UWP(Under World Prowrestling)

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UWPとは

道場兼自宅

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【ところで…】

東郷は話しを続けた。

【今、どちらに居るんですか?】


「今ですか?タクシーの中です。
これから帰りますので」


【タクシーの中っ?!何してるんですか、アナタはっ!
こんな話しを運転手に聞かれたらどうするんですかっ!!】


東郷の大きな声が鼓膜を刺激する。


「いや、だって…コーチが聞いてきたから」


【だからと言って、タクシーの中で話すような内容ではないでしょ!
アナタはもう少し周囲に気を配りなさい!】


今道はプロレス以外の事は無頓着で、言わば天然の部類だ。


「ハァ…気をつけます」


【分かったなら、サッサと帰ってきなさい!】


そう言うと、一方的に通話を切った。




タクシーは首都高に入り、都心から下町方面へと向かった。




      東京都 S区


ここは下町情緒溢れる界隈。

近くには東京を代表する大きな川が流れ、春になれば桜が満開となり、花見客で賑わう。


今道は商店街のあるアーケード前でタクシーを降りた。


アーケード内にある商店街は、日中は活気に溢れ、近所の住民がここで買い物をする。


現在時刻は夜の10時を回ったところ。


さすがにどの店もシャッターが閉まり、シーンと静まり返っている。


アーケードを通り抜けて、細い路地に入る。


しばらく歩くとトタン張りの年季の入った二階建ての建物が路地の終点となる。


以前は町工場として使用していたであろう。


今道はその建物の中へ入った。


立て付けの悪い扉を開けると、広々とした空間の中にリングが置かれている。

薄暗い室内は汗の匂いとワセリンの匂いが入り交じった複雑な匂いが鼻をつく。

周囲にはバーベルやサンドバッグ、天井から吊らされた太いロープが数本。


板の間の床にはグローブやレガース、キックミット等があちらこちらに散らばっている。



更に奥へ進むと、突き当たりに地下へ通ずる階段が見える。


階段を下りていくと、灯りが見える。


そこは1階の薄暗さとは違い、白を基調とした清潔感溢れる空間。


心地良さげなL時型ソファーとダブルサイズの大きなベッド、木目調のダイニングテーブルに椅子が数脚。


壁には100インチのLED液晶テレビが設置してある。


この工場はUWPの道場であり、今道の住まいでもある。



今道はソファーに腰掛け、フゥーっと一息ついた。



「お疲れ様です…食事の用意は出来てますよ」


振り返ると、小柄な中年男性が笑みを浮かべている。

七三の髪型に丸縁メガネを掛け、紺のスーツに身を固めた出で立ちは営業職のサラリーマンにも見える。


この男こそが、UWPの専属コーチでもある、東郷仁だ。


「ただいま戻りました」


今道は立ち上がって頭を下げる。


「いつものメニューです」


東郷はそう言うと、キッチンワゴンから大きな皿を三枚テーブルに置いた。


彼は誰に対しても敬語を使い、他人行儀の口調で話す。


皿には大盛りのパスタ、山盛りの鶏のササミとブロッコリー、10数個ゆで卵が入っていた。


そして2Lの大型プロテインシェイカーとコップを用意した。



今道の食生活はいつもこのメニューだ。


味付けはシンプルな塩味。


「ありがとうございます。では、いただきます」


手を合わせてフォークを取ると、一心不乱にパスタを食べ始めた。



「どうでしたか、今日の試合は?」


「ング…勝ってたハズっすよ…♪★⊃⊂ⅹ」


口にパスタを入れながら話すせいで何を言ってるのか聞き取れない。


「勝っては意味が無いんです。アナタは決勝戦で負ける、そういうシナリオだったじゃないですか」


今道はプロテインでパスタを流し込んだ。


「だって、優勝したら賞金1億円ですよ?そりゃ、勝ちたいじゃないすか?」


HOLY WARのヘビー級トーナメント覇者には初代ヘビー級チャンピオンの称号と共に優勝賞金1億円が贈呈される。


国内最大の格闘技イベントとあって、賞金も破格だ。


「何を言ってるのですか。アナタはその何十倍もの賞金を稼いでいるのに。あんなはした金よりも、来月の試合に向けて調整する期間ですよ、今は」


「でも、何で総合格闘技の試合に出ろって言ったのです?」


HOLY WARには自ら出たいと言った訳ではない。


「さぁ…神宮寺さんの気まぐれとでも言うべきか」



出場命令をしたのは、UWPの創設者でもある神宮寺 直人。


「この大会で決勝戦まで勝ち進め。そして、プロレスラーの強さを世間に知らしめるんだ、いいな?」


と今道に出場命令を下した。


今道に断る権限は無い。


神宮寺は言わば、命の恩人でもある。


更に神宮寺はこう付け加えた。


「お前の力ならば、余裕で優勝出来るだろう。だが、決して優勝するな。
決勝戦は敢えて負けてこい」


何故、負けなければならないのか。


今道には理解出来ない。


「あのまま優勝したら、HOLY WARはアナタを離さないでしょう。
そうなれば、謎のマスクマンの正体を何としても暴きたい連中は増えるだろうし、我々の運営にも支障をきたす…だから神宮寺さんは決勝で負けろと仰ったんだと思います」


東郷が代弁する。


「だったら、最初から出なきゃよかったんじゃないすかね?」


「力試しみたいなものでしょう。タダでさえ、プロレスラーの強さは幻想的とまで言われてしまったのですから、神宮寺さんとしては、それが許さなかったのでしょう」


総合格闘技が誕生する前、プロレスラーは強さの象徴とも言われていた。


だが、総合格闘技が誕生するとレスラーはことごとく惨敗を喫した。


挙句の果てには、プロレスラーは強くない、強くなくてもいいんだ、プロレスはショーなんだし…


という見方をされてしまった。


神宮寺としてはそれが腹立たしいのであった。

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