Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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デッドヒート

術中にハマる

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プロ12年目の32才。

ドラフト1位でマーリンズに入団。

1年目から正捕手として活躍。

打率264 ホームラン21 打点86の成績を挙げ、新人王を獲得。



投手陣が全幅の信頼を寄せるキャッチングとリード、コントロールの良いスローイングでマーリンズの奥義の要を担う。


ここ数年は江藤という若手との併用で起用されるケースが多いが、リードに関しては川上の方がまだまだ上だ。


今シーズンは打率236 ホームラン6 打点27と物足りない成績だが、リード面ではかなり貢献している。


今日は既に2安打を放っている。


右打席でバッティンググローブを締めてバットを寝かせて構える。

グリップの位置が低いのは、ミートを中心にしたバッティングに重点を置くため。


(今日はこの人が要注意だな)


保坂は川上の立ち位置からバットを持つポイントまでくまなく観察する。


「おい、オレをジロジロ見たって攻略法なんか見つからないぞ」

後ろを振り向かず、正面を向いたまま保坂に話し掛ける。


「でも、今日一番注意しなきゃならないのは、羽田さんじゃなく川上さんですからね」


「要注意人物が8番なんて打つかよ!考え過ぎなんだよ、お前らは」


川上はへへへっと笑う。


(打たれた球は何だっけ?確か、ストレートとツーシーム…速球を見せ球にして、緩い変化球で勝負しよう)


保坂の配球が決まった。


中邑はサインに頷き、初球を投げた。


インハイ、顔の付近にフォーシームが。


「うぉっ、危ねぇ!」


しかし余裕の表情で上体を反らす。


「ボール!」


スピードガンは153kmを計測。


「おっかねぇな~っ…あんなもん当てられたら、イケメンがブサメンになっちまうじゃねぇか」


「すみませんね…ウチのエース、少しビビってるみたいで」


保坂はボールを返球しながら答える。


「ビビるワケ無いだろ~っ、8番バッターにビビるエースなんて、いるワケ無いっつーの!」


川上は打席でも軽口を叩く事が多い。


世間話をしてるように見えて、相手のリードを逆に分析する。


「8番バッターとか、そんなの関係無いっすよ。バットを持てば誰でも4番バッターじゃないすか?」


相手のキャッチャーはこんな調子でフランクに返答してしまう。


これこそが川上の手口だ。


「誰でも4番ねぇ…まぁ、間違いではないな…キャッチャーってのは、そのぐらい慎重にならなきゃな」


(余裕の表情だな…インハイの次は…これだ)


保坂のサインに頷き、クイックモーションから二球目を投げた。


ギュゥーン、とインコースからアウトコースへ大きく曲がるスライダーだ。


川上はピクリとも動かない。


「ボール!」


ボール先行のカウントになる。


これでツーボール。


(スライダーも見送った…ならば、何を投げる?)

保坂のリードに迷いが生じる。


「何悩んでるんだよ?簡単じゃねえか、困ったらド真ん中にストレート要求すりゃいいんだよ」


それにしても、よく喋る。


「ド真ん中すか…そうしましょうかね」


(ホントにド真ん中投げたらどうなるかな?)


徐々に川上のペースにハマる。

(ド真ん中…ド真ん中でも、フォーク投げたらどうなるかな?)


瞬時に閃き、サインを出した。


セットポジションから三球目を投げた。


保坂の要求通り、ド真ん中へのフォーク。


「おっ…」


川上はスイングの動作に入ったが、途中でバットを止めた。


「ボール!」


ハーフスイングにはならなかった。


川上は余裕の表情を崩さない。


(スリーボールになった…どうする?)


どのボールも読んでいたかのように見送る。


知らず知らずに術中にハマってしまう。


「もうこうなったら、後一球ボール投げて歩かせばいいじゃん」


(歩かす…次はピッチャーの中澤さんだし、ここはムリに勝負するより歩かせた方がいいかも)


とは言え、立ち上がって敬遠というワケにはいかない。


あくまでも勝負するフリをして、際どい所へ投げればいいんだ!と。


(よし)


サインを出した。


中邑がサインを覗き込む。


(えっ…そのコースに投げて大丈夫なのか?)


疑問に思ったが、保坂のリードを信じて投げた。


アウトコースへボール一個分外れたフォーシームだ。


「バカめ!」


全ては川上の読み通りだった。


バットを水平に構え、コンパクトなレベルスイングで逆らわずにおっつけた。


痛烈な打球が一塁線へ。

結城が横っ飛びでグラブを出すが、僅かに届かず。


「フェア!」


二塁ランナー張は三塁を蹴って一気にホームへ。


打球はファールゾーンへ転々と転がる。


ライトのラファエルがボールを捕ってバックホーム!


矢のような返球。


保坂が反転して張にタッチ。

だが、張は滑り込んで一瞬早くベースをタッチした。

「セーフ!」


マーリンズ、遂に先制。


【よぉーし!先制したぞ!】


【この試合、絶対に勝つぞ!】


沸き上がるマーリンズベンチ。


それとは対照的に、スカイウォーカーズのベンチはガックリと項垂れる。


「アチャーっ!やられちゃったな、アイツに」


榊が頭を押さえて素っ頓狂な声を上げた。


「まだ7回ですよ、監督」


櫻井の表情は変わらず。


「It's still okay! Let's turn it around in the next round!(まだ大丈夫だ!次の回で逆転してやろう!)」


トーマスはベンチから檄を飛ばす。


マウンドには内野陣が集まる。


「ドンマイ、まだ1点リードされたばかりだ。次を抑えて、裏の回で取り返そう!」

結城が中邑の肩をポンと叩く。


「申し訳ない、ヨシヒコ!川上さんのペースにハマったオレが悪いんだ」


保坂は申し訳無さそうな表情を浮かべる。


「アツシ!クヨクヨすんな、ここを抑えてまずは1点取り返そう!」


鬼束がグラブで保坂の腰をパン!と叩く。


「大丈夫、大丈夫!次は必ず抑えよう」


「そうっすよ!この回1点で抑えれば、反撃のチャンスはあるんですから!」


毒島と石川はバッテリーを励ます。


「でも、1点取られたから交代するんじゃ…」


中邑はベンチを見た。


しかし、榊も櫻井も動く気配が無い。


「中邑くん、続投だ!皆、次で抑えるぞ!」


【ハイッ!】


結城の声で内野陣が守備につく。



7回の表、マーリンズは川上の猛打賞となるヒットで1点を先制。
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