Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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クライマックス

攻略法その10 最終回

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マウンドの翔田は抑えに回って8試合目の登板。


今年は投手に専念したが、天海からデッドボールを受け右腕を骨折。


完治しないまま復帰したが、先発では負担が掛かるため、抑えに転向した。


バッターボックスは代打の中山。

今シーズン打率297 ホームラン12 打点57 盗塁9

出塁率364 長打率516 OPS0.880


去年の途中まで4番を打っていたが、本来は中距離ヒッターだ。


ヒット狙いに徹すれば3割はおろか、首位打者を獲得出来るほどのバッティングセンスを誇る。


中山のバッティングフォームは、力感の無い自然体でバットを添えるようにして持つ。


右と左の違いはあれど、唐澤や結城のフォームに似ている。


(勝敗はオレのバットにかかっている…とにかく打つしかないんだ)


真剣な表情でマウンドの翔田を凝視する。



翔田がサインを出す。


キングダムはキャッチャーの丸藤ではなく、翔田がサインを出す。


いつもならば、センターの守備位置でサインを送るのだが、ファーストの守備ではサインを送る事が難しい。


一塁でサインを送ると、相手チームに分析される恐れがあるので迂闊に出す事は出来ない。


キングダムは良くも悪くも翔田を中心に動く。


メリットもあるが、それ以上にデメリットもある。


その一つに丸藤のリード面が挙げられる。


翔田がサインを出すせいか、キャッチャーに必要なリード面に欠ける。


付け入る隙は幾らでもある。

櫻井はあらゆる角度から分析して、キングダムの野球を丸裸にしようとする。



ゆったりとしたモーションから、お手本の様なオーバースローで初球を投げた。


瞬きする間も無くボールが目の前まで迫り、ドーン!という音と共にミットに吸い込まれた。


「ストライク!」


インコース真ん中へ速球がズバッと決まった。


初球から162kmをマーク。


球場内から【おぉ~】という、どよめきが響く。


中山は微動だにしない。

(もう一球様子を見よう)


中山の視線は翔田を捕えて離さない。


(安打製造機と呼ばれる結城さんに代わって、この人が代打とは…何かあるに違いない)


翔田は慎重に配球を組み立てる。


サインを出し、ダイナミックなフォームから二球目を投げた。


(スライダーか…?)


中山の読み通り、スライダーがインコースへ食い込む。


「ボール!」


これは僅かに外れた。


(よし、櫻井コーチの言う通りだ…)


櫻井は翔田のピッチングを何度と何度も再生して、頭の先からつま先までくまなく観察した。



「フゥーっ」と左手に息を吹きかけ、ロージンを飛ばす。


ボールを捏ねてグラブに入れると、サインを出した。


少し間を置き、ノーワインドアップから三球目を投げた。


(ストレートだ)


外角高目へホップする速球。


「ボール!」


やや高目に浮いた。


だが、先程よりも速い164kmをマーク。


中山は球種を読んでいた。


(これでボールの軌道が分かった)


一旦打席を外し、大きく伸びをして身体をほぐす。


(次の球を狙おう)


狙いを絞った。


打席に入り、先程よりも脱力した状態で立つ。

首だけマウンドを向いて、身体はベースの正面を向く。


翔田はプレートを外した。


中山の雰囲気を読み取ったのか、間合いを嫌った。


(何を狙っているんだ?ストレートか、それともスライダー…)


配球に迷いが生じた。


今までの対戦で中山が配球を読むなんて事は無かった。


どちらかと言えば来た球を打ち返すタイプで、データに囚われないバッティングをしていた。


いつもと様子が違う事を察知した翔田は、慎重になり過ぎて何を投げればいいのか、迷いが生じる。

(今までの対戦で打たれた印象は無いハズ…仮に打たれても、シングルならばOKだ)


よし、と肚を決めサインを出した。


バッターボックスの中山は全神経を集中させ、翔田の動きに注目する。



ノーワインドアップから全身を躍動させ、四球目を投げた。


(縦のスライダー、しかもコースはインコース低目…)


読み通り、インコース低目へ縦のスライダー。

中山は腕を畳み、素早いスイングでボールをすくい上げた。


「しまった!…」

思わず声を上げた。


打球音と共に白球はグーンと伸びて左中間へ。

「行ったか!」

ベンチでは選手達が身を乗り出す。


「入った…」


櫻井は確信した。



レフト スナイダー、センター篠田は一歩も動かず。


綺麗な弧を描き、打球はスカイウォーカーズ応援団が陣取る左中間スタンド最深部に入った。


うぉ~っ!という歓声の中、中山はゆっくりとベースを回った。


今シーズン第13号ソロホームランでついにスカイウォーカーズが先制した。


「やった~っ!打ったぞ~っ!!」


「Good job!(よくやった!)」


榊とトーマスはベンチを出て、大喜びして飛び跳ねる。



中山がホームを踏んでホームイン。


鬼束とハイタッチを交わす。


「スゲーな、カズト!ナイスバッティング!」


「ハハッ、どうも」


ベンチ前でマスコットガールからぬいぐるみを受け取り、スタンドにポーンと投げ入れた。


「よし、よくやった!」


榊がパーンと腰を叩く。


「スバラシイ!」


トーマスはハグで祝福する。


ベンチ前で全員とハイタッチを交わしながら、手荒い祝福を受けた。


「痛てっ、痛いって!」


バシバシとヘルメットを叩かれ、頭を押さえながらベンチに座った。


対照的にマウンドの翔田はガックリと肩を落とした。


「あのスライダーを読んでたのか…しかも、苦手なコースだというのに」


中山はインコース低目に落ちる縦の変化球に弱い。


何故中山は球種を読む事が出来たのか。


櫻井はこの数日前、中山に翔田のクセを教えた。




「中山くん、キミはしばらくの間スタメンを外れてもらう」


「えっ、何でですか?」


驚いた表情で理由を聞く。


「外れると言っても、キミには特訓をしてもらいたいからその為の期間として、スタメンを外すんだ」


「特訓ですか…」


櫻井は続けた。


「キミは翔田攻略法の切り札として、彼を打ち崩して欲しい」

二人は翔田のピッチングを録画したDVDを観た。


「中山くん、解ったかな?」


「いえ…何が何だか…」

中山には櫻井の意図が分からなかった。


「もう一度よく見てみよう」


再度再生した。


翔田が投球の動作に入った時、櫻井は停止ボタンを押した。


「ここをよく見るんだ」


櫻井が指したのはグラブだった。


「グラブですけど、それが何か?」


「いいかい、彼はグラブを上に向けるとスライダー…水平にすると、ストレート…よく見てみるんだ」


もう一度投球動作を巻き戻して観た。


「あっ、ホントだ!」


櫻井の指摘通り、翔田はグラブを上に向けるとスライダーを投げた。


「これで解っただろう。更にもう一つ、投げる際に重心が低くなる時がある。グラブを上に向けて重心を低く投げると、縦のスライダーになるんだ」


よく観察しないと見落としがちだが、翔田はスライダーを投げる際、重心を低くする時とそうじゃない時がある。


重心を低くして投げると縦に変化して、それ以外は横に変化する。


櫻井はその事に気づき、翔田を打ち崩す事が出来た。


「でも、何でオレだけに言うんですか?皆に教えた方がいいと思うんですが」


中山はその事が腑に落ちなかった。


翔田を攻略する方法が見つかったならば、皆に教えるべきだと。


だが、櫻井は中山だけに教えた。


「それはね、キミが右バッターで一番ミートが上手いからだよ」


櫻井は中山がミートに優れたバッターだと見抜き、中山だけに教えた。


唐澤や結城は左バッター。

鬼束も右バッターでミートは上手いが、中山の方が適してる。


ホームランの数では鬼束の方が圧倒的に多いが、中山の場合はホームランを狙って打つ。


それならば、狙って打てる方がいいだろうと考え、中山を指名した。


もう一つ、縦の変化球は低目からボールになるコースを狙う。

翔田は縦のスライダーに絶対的な自信を持っていた。


鬼束はインハイが苦手で中山はインローが苦手。

この事を考慮して、中山に白羽の矢がたった。

ストレートよりも、縦のスライダーを狙う方がダメージは大きいだろうと考えた。



翔田攻略法に任命された中山は、インコース低目に落ちる球を打った。


そのお陰で翔田からホームランを打つことが出来た。







「なるほどね、そういう理由だったワケか」


櫻井の説明を聞いて、榊は納得した。


高峰の意見を押し退けてまでも、自分の意見を通したのはこの為に懸けていた。



「高峰さんには悪い事をしました。試合が終わったら、理由を話して謝りに行きます」


ちょっと大人げなかったかな、と反省した。


この一発で勝負は決まった。


動揺した翔田は鬼束にツーベースヒットを打たれ、5番毒島には甘く入ったツーシームをレフトスタンドに運ばれ、3点を失いマウンドを降りた。


9回の裏はクローザーのジェイクが3人で抑え、0-3でスカイウォーカーズが勝ち越した。


翔田を攻略して、次のターゲットはマーリンズの天海。


だが、今の天海は翔田以上に手強い存在だ。


続編に続く


















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