UWP(Under World Prowrestling)

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修行時代

独り

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UWPに入門して1年近くが経とうとしている。


身長は更に伸びて195cm、体重も102kgとウエートアップ。

見事なまでの逆三角形の筋骨隆々とした上半身に、はち切れんばかりの大腿四頭筋、ハムストリング。


徐々にレスラーらしい身体付きに仕上がりつつある。



日々の過酷なトレーニングの賜物であるが、東郷の考案するメニューはハード過ぎる。


20kgの重さがあるベストを着てのスクワットや、ロープ登り、懸垂、プッシュアップ、腹筋に加え、早朝にはランニングとダッシュを繰り返す毎日。


これらはあくまでもウォーミングアップに過ぎず、その後はブリッジ、受け身の練習、最後は東郷との長時間スパーリングで締めくくる。


特にスパーリングは熾烈を極め、いまだ東郷から一本を取る事が難しい。


190を越える今道が165cmの東郷に子供扱いされている。


「うぎゃぁぁぁぁああああ!」


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」


「あだだだだだだだだだっ!」


「ぎぇぇぇェェェェェェェ!」


今道の絶叫が道場内に響く。


「返してみなさい!」


関節を極めながら東郷は奮起を促す。



「ギブギブギブギフっ、ムリっす!」


「これが試合だったら、骨を折られてますよ!」


「逃げられないっす!」


「泣き言は言わないっ!」


少し力を加える。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!折れる、折れるぅぅ~~~っ!」


「もう少し頭を使ったらどうですか!」


東郷は技を解いた。


今道は左肘を抑えている。


「頭を使う?」


「いいですか、関節の取り合いは動きを先読みして相手の関節を極めるのが必勝法です」


東郷は半分の力も出していない。


東郷が全力で闘ったら、今道は一分も持たずに絶命するだろう。


「相手の動きを読むって…難しいですよ」


頭を使うのは苦手だ。

本能のまま、動き回るのが性に合ってる。


「いくら力があっても、圧倒的なテクニックの前では何の役にも立ちません…あなたはパワーだけなら他のレスラーにもヒケをとりません。
ですが、それだけではダメなのです」


「でも、どうやって」


「相手の表情や動き、そして息遣い。それらを観察していけば、どのようにして動けば良いのか分かってくるハズです」


「何だか難しそうだな」


まだ左肘が痛い。


「まぁ、いいでしょう。今日はこのぐらいにしておきます。
明日は6時起床です、寝坊しないでくださいよ」


「…わかりました」


長いスパーリングが終了した。


練習が終わると、東郷と共に夕食のちゃんこを作る。


最初は包丁の扱い方すらままならない今道だったが、今では包丁さばきも見事で、味付けも申し分ない。


大きな鍋には肉、魚介類に大量の野菜が入った味噌仕立てのちゃんこだ。


鍋いっぱいのちゃんこにどんぶり飯、生卵に日替わりのサイドメニュー。

そして2L容器に入ったプロテイン。


今道が毎食食べるメニューだ。



「いただきまーす!」


「残さず全部食べてくださいよ」


東郷は作るだけで決して食べない。



入門してから一度も東郷が食事をした姿を見たことが無い。


何を食べてるのか、何処で食べてるのか、それすら分からない。


「コーチは何でいつも食べないんですか?一緒に食べればいいじゃないすか」


「私に気遣いは無用です。私は自宅でしか食事をしない主義ですので」


東郷の住まいは道場から歩いた場所にあるワンルームマンションの一室を借りている。


一度東郷の自宅を訪ねようとしたが、何故か頑なに入室を拒まれた。


元傭兵だからなのか、警戒心が強いのか不明だが、安易にプライベートを見せない。


「ああ、もうこんな時間か…コーチはそろそろ帰る時間ですよね」


時計の針は午後9時になろうとしている。


「えぇ、私はこれで帰ります。
今道クン、明日は寝坊しないでください。
それではお疲れ様でした」


「はい、お疲れ様でした」


東郷は帰った。



「道場なのに、オレだけしか練習生がいないのは変だよな」


今更ながら、練習生は今道一人だけというのは疑問に思う。


「せめて、何人か入ってくれれば話し相手にもなるのになぁ」


食べ終わった食器を片付けながらボヤく。


練習も一人、食事も一人。


話す相手は東郷だけ。


今まで感じなかったが、今道にとって段々と小さなストレスとして蓄積されていく。
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