UWP(Under World Prowrestling)

sky-high

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10年前

練習生

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東郷の温情により、今道はUWPの仮入団となる。


「本来ならば、スクワット2000回に腕立て伏せ500回、腹筋500回、ロープ登り、ブリッジ、背筋、ダッシュ、スパーリング等をこなして、合格となるんです」



「えぇ~っ!!そんな事したら、身体が壊れますよぉ」


今道は素っ頓狂な声を上げた。


「何言ってるんです!プロレスラーになるには、このぐらいの体力テストは基礎段階に過ぎません!」


「プロレスラーって、そんなにスゴイんすか?」


今道はプロレスというのを分かってなかった。



「今道クン…あなたはプロレスをどう思っていたのですか?」


何も知らないでテストを受けたみたいだ。


「どうって…プロレスって、ワン、ツー、スリーって抑えるヤツじゃないすか?」


「まぁ、間違ってはいませんが、プロレスラーとは、極限にまで鍛えた肉体を駆使して、相手の攻撃に耐えて、耐えて、耐え抜いて、最後に必殺技で勝利するんです」


「…ん?耐えるって、どういう事ですか?」


そもそも、今道はプロレスどころか、格闘技自体関心が無い。


「…うーん、どうやらあなたには一から教えなきゃならないみたいですね」


「ハァ…」


「ところで、ここをどうやって知ったのですか?」


UWPは地下プロレスだ。


一般人はその存在すら知らない。


知ってるのは、プロレス関係者、富裕層、反社会勢力の連中だけだ。


「それは、家に来る借金取りから聞いて」


「借金取り?」


今道の家には連日のように借金取りが取り立てに来る。


蒸発した父親の居場所を突き止める為に来るのだが、家族でさえ居場所が判らないのに答えようが無い。


それでも、借金取りはしつこく家に来ては借金を返せと大声で怒鳴る。


弟や妹は怖がってしまい、母親は土下座をして平謝りをする毎日だ。



「借金取りが、『よぉ、アンちゃん!オメー、いい身体してんな。
手っ取り早く金が稼げる方法があるんだが、やってみるか?』って言われて」


「借金取りがそんな事言ったんですか?」


一般人に地下プロレスの話をするのはタブーだ。



「えぇ、借金が返せるなら、何でもいいかと思って、この場所を教えてもらいました」


「…この場所を教えるとは…」


お灸を据えなければならない。


「ちなみに、何ていう金融会社ですか?」


「確か…ハッピーファイナンスとか言ってました」


「ハッピーとはふざけた名前ですね」


話を聞く限り、まともな金融会社ではなさそうだ。


「待ってなさい。その金融会社を調べてみますから」


そう言うと東郷は、デスクにある電話を掛けた。


「モシモシ、私です。お疲れ様です。
ちょっと調べてもらいたいのですが…
えぇ、ハッピーファイナンスという金貸しなんですがね。
えぇ、よろしくお願いしますよ」


要件だけ伝えて電話を切った。



「どうするんですか?」


「少しばかりお仕置をする必要がありましてね」


「お仕置…?」


何のことか理解出来なかった。



東郷はUWPのスタッフに連絡し、ハッピーファイナンスの調査を依頼した。


ここのスタッフは裏社会にも詳しい連中ばかりだ。


タブーを破ったのだから、それなりのペナルティを課すつもりらしい。




「さて、借金のことはさておき、あなたは仮入団という形で練習に参加してもらいます、いいですね?」


「それは分かりましたが…まずはどうすればいいんですか?」


「毎日この道場に来て練習をするのです。
休日は一切ありません」


365日道場に通えという事らしい。



「エッ、毎日通うんですか?」


「何か不都合でも?」


「実は…」


今道は恥ずかしそうに話す。


「あの、電車賃が無いんです。
毎日通うとなれば、電車賃だってケッコーしますし」


「今道クンの家は何処ですか?」


「K区のY町です」


ここから私鉄に乗って5つ目の駅だ。



「歩いて通うしかないのかな」


徒歩だと2時間以上かかる。


「仕方ないですね、コッチで送迎の方は何とかしましょう」


「エッ、マジっすか?」


「その代わり、必ず毎日ここへ来るのです、いいですね?」


東郷が念を押す。


「ハ、ハイ。わかりました」


「では、今日はもう帰りなさい。
今から車を手配します」


再び電話を掛け、車を呼んだ。


「帰ったらまた借金取りが来てるのかな…イヤだなぁ」


憂鬱な気分になる。


「借金取りはもう来ませんよ」


「へっ?」


耳を疑う。


「もう、あなたの家には借金取りは来ません。
先程、ハッピーファイナンスに連絡して支払いを一時停止するよう伝えました」


「…エェェェェェェェェェェェ!」


信じられない。


「だから、ここへは毎日来るのです。もし、一日でもサボったら、借金取りが再び家に来るようになってます。
よろしいですか?」



「ハ、ハイっ!ありがとうございますっ!」



何度も頭を下げた。


借金取りが来ないなんて、いつ以来だ。


目の前の扉が開き、光が差し込んだかのように思えた。
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