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修行時代
理想のプロレスラー
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「今道とか言ったな?オマエ、年いくつだ?」
「18になったばかりです」
「18か!こりゃ、まだまだ成長段階だな」
神宮寺は喜びを隠せない。
「東郷さん、よくぞコイツをここまで育ててくれた!ホントに感謝するよ!」
「私は何もしてませんよ。今道クンの驚異的なスタミナと回復力…
私は彼の資質に合わせたトレーニングをさせただけです」
「スタミナと回復力か…まさにレスラーになる為に生まれてきたようなもんだな!」
神宮寺には野望がある。
理想のプロレスを作り上げる為には、理想のレスラーの存在が必要。
今道は理想のレスラー像にうってつけの存在だ。
「いつデビューするんだ?」
「いや、まだそんな話は」
デビューはもう少し先の話だろう。
「まぁ、じっくりと育てた後にデビューすりゃいいだろう。
ところでボーズ、東郷さんから一本取れるようになったか?」
一本とは、スパーリングで技を極める事だ。
「全然ですよ。一本どころか、防御すら不可能ですから」
「ワッハッハッハ!そりゃそうだろう!何せ、オレだって何も出来ないまま負けたからな!」
「エッ、負け?」
初耳だった。
「神宮寺さん、その話はいいでしょう」
東郷は話を遮ろうとする。
「東郷さんはオレの事を気遣って言わなかったんだろうが、オレたちは以前、試合をした事があるんだ」
この二人が試合。
「ホントですか?」
「いや、試合というかなんと言うか…」
東郷は話したがらない。
「ちょうどいい。ボーズ、何でオレと東郷さんが闘ったのか、知りたいか?」
「えぇ、教えてください」
今道は身を乗り出す。
「話さなくてもいいのに」
東郷は思い出したくないようだ。
「あれは確か、5年前になるかな」
神宮寺はその時を思い出しながら話し始めた。
今から5年前、神宮寺は現役を引退して飲食店を経営する傍ら、古巣のWWAで解説を行っていた。
現役時代ストロングスタイルで鳴らした神宮寺だけに、今のレスラーに対しては辛口な解説をしていた。
神宮寺が去ったWWAはかつてのストロングスタイルは名を潜め、強さよりもエンターテインメント志向のプロレスを展開していた。
とある有名レスラーが、
「プロレスラーなんて、強くなくたっていいんだ。
ファンをどれだけ呼べるか、興行なんだし、ファンのニーズに応えるのが我々プロレスラーの仕事。
総合格闘技のリングに上がるつもりはないし、そもそも他の格闘家と闘って強さを云々だとか、そんなのは昔のプロレスラーがやってた事。
今のプロレスは、言わばバトルファンタジーを体現しているようなもんだ」
この発言に神宮寺は失望と共に怒りが込み上げてきた。
「何だ、あの発言は!プロレスラーは強くなくていいのか!
何のために想像を絶するトレーニングをしてプロレスラーになったんだ?
そんな事を言うから、プロレスラーは大した事ないってバカにされるんだ!
おまけに、飛んだり跳ねたりするだけのサーカスみたいな技の掛け合いばっかしやがって!
しかも、動きの一つ一つが予定調和じゃないか!
あんなのはプロレスじゃない!
アイツらのやってる事はスタントマンの真似事だ!」
自分のやってきたプロレスが否定されたような気持ちだった。
これが問題発言となったのか、WWAサイドから一方的に解説者の契約を打ち切られた。
(ここはもう、オレが居た頃のWWAじゃない!
プロレスは単なるショーに成り下がってしまったのか)
命懸けで挑んできた数々の闘いはなんだったのか。
虚しくなり、酒で気を紛らわす日々が続いた。
ある日、経営する店に数人のプロレスファンが入店してきた。
「なぁ、今のプロレスって面白いと思うか?」
仲間の一人が疑問を投げかけた。
「確かに…技は難易度の高いものばかりだけど、なんて言うか…説得力が無いような」
「あぁ、オレもそう思った」
「だろう?レスリングの攻防もないし、最初から飛んだり跳ねたりばかりで、重みが感じられないよな」
神宮寺はその会話を店の隅で聞いていた。
(そうか、今のプロレスに失望しているファンもいるのか。
だったら、強さを全面に押し出した理想のプロレスを作り上げてみるのもいいかもしれない)
神宮寺は新たにプロレス団体を作り上げる決心を固めた。
とは言え、肝心のレスラーが居ない。
しかも、神宮寺のメガネに叶うレスラーはいるのか。
答えはNOだった。
わざわざ所属している団体を離れて新しい団体に移籍するにはリスクが大き過ぎる。
失敗に終わる事が多いマット界だけに、首を縦に振るレスラーなど一人も居ない。
それでも神宮寺は諦めなかった。
「18になったばかりです」
「18か!こりゃ、まだまだ成長段階だな」
神宮寺は喜びを隠せない。
「東郷さん、よくぞコイツをここまで育ててくれた!ホントに感謝するよ!」
「私は何もしてませんよ。今道クンの驚異的なスタミナと回復力…
私は彼の資質に合わせたトレーニングをさせただけです」
「スタミナと回復力か…まさにレスラーになる為に生まれてきたようなもんだな!」
神宮寺には野望がある。
理想のプロレスを作り上げる為には、理想のレスラーの存在が必要。
今道は理想のレスラー像にうってつけの存在だ。
「いつデビューするんだ?」
「いや、まだそんな話は」
デビューはもう少し先の話だろう。
「まぁ、じっくりと育てた後にデビューすりゃいいだろう。
ところでボーズ、東郷さんから一本取れるようになったか?」
一本とは、スパーリングで技を極める事だ。
「全然ですよ。一本どころか、防御すら不可能ですから」
「ワッハッハッハ!そりゃそうだろう!何せ、オレだって何も出来ないまま負けたからな!」
「エッ、負け?」
初耳だった。
「神宮寺さん、その話はいいでしょう」
東郷は話を遮ろうとする。
「東郷さんはオレの事を気遣って言わなかったんだろうが、オレたちは以前、試合をした事があるんだ」
この二人が試合。
「ホントですか?」
「いや、試合というかなんと言うか…」
東郷は話したがらない。
「ちょうどいい。ボーズ、何でオレと東郷さんが闘ったのか、知りたいか?」
「えぇ、教えてください」
今道は身を乗り出す。
「話さなくてもいいのに」
東郷は思い出したくないようだ。
「あれは確か、5年前になるかな」
神宮寺はその時を思い出しながら話し始めた。
今から5年前、神宮寺は現役を引退して飲食店を経営する傍ら、古巣のWWAで解説を行っていた。
現役時代ストロングスタイルで鳴らした神宮寺だけに、今のレスラーに対しては辛口な解説をしていた。
神宮寺が去ったWWAはかつてのストロングスタイルは名を潜め、強さよりもエンターテインメント志向のプロレスを展開していた。
とある有名レスラーが、
「プロレスラーなんて、強くなくたっていいんだ。
ファンをどれだけ呼べるか、興行なんだし、ファンのニーズに応えるのが我々プロレスラーの仕事。
総合格闘技のリングに上がるつもりはないし、そもそも他の格闘家と闘って強さを云々だとか、そんなのは昔のプロレスラーがやってた事。
今のプロレスは、言わばバトルファンタジーを体現しているようなもんだ」
この発言に神宮寺は失望と共に怒りが込み上げてきた。
「何だ、あの発言は!プロレスラーは強くなくていいのか!
何のために想像を絶するトレーニングをしてプロレスラーになったんだ?
そんな事を言うから、プロレスラーは大した事ないってバカにされるんだ!
おまけに、飛んだり跳ねたりするだけのサーカスみたいな技の掛け合いばっかしやがって!
しかも、動きの一つ一つが予定調和じゃないか!
あんなのはプロレスじゃない!
アイツらのやってる事はスタントマンの真似事だ!」
自分のやってきたプロレスが否定されたような気持ちだった。
これが問題発言となったのか、WWAサイドから一方的に解説者の契約を打ち切られた。
(ここはもう、オレが居た頃のWWAじゃない!
プロレスは単なるショーに成り下がってしまったのか)
命懸けで挑んできた数々の闘いはなんだったのか。
虚しくなり、酒で気を紛らわす日々が続いた。
ある日、経営する店に数人のプロレスファンが入店してきた。
「なぁ、今のプロレスって面白いと思うか?」
仲間の一人が疑問を投げかけた。
「確かに…技は難易度の高いものばかりだけど、なんて言うか…説得力が無いような」
「あぁ、オレもそう思った」
「だろう?レスリングの攻防もないし、最初から飛んだり跳ねたりばかりで、重みが感じられないよな」
神宮寺はその会話を店の隅で聞いていた。
(そうか、今のプロレスに失望しているファンもいるのか。
だったら、強さを全面に押し出した理想のプロレスを作り上げてみるのもいいかもしれない)
神宮寺は新たにプロレス団体を作り上げる決心を固めた。
とは言え、肝心のレスラーが居ない。
しかも、神宮寺のメガネに叶うレスラーはいるのか。
答えはNOだった。
わざわざ所属している団体を離れて新しい団体に移籍するにはリスクが大き過ぎる。
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それでも神宮寺は諦めなかった。
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