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10年前
入門テスト
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セコンドには東郷が付いていた。
「お疲れ様です」
「ありがとうございます…ところで、今日の試合は何点でしたか?」
今道は毎回東郷に今日の試合は何点なのか聞いてくる。
「そうですね…今日は70点というところですかね」
「70点っ?えぇ~、もう少し上だと思ったのに」
「あの程度じゃ、とても高い点は出せませんよ。
それに、プロレスとは相手の力を8割、9割まで引き出し、最大限の力で勝利する…そう教わりませんでしたか?」
神宮寺から教わったことは、相手の力を引き出し、全て受け切った後に全力で相手を倒す事がプロレスラーの矜恃(きょうじ)だと言う。
最近では、それが出来ないプロレスラーが多く、神宮寺はこの状況を憂う。
「引き出したじゃないすか!さっきだって、かなりの技を受けましたよ」
阪田の猛攻を凌ぎ、反撃に転じて勝利をモノした。
「あれではダメです。相手の攻撃を全て受け止め、その度に立ち上がる。
そうする事によって、相手は攻撃する気力が失われてしまう。
そこから反撃して全力で倒すのです」
「あれ以上技を受けたら、オレが殺られちゃいますよ~」
「その為に私がハードなトレーニングを指導してるじゃないですか」
「そうですけど」
「まぁいい…今日のところはこのぐらいにしておきましょう。
それと、今回のファイトマネーは3億6000万です。
オッズでは、あなたが1.6倍。阪田選手は10.6倍でした」
セレブ達の賭ける金額は桁が違う。
前座からメインまで計7試合でおよそ国家予算に匹敵する程の額が動いた。
今道がこれまで稼いだファイトマネーは約5000億円。
一生どころか、この先何世代も遊んで暮らせる程の財産だ。
「それはさておき…」
「はい」
「今日は何の日か知ってますか?」
「え~っと…」
今日は3月21日だ。
「…春分の日?ですか…」
「はぁ~~…この日を覚えてないとは…」
今道はプロレス以外の事は無頓着で天然なところがある。
「いいですか、10年前の今日はあなたがUWPに入門した日ですよ。
ホントにプロレス以外の事はまるっきりダメですね」
「あ…そうでしたっけ?」
ちなみに、UWPの所属選手は今道しかいない。
UWPはプロレス団体というより、大会を運営する組織だ。
では、どうやって選手を集めるのか。
公には認められていない大会だけに、独自のルートによってレスラーが参戦するシステムになっている。
UWPのスタッフは、そのルートから紹介されたレスラーの調査を行い、リングに上げるかどうかを判断する。
今道がUWPの所属となったのは、10年前に行われた第一回入団テストに合格。
神宮寺は理想のプロレスを求める為には、テストで合格した志願者を育て上げるシステムを行った。
10年前
3月21日、この日はUWPの入団テストが道場で行われた。
今より殺風景だった道場内は中央の位置にリングと、バーベル等の器具が床に散乱していた。
入団テストにやって来た人数はたったの5人。
1人を除いては、4人とも明らかに一般人とは違う雰囲気を醸し出す。
所謂、半グレと呼ばれる連中が入団テストを受けに来た。
試験管は東郷。
「何だよ、コーチってオレより小っちぇヤツじゃねぇか」
「こんなヤツがプロレスのコーチだと、ふざけてんのか!」
「オレらより、コイツをテストした方がいいんじゃねぇの!」
言いたい放題だ。
「え~、私が試験管の東郷です。
まず初めに体力テストを行います。
とりあえず、スクワット2000回からやってみましょう」
メジャー団体の入団テストでもスクワット1000回に対し、UWPはその倍の2000回。
「アホか!だったら、テメーが先に2000回やってみろよ!」
やや肥満体型の若者が噛み付く。
タンクトップにハーフパンツ姿で両腕両足にはビッシリとタトゥーが入っている。
「私がやるのではなく、あなた方が行うのです。いいですか、これは入団テストです。
イヤならサッサと帰りなさい」
東郷は入口の扉を指した。
「気に入らねぇなぁ!何で、こんな虚弱なジジィに説教されなきゃなんねぇんだよ!」
「オッサンよぉ、オレは早くリングに上がって試合がしてぇんだよ、分かる?」
両耳と鼻にピアスをしている男が詰め寄る。
だが東郷は動じない。
「試合をするもしないも、まずは入団テストに合格してからです。
皆さん、私の言う事が理解出来なかったのですか?
もしかして、まともに学校行ってなかったのですか?」
東郷は更に煽る。
「オイ、オヤジ!そんなに言うなら、オレと勝負しようぜ。
オレに勝ったらスクワット2000回やってもいいぜ」
肥満の男がリングに上がった。
「いきなりスパーリングですか…
いいでしょう。
但し、私が勝ったらテストは不合格、即刻出ていきなさい」
「今の言葉、後悔すんなよ」
男はタンクトップを脱ぎ捨てた。
上半身は奇抜なデザインのタトゥーで埋め尽くされている。
「そんな落書きが何の自慢になるのです?威嚇するつもりで彫ったんでしょうが、頭の弱さをアピールするもんですよ」
この一言で完全にブチ切れた。
「殺すっ!」
男は殴りかかった。
「モーションが大きすぎます」
東郷はヒョイと躱し、背後に回ると左の膝裏を踵で蹴った。
「い”だっ…」
そのままバランスを崩し、膝に全体重をのしかかった状態で倒れた。
ベキベキっと音が聞こえる。
「うぁぁぁぁぁ~っ!!!」
膝の皿が割れた音だった。
「アララ、その様子じゃ膝が壊れましたね。
テストは不合格です、サッサと出ていきなさい」
男は立ち上がれない程のダメージを負っている。
「さて、お次はどなたですか?」
あっという間に1人が脱落した。
「お疲れ様です」
「ありがとうございます…ところで、今日の試合は何点でしたか?」
今道は毎回東郷に今日の試合は何点なのか聞いてくる。
「そうですね…今日は70点というところですかね」
「70点っ?えぇ~、もう少し上だと思ったのに」
「あの程度じゃ、とても高い点は出せませんよ。
それに、プロレスとは相手の力を8割、9割まで引き出し、最大限の力で勝利する…そう教わりませんでしたか?」
神宮寺から教わったことは、相手の力を引き出し、全て受け切った後に全力で相手を倒す事がプロレスラーの矜恃(きょうじ)だと言う。
最近では、それが出来ないプロレスラーが多く、神宮寺はこの状況を憂う。
「引き出したじゃないすか!さっきだって、かなりの技を受けましたよ」
阪田の猛攻を凌ぎ、反撃に転じて勝利をモノした。
「あれではダメです。相手の攻撃を全て受け止め、その度に立ち上がる。
そうする事によって、相手は攻撃する気力が失われてしまう。
そこから反撃して全力で倒すのです」
「あれ以上技を受けたら、オレが殺られちゃいますよ~」
「その為に私がハードなトレーニングを指導してるじゃないですか」
「そうですけど」
「まぁいい…今日のところはこのぐらいにしておきましょう。
それと、今回のファイトマネーは3億6000万です。
オッズでは、あなたが1.6倍。阪田選手は10.6倍でした」
セレブ達の賭ける金額は桁が違う。
前座からメインまで計7試合でおよそ国家予算に匹敵する程の額が動いた。
今道がこれまで稼いだファイトマネーは約5000億円。
一生どころか、この先何世代も遊んで暮らせる程の財産だ。
「それはさておき…」
「はい」
「今日は何の日か知ってますか?」
「え~っと…」
今日は3月21日だ。
「…春分の日?ですか…」
「はぁ~~…この日を覚えてないとは…」
今道はプロレス以外の事は無頓着で天然なところがある。
「いいですか、10年前の今日はあなたがUWPに入門した日ですよ。
ホントにプロレス以外の事はまるっきりダメですね」
「あ…そうでしたっけ?」
ちなみに、UWPの所属選手は今道しかいない。
UWPはプロレス団体というより、大会を運営する組織だ。
では、どうやって選手を集めるのか。
公には認められていない大会だけに、独自のルートによってレスラーが参戦するシステムになっている。
UWPのスタッフは、そのルートから紹介されたレスラーの調査を行い、リングに上げるかどうかを判断する。
今道がUWPの所属となったのは、10年前に行われた第一回入団テストに合格。
神宮寺は理想のプロレスを求める為には、テストで合格した志願者を育て上げるシステムを行った。
10年前
3月21日、この日はUWPの入団テストが道場で行われた。
今より殺風景だった道場内は中央の位置にリングと、バーベル等の器具が床に散乱していた。
入団テストにやって来た人数はたったの5人。
1人を除いては、4人とも明らかに一般人とは違う雰囲気を醸し出す。
所謂、半グレと呼ばれる連中が入団テストを受けに来た。
試験管は東郷。
「何だよ、コーチってオレより小っちぇヤツじゃねぇか」
「こんなヤツがプロレスのコーチだと、ふざけてんのか!」
「オレらより、コイツをテストした方がいいんじゃねぇの!」
言いたい放題だ。
「え~、私が試験管の東郷です。
まず初めに体力テストを行います。
とりあえず、スクワット2000回からやってみましょう」
メジャー団体の入団テストでもスクワット1000回に対し、UWPはその倍の2000回。
「アホか!だったら、テメーが先に2000回やってみろよ!」
やや肥満体型の若者が噛み付く。
タンクトップにハーフパンツ姿で両腕両足にはビッシリとタトゥーが入っている。
「私がやるのではなく、あなた方が行うのです。いいですか、これは入団テストです。
イヤならサッサと帰りなさい」
東郷は入口の扉を指した。
「気に入らねぇなぁ!何で、こんな虚弱なジジィに説教されなきゃなんねぇんだよ!」
「オッサンよぉ、オレは早くリングに上がって試合がしてぇんだよ、分かる?」
両耳と鼻にピアスをしている男が詰め寄る。
だが東郷は動じない。
「試合をするもしないも、まずは入団テストに合格してからです。
皆さん、私の言う事が理解出来なかったのですか?
もしかして、まともに学校行ってなかったのですか?」
東郷は更に煽る。
「オイ、オヤジ!そんなに言うなら、オレと勝負しようぜ。
オレに勝ったらスクワット2000回やってもいいぜ」
肥満の男がリングに上がった。
「いきなりスパーリングですか…
いいでしょう。
但し、私が勝ったらテストは不合格、即刻出ていきなさい」
「今の言葉、後悔すんなよ」
男はタンクトップを脱ぎ捨てた。
上半身は奇抜なデザインのタトゥーで埋め尽くされている。
「そんな落書きが何の自慢になるのです?威嚇するつもりで彫ったんでしょうが、頭の弱さをアピールするもんですよ」
この一言で完全にブチ切れた。
「殺すっ!」
男は殴りかかった。
「モーションが大きすぎます」
東郷はヒョイと躱し、背後に回ると左の膝裏を踵で蹴った。
「い”だっ…」
そのままバランスを崩し、膝に全体重をのしかかった状態で倒れた。
ベキベキっと音が聞こえる。
「うぁぁぁぁぁ~っ!!!」
膝の皿が割れた音だった。
「アララ、その様子じゃ膝が壊れましたね。
テストは不合格です、サッサと出ていきなさい」
男は立ち上がれない程のダメージを負っている。
「さて、お次はどなたですか?」
あっという間に1人が脱落した。
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