The Baseball 主砲の一振り 続編1

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栄冠

最終決戦その7

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毒島の今シーズンの成績を詳しく紹介すると、
打率0.283  
ホームラン39 
打点92 
盗塁3
出塁率0.371
長打率0.584
OPS0.955


IsoDに換算すると0.088

IsoPだと0.301

決して結城や鬼束にも劣らない程の数値だ。


5番バッターとして優秀な成績だが、櫻井はこの他にも得点圏打率の高さを挙げた。


「毒島くんの得点圏打率は0.403
チャンスに強く、ランナーを返すのが目的の5番バッターに適してます」


「ちょっと待った!チャンスに強いのは分かったけど、得点圏打率なら他にも高いヤツがいるだろ?中山だって4割越えてるし、打率だって3割越えてるだろ?」


だが櫻井は首を横に振る。


「確かに中山くんは毒島くんよりも打率は高く、得点圏打率も4割を越えてます。
でもランナーが三塁にいる場合に絞ると、毒島くんの得点圏打率は0.534…これは12球団でもトップなんです。
つまり、三塁にランナーがいると半分以上の確率で打点を叩き出す事が出来るバッターなんです」


「…マジで?」


榊には信じ難い話だ。


「ええ…ランナーが三塁にいた時の毒島くんは、結城くんや鬼束くんよりも怖いバッターという事なんです」


それらを考慮して毒島を5番に据えた。


櫻井だけではない、打撃コーチのトーマスも毒島のバッティングには一目置いている。


唐澤、結城、鬼束の三人がメジャーに行っても通用するが、【中距離ヒッター】と注釈が付く。


だが毒島だけは【長距離ヒッター】としてメジャーで4番を打てるパワーを秘めている。


毒島のホームランの平均飛距離は約126.1m


どの球場でもスタンド上段に運ぶパワーを持っている。


ましてや、マウンドにいるのはパワーピッチャーの天海。


力対力の真っ向勝負ならば、160km/hを越えたバレットすら軽々とスタンドインする。



櫻井は毒島の長打に賭けた。





その毒島は再度足元を固め、再びバットを上段に構えた。


(次…いや、その次の球を狙う。
天海の事だから、直球で押すピッチングをするだろう)

狙い球をバックスピンのバレットに絞った。


三塁ランナー唐澤、二塁ランナー結城は小さくリードをとる。



川上のサインに頷き、右腕をムチの様にしならせ二球目を投げた。

今度はバックスピンのバレットがアウトコース高目へ。
(ここも見送る!)

毒島はバットを出さず。


「ストライクツー!」



球速は165km/h

バレットの威力は全く衰えず、寧ろ増している。



「フゥ…」


打席で大きく息を吐いた。


(真っ向勝負か…パワーには、パワーしかない!
って言うか、オレにそんな技術は無いし)


毒島の表情に迷いは消えた。


バレットを思いっきりフルスイングのみ。



(天海、ここで変化球投げるか?)


川上は変化球のサインを出した。


一瞬躊躇したが、首を縦に振った。


ペナントレース最終戦で優勝決定戦…


自分の都合だけで投げるワケにはいかない。


(この球で打ち取ってやる)


大歓声の中、ダイナミックなモーションから三球目を投げた。



(変化球だ)


毒島は天海の表情を見て感じ取った。


読み通り、外角へ流れるスライダー。


「これじゃないっ!」


毒島はこれをカットした。


「ファール!」


打球は一塁側ファールゾーンへ転々と転がる。


毒島は天海の表情を見て読み取った。


これは変化球のサインに違いない、と。


来るなら来い!但し、自慢のバレットで勝負しろと無言の圧力をかける。


天海もそれを感じたのか、変化球で勝負するのは避けようと決めた。


だが、川上は再度スライダーを要求する。


今度は首を振った。


ならばと、フォークをサインを出す。


これも首を振る。


では、カーブ。


またしても首を振った。


「タイム」


川上がタイムをかけ、マウンドに向かった。


「天海…お前、ストレートで勝負するつもりか?」


「川上さん…今の毒島には、変化球を投げてもカットしてくる。
ホンマに申し訳無いんやが、ここはストレートで勝負させてくれへんか?」


そう言うと、天海は内野陣を集めた。


「どうした、天海?」


羽田が声を掛けた。


天海は自分の思いを伝えた。


「皆…申し訳無いが、ここは真っ向勝負させてくれへんかな?
変化球投げて打ち取っても、抑えた気せえへんのや…
それに、アイツは変化球をカットしてくる。
頼む、ここはオレの投げたい球を投げさせてくれへんか?」


すると羽田は、グラブで天海の胸をボン、と叩いた。


「何だ、そんな事か…
ここはお前のやりたい様にやればいいだろ。
誰もお前のやる事に反対なんかしないさ…
その代わり、力でねじ伏せるんだ。いいな?」


「羽田…」


他の内野陣も異論は無い。


「やれよ、天海」


「ここまできたのも、お前の力があってこそなんだ」


「仮に打たれても、お前を責めるヤツなんていないさ」



「皆…ホンマにええのか?」


「当たり前だろ、お前が変化球でかわすピッチングしたら、誰も納得しないだろ」


「そういう事だ。天海…オレたちが守るから、お前は全力で毒島を抑えるんだ、いいな?」


紆余曲折を経てマーリンズに入団したが、このチームに入ってホントに良かったと心底思った。


チームワークの大切さを改めて知らせた。


「おおきに…それじゃ、全力で投げるさかい、フォロー頼んだで!」


晴れやかな表情をしている。


「よし、オレたちも全力で守り抜くぞ!」


「おぅ!」


羽田の号令で守備についた。


(皆、おおきに…もし打たれて敗けたとしても、オレは優勝以上に大切な事を手に入れた様な気がする)


チームメイトという、かけがえのない宝物を得た。

ロージンを手にすると、フゥっと息を吹きかけた。


(天海…ここだ。ここに投げるんだ)


川上はサインを出さず、インコース低目にミットを構えると力強く頷いた。


その構えを見て、天海も大きく頷いた。


カウントはノーボール、ツーストライクで次が四球目となる。







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