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修行時代
プロレスラーのプライド
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東郷はノーガード、片や神宮寺はレスリング出身らしく、やや前傾のクラウチングスタイルをとる。
神宮寺はジリジリと距離を詰める。
一体どんな闘い方をするのか、全くの未知数だ。
ノーガードで隙だらけの東郷だが、神宮寺は後一歩が踏み込めない。
(コイツは危険だ…見た目に惑わされがちだが、タダモノではないオーラを放っている)
迂闊に飛び込むのは危険だと判断した。
一定の距離を保ったまま、一分が経過した。
東郷からは攻めてくる気配が無い。
(コッチから仕掛けないと攻撃してこないつもりか)
意を決して、フェイントを掛けながら片足タックルを敢行した。
「…」
だが、東郷はこれを読んでいたのか、紙一重のところで横に躱し、カウンターで膝を顔面にぶち込む。
(メキッ…)
「グハッ…」
神宮寺はモロに食らったが、すんでのところで堪え、ダウンを免れた。
「やるじゃねぇか…戦場じゃ、お前の方が上かもしれないが、リングではオレの方が上だと言うのを教えてやる」
今度は胴タックルで東郷の身体をロックすると、担ぎ上げて後方へ叩きつけた。
プロレス技の水車落としだ。
バキッ…
「ぐぁぁぁ…」
しかし、東郷はマットに叩きつけられる前に、空中で膝を神宮寺の脳天に叩きつけた。
神宮寺のダメージは大きい。
それでも立ち上がる。
「クッ…負けるワケにはいかねぇんだよ」
今度は強引に組み付き、足を掛けてテイクダウンに成功。
グラウンドの攻防となった。
神宮寺が東郷の左腕を取り、腕ひしぎ十字固めに移行する。
だが、東郷は同時に立ち上がると、右肘で神宮寺の顔面を捕える。
グシャッ…
「ウガッ…」
一発で鼻から鮮血が飛び散った。
「クソっ…こりゃ、鼻骨骨折かもな」
だが、怯まず再度腕を取ってアームロックに捕らえようとする。
すると、東郷は身体を反転させ、延髄斬りの要領で神宮寺の後頭部を蹴った。
バシーン!という音がして、神宮寺は堪らずダウン。
立会い人がカウントを数える。
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ…」
「まだまだぁ…」
それでも神宮寺は立ち上がる。
「まだ立ち上がるのですか」
東郷は首を振る。
「プロレスラーってのは、打たれ強いのがウリだからな」
せめて、一矢報いたい。
東郷はそんな神宮寺を冷ややかな眼差しで見る。
「オレはまだギブアップしちゃいないぞ」
「しぶといですね…」
今度は東郷が攻撃を仕掛けた。
ガードがガラ空きのボディに左ミドルを放った。
ズゥーーーン!という重い蹴りをアバラに叩きつけた。
「グオッ…」
こんな小さな身体なのに、レスラーに怪我を負わせる程の破壊力を持つ東郷は、イスラエルの格闘術、クラヴ・マガをマスターしており、白兵戦では無類の強さを発揮する。
しかし、神宮寺もプロレスラーとしてのプライドがある。
ミドルを食らいながらも、足をキャッチ。
そのまま寝技に移行してアキレス腱固めに捕らえた。
「クッ…」
ポーカーフェイスの東郷の顔が一瞬歪んだ。
「じゃあ、これはどうだ?」
顔面から血を流しながら、神宮寺はアキレス腱固めから踵を抱え、ヒールホールドに切り替えた。
「グァ…」
てこの原理で膝が捻れる。
「どうだい、兵隊さん。ギブアップしないと靭帯が切れちまうぜ」
さすがの東郷も苦痛な表情を浮かべる。
「さすがプロレスラー…と言いたいところですがね」
そう言うと、東郷は神宮寺の大腿部の外側を爪先で蹴った。
「ガッ…」
ちょうど筋の部分にヒットし、神宮寺は激痛のあまり、ヒールホールドを解いた。
東郷は素早く背後に回り、チョークスリーパーを掛けた。
東郷の腕は細く、ピンポイントで喉仏に食い込む。
「ガハッ…」
息ができない…
徐々に視界が薄らいでいく。
「ギブアップかね、神宮寺くん」
「ノ…ノー」
微かな声で必死に抗う。
「これ以上は危険だ」
ギブアップしなけりゃ、神宮寺は死んでしまう。
神宮寺の意識が飛んだ。
すると、東郷は手を離した。
「もういいでしょう」
「うむ。東郷くん、君の勝ちだ」
立会い人達は東郷の勝利を告げた。
「いえ、彼は死んでもギブアップはしなかったでしょう…となれば、この勝負は私の勝ちとは言えません」
東郷は勝ちを拒否する。
「しかし、神宮寺くんは落ちてるんだぞ?どう見たって、君の勝ちじゃないか」
「傍から見れば私の勝ちかもしれません。
しかし、私は彼の気迫とプロレスラーとしてのプライドの前に恐怖を感じた。
もし、試合が長引けば、逆の立場になっていたかもしれません」
最後までプロレスラーであり続けた神宮寺に特別な感情を抱いた。
「そこでお願いがあります」
「どうした?」
「彼のスポンサーになっていただけないでしょうか?」
東郷は深々と頭を下げた。
「しかし…試合に勝つというのが条件だしなぁ」
「どうしてもダメですか?」
「ウーン…」
返答に困る。
すると東郷は思いもよらぬ事を言う。
「それならば、私が彼のスポンサーになりましょう」
「何っ、君がスポンサーだと?」
想定外の展開となった。
「えぇ…幸い、私は傭兵として余りある財産を手にしてきました。
どうせ、使うアテもない。
ならば、彼に投資するのも良いかと思いまして」
東郷も、神宮寺の思い描いたプロレス団体に興味を示した。
「よかろう!それならば、我々も全面的にバックアップしてやろうじゃないか。
その代わり、今までにないリアルな闘いをするプロレスラーを作り上げる事、これが条件だ!いいな?」
「ありがとうございます」
東郷は再度、深々と頭を下げた。
「とまぁ、こんな経緯で東郷さんがスポンサーになってくれたお陰で、金持ち連中が力を貸してくれたってワケだ」
神宮寺は東郷との闘いを告白した。
「そんな事が過去にあったんですか」
全てを知らされた今道は驚くばかりだ。
「もういいでしょう、神宮寺さん…あの試合は引き分けです」
「いや、あの試合はアンタの勝ちだ」
「勘弁してくださいよ…」
東郷はしきりに照れる。
「スゲーなぁ、コーチは。最強と呼ばれたプロレスラーに勝つとは」
「今道クン、君はこの偉大なるレスラーを超える存在にならなければならない。
いいですか、これからは更に過酷な試練が待ち受けてます。
しかし、あなたはそれに打ち勝たねばならないのです」
東郷は真剣な眼差しで今道を見る。
「ハ、ハイ…」
「期待してるぜ、ボーズ!将来のチャンピオンを祝して今日は豪勢なメシでも食いに行くか!」
神宮寺の提案で三人は夜の繁華街へと消えた。
神宮寺はジリジリと距離を詰める。
一体どんな闘い方をするのか、全くの未知数だ。
ノーガードで隙だらけの東郷だが、神宮寺は後一歩が踏み込めない。
(コイツは危険だ…見た目に惑わされがちだが、タダモノではないオーラを放っている)
迂闊に飛び込むのは危険だと判断した。
一定の距離を保ったまま、一分が経過した。
東郷からは攻めてくる気配が無い。
(コッチから仕掛けないと攻撃してこないつもりか)
意を決して、フェイントを掛けながら片足タックルを敢行した。
「…」
だが、東郷はこれを読んでいたのか、紙一重のところで横に躱し、カウンターで膝を顔面にぶち込む。
(メキッ…)
「グハッ…」
神宮寺はモロに食らったが、すんでのところで堪え、ダウンを免れた。
「やるじゃねぇか…戦場じゃ、お前の方が上かもしれないが、リングではオレの方が上だと言うのを教えてやる」
今度は胴タックルで東郷の身体をロックすると、担ぎ上げて後方へ叩きつけた。
プロレス技の水車落としだ。
バキッ…
「ぐぁぁぁ…」
しかし、東郷はマットに叩きつけられる前に、空中で膝を神宮寺の脳天に叩きつけた。
神宮寺のダメージは大きい。
それでも立ち上がる。
「クッ…負けるワケにはいかねぇんだよ」
今度は強引に組み付き、足を掛けてテイクダウンに成功。
グラウンドの攻防となった。
神宮寺が東郷の左腕を取り、腕ひしぎ十字固めに移行する。
だが、東郷は同時に立ち上がると、右肘で神宮寺の顔面を捕える。
グシャッ…
「ウガッ…」
一発で鼻から鮮血が飛び散った。
「クソっ…こりゃ、鼻骨骨折かもな」
だが、怯まず再度腕を取ってアームロックに捕らえようとする。
すると、東郷は身体を反転させ、延髄斬りの要領で神宮寺の後頭部を蹴った。
バシーン!という音がして、神宮寺は堪らずダウン。
立会い人がカウントを数える。
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ…」
「まだまだぁ…」
それでも神宮寺は立ち上がる。
「まだ立ち上がるのですか」
東郷は首を振る。
「プロレスラーってのは、打たれ強いのがウリだからな」
せめて、一矢報いたい。
東郷はそんな神宮寺を冷ややかな眼差しで見る。
「オレはまだギブアップしちゃいないぞ」
「しぶといですね…」
今度は東郷が攻撃を仕掛けた。
ガードがガラ空きのボディに左ミドルを放った。
ズゥーーーン!という重い蹴りをアバラに叩きつけた。
「グオッ…」
こんな小さな身体なのに、レスラーに怪我を負わせる程の破壊力を持つ東郷は、イスラエルの格闘術、クラヴ・マガをマスターしており、白兵戦では無類の強さを発揮する。
しかし、神宮寺もプロレスラーとしてのプライドがある。
ミドルを食らいながらも、足をキャッチ。
そのまま寝技に移行してアキレス腱固めに捕らえた。
「クッ…」
ポーカーフェイスの東郷の顔が一瞬歪んだ。
「じゃあ、これはどうだ?」
顔面から血を流しながら、神宮寺はアキレス腱固めから踵を抱え、ヒールホールドに切り替えた。
「グァ…」
てこの原理で膝が捻れる。
「どうだい、兵隊さん。ギブアップしないと靭帯が切れちまうぜ」
さすがの東郷も苦痛な表情を浮かべる。
「さすがプロレスラー…と言いたいところですがね」
そう言うと、東郷は神宮寺の大腿部の外側を爪先で蹴った。
「ガッ…」
ちょうど筋の部分にヒットし、神宮寺は激痛のあまり、ヒールホールドを解いた。
東郷は素早く背後に回り、チョークスリーパーを掛けた。
東郷の腕は細く、ピンポイントで喉仏に食い込む。
「ガハッ…」
息ができない…
徐々に視界が薄らいでいく。
「ギブアップかね、神宮寺くん」
「ノ…ノー」
微かな声で必死に抗う。
「これ以上は危険だ」
ギブアップしなけりゃ、神宮寺は死んでしまう。
神宮寺の意識が飛んだ。
すると、東郷は手を離した。
「もういいでしょう」
「うむ。東郷くん、君の勝ちだ」
立会い人達は東郷の勝利を告げた。
「いえ、彼は死んでもギブアップはしなかったでしょう…となれば、この勝負は私の勝ちとは言えません」
東郷は勝ちを拒否する。
「しかし、神宮寺くんは落ちてるんだぞ?どう見たって、君の勝ちじゃないか」
「傍から見れば私の勝ちかもしれません。
しかし、私は彼の気迫とプロレスラーとしてのプライドの前に恐怖を感じた。
もし、試合が長引けば、逆の立場になっていたかもしれません」
最後までプロレスラーであり続けた神宮寺に特別な感情を抱いた。
「そこでお願いがあります」
「どうした?」
「彼のスポンサーになっていただけないでしょうか?」
東郷は深々と頭を下げた。
「しかし…試合に勝つというのが条件だしなぁ」
「どうしてもダメですか?」
「ウーン…」
返答に困る。
すると東郷は思いもよらぬ事を言う。
「それならば、私が彼のスポンサーになりましょう」
「何っ、君がスポンサーだと?」
想定外の展開となった。
「えぇ…幸い、私は傭兵として余りある財産を手にしてきました。
どうせ、使うアテもない。
ならば、彼に投資するのも良いかと思いまして」
東郷も、神宮寺の思い描いたプロレス団体に興味を示した。
「よかろう!それならば、我々も全面的にバックアップしてやろうじゃないか。
その代わり、今までにないリアルな闘いをするプロレスラーを作り上げる事、これが条件だ!いいな?」
「ありがとうございます」
東郷は再度、深々と頭を下げた。
「とまぁ、こんな経緯で東郷さんがスポンサーになってくれたお陰で、金持ち連中が力を貸してくれたってワケだ」
神宮寺は東郷との闘いを告白した。
「そんな事が過去にあったんですか」
全てを知らされた今道は驚くばかりだ。
「もういいでしょう、神宮寺さん…あの試合は引き分けです」
「いや、あの試合はアンタの勝ちだ」
「勘弁してくださいよ…」
東郷はしきりに照れる。
「スゲーなぁ、コーチは。最強と呼ばれたプロレスラーに勝つとは」
「今道クン、君はこの偉大なるレスラーを超える存在にならなければならない。
いいですか、これからは更に過酷な試練が待ち受けてます。
しかし、あなたはそれに打ち勝たねばならないのです」
東郷は真剣な眼差しで今道を見る。
「ハ、ハイ…」
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