35 / 62
デビュー
怒涛のフィニッシュ
しおりを挟む
今道の反撃が始まった。
東郷とのスパーで会得した打撃で西を追い詰める。
左のローを膝の内側に叩き込むと、バチーン!という音が響いた。
あまりにも速く鋭い蹴りで西はディフェンスが間に合わず、モロに食らってダウン。
「カウントなんて数えさせねぇぞ!」
膝を抑えて苦悶の表情を浮かべる西を無理矢理立たせ、今度は右のローでふくらはぎに一撃。
これもバチーン!という音を立て、再びダウン。
総合格闘技やキックで頻繁に見られるカーフキックだ。
「グァァァァ!」
断末魔の様な悲鳴を上げ、西はのたうち回る。
「だから、ダウンカウントなんていらねぇんだよ!」
今度は倒れた西の右足を取り、うつ伏せにしてレッグロックに移行する。
更に背後から覆い被さり、その太い腕で顔面を締め上げる。
STF(ステップオーバートゥーホールドwithフェイスロック)が完璧に極まった。
「西、ギブアップ?」
「ノ、NO!」
西の両足はローキックで破壊された。
この状態からロープブレイクに逃れる事は不可能だ。
万力の様な今道の顔面締めに左足がロックされ、身動き出来ない。
このまま締め上げればギブアップ、もしくはレフェリーストップで勝利となるが、神宮寺から課せられたラリアットでのフィニッシュは失敗に終わってしまう。
何としてでもボーナスをゲットしたい今道はSTFを解いた。
「何で技を解いたんだ?」
「ギブアップするのは時間の問題だったじゃないか?」
「まさか、八百長か?」
客席からそんな声が聞こえる。
「何言ってやがる…コッチはボーナス貰う為にワザと外したんだよ!」
倒れている西に対し、立てとジェスチャーする。
「クソッ…このオレがデビューしたばかりの新人にここまで追い詰められるとは…」
闘ってみてわかった。
今道は並の新人ではない。
パワー、スピード、技のタイミング、どれをとっても表舞台のトップレスラーに引けを取らない程のレベルだ。
(アァ、オレがやりたかったプロレスはこれだったんじゃないか?)
西が長年求めていたプロレスがここにある。
「…だったら、ここでくたばるワケにはいかねぇよな…」
歯を食いしばって立ち上がった。
「こ、こんなモン、いらねぇな」
西はオープンフィンガーグローブを外し、放り投げた。
「オレはプロレスラーとして闘う…」
足を引きずりながらも、前へ出る。
「ヨシ、こっからはプロレスで勝負だ」
「何、ブツブツ言ってんだ?」
今道が距離を詰める。
すると西は両手を広げ、ロックアップの体勢に入った。
「アッ…」
不用意に前へ出た今道の頭部を抱えると、強烈なヘッドロックで締め上げる。
「グァ…」
今度は今道が苦痛に顔を歪める。
足に力が入らないが、今道と遜色の無い太い腕でギリギリと締め上げる。
今道が片膝を着いた。
それでも西はヘッドロックを外さない。
この技でギブアップを奪うつもりだ。
「今道、ギブアップか?」
「す、するわけねぇだろ…」
とは言え、頭が割れる程の激痛で気を失いそうだ。
「ギブアップしろ、このままだと、オマエの頭蓋骨が砕けてしまうぞ!」
「…絶対にギブアップはしない!」
「なら仕方ない…その頭を砕いてやる!」
更に力を込めた。
「グゥオオオオオオオオオオオ!」
またしても今道の驚異的なパワーで立ち上がると、腰に手を回し、物凄い勢いで後ろに叩きつけた。
スダーン!とマットが一瞬バウンドする。
力技で放ったバックドロップを炸裂。
その衝撃でヘッドロックが外れ、西は後頭部を強かに打った。
立ち上がった今道は頭部を抑えている。
「痛ってぇな、コノヤロー!」
普段は天然な今道だが、攻撃を受けると怒りのバロメーターが上昇する。
西の腕を取り、強引に起こすと、片腕ごと胴体に手を回し、先程よりも鋭角に速い投げを打った。
ダダーン!と更に強い衝撃音と共に西はマットに沈む。
神宮寺が現役時代に使用していた、グレコローマン式のバックドロップで追撃する。
「つ、強ぇ…オレとは次元が違いすぎる…」
この時点で西は負けを悟った。
「さぁ、早く立てよ」
今道は立ってこいと促す。
「…世の中は広すぎる…こんなに強いヤツがいるなんてな…」
満身創痍で尚も立ち上がろうとする。
その瞬間、今道の身体が分身したかのように素早くサイドにステップ。
目の前に太い左腕が迫り来る。
バキッ…と喉元に衝撃を受けたと同時に107kgの身体が吹っ飛んだ。
(…コリャ、オレの完敗だ…)
そこで西の意識は絶たれた。
レフェリーは即座にゴングを要請。
【カンカンカンカンカン!】
会場はウォーっという歓声に包まれた。
「や、やった…何とか勝てた…そして、大金ゲットだぜ!」
そう言うと今道も安堵の表情を浮かべながら倒れた。
12分43秒、ノーモーションラリアットからのKOで今道が勝利した。
「今道クン、しっかりしなさい!」
リングに上がった東郷が頬を叩く。
パチーン!
「東郷さん…何とかデビュー戦勝てました」
「おめでとうございます。これであなたも真のプロレスラーです」
「あ、ありがとうございます…」
勝った喜びよりも、ホッとした気持ちの方が強い。
「東郷さん…オレのファイトマネーは?」
「本日のファイトマネーは、508万6千7百23円です。それに、神宮寺さんからの特別ボーナスが支給され、合計808万6千7百23円となります」
「…は、800万…夢じゃないよな?」
桁違いのファイトマネーに頭がクラクラした。
「夢ではありません…とにかく、あなたはプロレスラーとしての第一歩をスタートさせたのです」
「シンドいっす…」
ともあれ、今道はデビュー戦を白星で飾った。
今道のプロレスラー人生は始まったばかりだ。
デビュー戦
対西賢治
12分43秒 KO勝ち
1戦1勝
東郷とのスパーで会得した打撃で西を追い詰める。
左のローを膝の内側に叩き込むと、バチーン!という音が響いた。
あまりにも速く鋭い蹴りで西はディフェンスが間に合わず、モロに食らってダウン。
「カウントなんて数えさせねぇぞ!」
膝を抑えて苦悶の表情を浮かべる西を無理矢理立たせ、今度は右のローでふくらはぎに一撃。
これもバチーン!という音を立て、再びダウン。
総合格闘技やキックで頻繁に見られるカーフキックだ。
「グァァァァ!」
断末魔の様な悲鳴を上げ、西はのたうち回る。
「だから、ダウンカウントなんていらねぇんだよ!」
今度は倒れた西の右足を取り、うつ伏せにしてレッグロックに移行する。
更に背後から覆い被さり、その太い腕で顔面を締め上げる。
STF(ステップオーバートゥーホールドwithフェイスロック)が完璧に極まった。
「西、ギブアップ?」
「ノ、NO!」
西の両足はローキックで破壊された。
この状態からロープブレイクに逃れる事は不可能だ。
万力の様な今道の顔面締めに左足がロックされ、身動き出来ない。
このまま締め上げればギブアップ、もしくはレフェリーストップで勝利となるが、神宮寺から課せられたラリアットでのフィニッシュは失敗に終わってしまう。
何としてでもボーナスをゲットしたい今道はSTFを解いた。
「何で技を解いたんだ?」
「ギブアップするのは時間の問題だったじゃないか?」
「まさか、八百長か?」
客席からそんな声が聞こえる。
「何言ってやがる…コッチはボーナス貰う為にワザと外したんだよ!」
倒れている西に対し、立てとジェスチャーする。
「クソッ…このオレがデビューしたばかりの新人にここまで追い詰められるとは…」
闘ってみてわかった。
今道は並の新人ではない。
パワー、スピード、技のタイミング、どれをとっても表舞台のトップレスラーに引けを取らない程のレベルだ。
(アァ、オレがやりたかったプロレスはこれだったんじゃないか?)
西が長年求めていたプロレスがここにある。
「…だったら、ここでくたばるワケにはいかねぇよな…」
歯を食いしばって立ち上がった。
「こ、こんなモン、いらねぇな」
西はオープンフィンガーグローブを外し、放り投げた。
「オレはプロレスラーとして闘う…」
足を引きずりながらも、前へ出る。
「ヨシ、こっからはプロレスで勝負だ」
「何、ブツブツ言ってんだ?」
今道が距離を詰める。
すると西は両手を広げ、ロックアップの体勢に入った。
「アッ…」
不用意に前へ出た今道の頭部を抱えると、強烈なヘッドロックで締め上げる。
「グァ…」
今度は今道が苦痛に顔を歪める。
足に力が入らないが、今道と遜色の無い太い腕でギリギリと締め上げる。
今道が片膝を着いた。
それでも西はヘッドロックを外さない。
この技でギブアップを奪うつもりだ。
「今道、ギブアップか?」
「す、するわけねぇだろ…」
とは言え、頭が割れる程の激痛で気を失いそうだ。
「ギブアップしろ、このままだと、オマエの頭蓋骨が砕けてしまうぞ!」
「…絶対にギブアップはしない!」
「なら仕方ない…その頭を砕いてやる!」
更に力を込めた。
「グゥオオオオオオオオオオオ!」
またしても今道の驚異的なパワーで立ち上がると、腰に手を回し、物凄い勢いで後ろに叩きつけた。
スダーン!とマットが一瞬バウンドする。
力技で放ったバックドロップを炸裂。
その衝撃でヘッドロックが外れ、西は後頭部を強かに打った。
立ち上がった今道は頭部を抑えている。
「痛ってぇな、コノヤロー!」
普段は天然な今道だが、攻撃を受けると怒りのバロメーターが上昇する。
西の腕を取り、強引に起こすと、片腕ごと胴体に手を回し、先程よりも鋭角に速い投げを打った。
ダダーン!と更に強い衝撃音と共に西はマットに沈む。
神宮寺が現役時代に使用していた、グレコローマン式のバックドロップで追撃する。
「つ、強ぇ…オレとは次元が違いすぎる…」
この時点で西は負けを悟った。
「さぁ、早く立てよ」
今道は立ってこいと促す。
「…世の中は広すぎる…こんなに強いヤツがいるなんてな…」
満身創痍で尚も立ち上がろうとする。
その瞬間、今道の身体が分身したかのように素早くサイドにステップ。
目の前に太い左腕が迫り来る。
バキッ…と喉元に衝撃を受けたと同時に107kgの身体が吹っ飛んだ。
(…コリャ、オレの完敗だ…)
そこで西の意識は絶たれた。
レフェリーは即座にゴングを要請。
【カンカンカンカンカン!】
会場はウォーっという歓声に包まれた。
「や、やった…何とか勝てた…そして、大金ゲットだぜ!」
そう言うと今道も安堵の表情を浮かべながら倒れた。
12分43秒、ノーモーションラリアットからのKOで今道が勝利した。
「今道クン、しっかりしなさい!」
リングに上がった東郷が頬を叩く。
パチーン!
「東郷さん…何とかデビュー戦勝てました」
「おめでとうございます。これであなたも真のプロレスラーです」
「あ、ありがとうございます…」
勝った喜びよりも、ホッとした気持ちの方が強い。
「東郷さん…オレのファイトマネーは?」
「本日のファイトマネーは、508万6千7百23円です。それに、神宮寺さんからの特別ボーナスが支給され、合計808万6千7百23円となります」
「…は、800万…夢じゃないよな?」
桁違いのファイトマネーに頭がクラクラした。
「夢ではありません…とにかく、あなたはプロレスラーとしての第一歩をスタートさせたのです」
「シンドいっす…」
ともあれ、今道はデビュー戦を白星で飾った。
今道のプロレスラー人生は始まったばかりだ。
デビュー戦
対西賢治
12分43秒 KO勝ち
1戦1勝
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる