるとして、レフトは誰が良いと思いますか?」


「難しいところだな」


中田は腕を組んでウーン、唸った。


「期待のルーキー、森高くんといきたいところですが、こればっかりはどうも…」


「ドラ1とは言え、そう簡単に開幕一軍なんて無理だろ」


「誰が相応しいですかね?」


「今からコンバートさせるワケにはいかないし…あ、そうそう!梁屋は?アイツのケガはもう治ったんだろ?」


「梁屋くんですか…」


櫻井はため息をついた。


「何だよ、ダメなのか?」


「いえ、榊さんがもう一度ピッチャーに転向させるって息巻いて、付きっきりで指導してますよ」


その梁屋は今日も二軍球場で投球フォームを固める為に投げ込みをしている。


「アイツはアイツなりに考えてるんだろ…ヒロトは梁屋の事をあまり評価してないけど、オレはアイツこそが1番に相応しいと思うんだがな」


「そうでしょうか?」


「確かに早打ちで出塁率もそれ程高くないが、ヒットは量産出来るタイプだろ?
脚も速いし、次の塁に行こうとする姿勢は評価してもいいんじゃないか?」


「…」


櫻井は無言で頷く。


「ピッチャーに戻すというなら、それはそれで良いと思うよ。
ただ、もしレフトは?と聞かれたらオレは梁屋と言うけどね」


「そうですか…梁屋くんの見方を少し変えた方がいいですかね?」


「そうだな」



結局、これといったアイデアは浮かばなかったが、櫻井は中田と意見交換が出来ただけでも有意義な一日を過ごせたのでは、と思った。
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