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クライマックス
スカイウォーカーズに来るべきだった男
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「一塁結城、二塁鬼束、三塁羽田という布陣だったらスカイウォーカーズはぶっちぎりで優勝出来たでしょうね」
櫻井は羽田を欲しがっていた。
ヘッドコーチに就任したての昨年末、榊と高梨に羽田を獲得するべくトレードを行ってはどうかと進言した。
だが、トレードに見合う要員が見つからず断念した。
「だって、お前は毒島と中邑を交換要員にしようって言ったじゃん。
それはいくら何でも無理ってもんよ」
毒島と中邑を放出して羽田を獲ろうという案は、さすがの高梨も反対した。
「エースとホームランバッターを放出して彼を獲りたかったんですが…毒島くんも中邑くんもスカイウォーカーズには必要な選手ですしね。
でも、トレードが実現出来たらどうなっていたのか」
フフフっと笑みを浮かべた。
「確かに羽田は逸材だけどさぁ。ウチには鬼束がいるし、毒島だって立派な右のホームランバッターじゃん」
羽田は同じ右のスラッガーとして、鬼束と比較されがちだ。
セカンドとサードの違いはあれど、ことバッティングに関してはどちらが上か?という議論を交わすファンも多い。
両者共に率も残せて長打もある。
鬼束だという人もいれば、羽田の方が上だという人もいる。
意見が真っ二つに別れ甲乙つけがたい為、いつまで経ってもどっちが上という結論には至らない。
186cm84kgという、均整のとれたアスリート体型に加え、サラサラヘアーで爽やかな笑顔の好青年というイメージも相まってCMにも多数出演する。
【東北が生んだスーパースター】というニックネームで、名実ともにマーリンズの顔として常に注目を浴びる。
スクエアスタンスでグリップの位置を低くして、やや後ろにバットを構える。
丹田を意識して左足を上げてタイミングをとるスイングは、逆方向にも勢いのある打球を飛ばせる。
(さて、問題のバッターがお出ましだ)
羽田は内角高目の球に凡退するケースが多い。
セオリー通り、内角を攻める配球を組み立てた。
(よし、初球はこれだ)
(OK…)
中邑が初球を投げた。
アウトコースへ流れるスライダー。
しかし、羽田はこれを見送る。
「ボール!」
通算打率304、出塁率は386と選球眼に優れている羽田は決してボール球には手を出さない。
彼も鬼束や結城と同様に個人の成績には関心が無く、チームの勝利を最優先する模範的プレイヤーでもある。
(いいスライダーだ…今日の出来はかなり良いとみた)
中邑のスライダーはフリスビーの様にググーンと鋭く曲がる。
フォークを決め球にしているが、スライダーでも三振を獲れる程、変化量が大きい。
テンポ良く二球目を投げた。
今度はインコースやや低目を狙った。
羽田は一瞬ピクっとしたが、バットを止めた状態で見送る。
「ボール!」
縦のスライダーが曲がり過ぎてワンバンになった。
(縦も横も鋭く変化する。しかも途中までストレートと同じ軌道だ)
打席でグリップを握り直した。
「フゥ~っ…」と丹田をイメージしながら深い深呼吸をして気を鎮める。
今シーズン打率302 ホームラン30 打点76 7個の盗塁をマーク。
出塁率397 長打率は582 OPSは0.979という、日本球界を代表する大砲だ。
その和製大砲相手に中邑は臆する事無く三球目を投げた。
今度はフォーシームがインハイに。
ゴォォォォォ!という唸りが聞こえそうな剛球が、身体の付近へ迫り来る。
羽田はこれを見送る。
「ボール!」
僅かに外れた。
しかし、球速は158kmをマーク。
160kmに手が届きそうで届かない。
翔田や天海は160kmを越えたが、中邑はいくら全力で投げてもその壁を越えられない。
だが、二人は既に完成されたピッチャー。
中邑はまだまだ伸びしろのある未完成。
潜在能力だけで言えば、中邑は二人を遥かに凌ぐ。
榊はその部分に賭け、中邑をエースにした。
(150km後半のストレートを何度も見ているが、中邑のストレートはそれ以上速く感じる)
打席での体感速度はスピードガン以上に速い。
それだけノビがあってキレのある球という事なのだろう。
今度は中邑がサインを出した。
保坂がミットを構える。
四球目を投げた。
今度もインコース。
羽田は足を上げてタイミングをとる。
鋭い腰の回転でバットを振り抜いた。
「…っ、ツーシーム?」
ボールは内側に食い込み、バットの根元へ。
バキッ!という音がしてバットが折れた。
力の無い打球はサード後方へ。
毒島がキャッチしてスリーアウトチェンジ。
「ツーシームとはな…だが、次は打つ」
折れたバットを手にベンチへ下がった。
1回の表、マーリンズは先頭の高野が塁に出たが、後続を打ち取り終了した。
櫻井は羽田を欲しがっていた。
ヘッドコーチに就任したての昨年末、榊と高梨に羽田を獲得するべくトレードを行ってはどうかと進言した。
だが、トレードに見合う要員が見つからず断念した。
「だって、お前は毒島と中邑を交換要員にしようって言ったじゃん。
それはいくら何でも無理ってもんよ」
毒島と中邑を放出して羽田を獲ろうという案は、さすがの高梨も反対した。
「エースとホームランバッターを放出して彼を獲りたかったんですが…毒島くんも中邑くんもスカイウォーカーズには必要な選手ですしね。
でも、トレードが実現出来たらどうなっていたのか」
フフフっと笑みを浮かべた。
「確かに羽田は逸材だけどさぁ。ウチには鬼束がいるし、毒島だって立派な右のホームランバッターじゃん」
羽田は同じ右のスラッガーとして、鬼束と比較されがちだ。
セカンドとサードの違いはあれど、ことバッティングに関してはどちらが上か?という議論を交わすファンも多い。
両者共に率も残せて長打もある。
鬼束だという人もいれば、羽田の方が上だという人もいる。
意見が真っ二つに別れ甲乙つけがたい為、いつまで経ってもどっちが上という結論には至らない。
186cm84kgという、均整のとれたアスリート体型に加え、サラサラヘアーで爽やかな笑顔の好青年というイメージも相まってCMにも多数出演する。
【東北が生んだスーパースター】というニックネームで、名実ともにマーリンズの顔として常に注目を浴びる。
スクエアスタンスでグリップの位置を低くして、やや後ろにバットを構える。
丹田を意識して左足を上げてタイミングをとるスイングは、逆方向にも勢いのある打球を飛ばせる。
(さて、問題のバッターがお出ましだ)
羽田は内角高目の球に凡退するケースが多い。
セオリー通り、内角を攻める配球を組み立てた。
(よし、初球はこれだ)
(OK…)
中邑が初球を投げた。
アウトコースへ流れるスライダー。
しかし、羽田はこれを見送る。
「ボール!」
通算打率304、出塁率は386と選球眼に優れている羽田は決してボール球には手を出さない。
彼も鬼束や結城と同様に個人の成績には関心が無く、チームの勝利を最優先する模範的プレイヤーでもある。
(いいスライダーだ…今日の出来はかなり良いとみた)
中邑のスライダーはフリスビーの様にググーンと鋭く曲がる。
フォークを決め球にしているが、スライダーでも三振を獲れる程、変化量が大きい。
テンポ良く二球目を投げた。
今度はインコースやや低目を狙った。
羽田は一瞬ピクっとしたが、バットを止めた状態で見送る。
「ボール!」
縦のスライダーが曲がり過ぎてワンバンになった。
(縦も横も鋭く変化する。しかも途中までストレートと同じ軌道だ)
打席でグリップを握り直した。
「フゥ~っ…」と丹田をイメージしながら深い深呼吸をして気を鎮める。
今シーズン打率302 ホームラン30 打点76 7個の盗塁をマーク。
出塁率397 長打率は582 OPSは0.979という、日本球界を代表する大砲だ。
その和製大砲相手に中邑は臆する事無く三球目を投げた。
今度はフォーシームがインハイに。
ゴォォォォォ!という唸りが聞こえそうな剛球が、身体の付近へ迫り来る。
羽田はこれを見送る。
「ボール!」
僅かに外れた。
しかし、球速は158kmをマーク。
160kmに手が届きそうで届かない。
翔田や天海は160kmを越えたが、中邑はいくら全力で投げてもその壁を越えられない。
だが、二人は既に完成されたピッチャー。
中邑はまだまだ伸びしろのある未完成。
潜在能力だけで言えば、中邑は二人を遥かに凌ぐ。
榊はその部分に賭け、中邑をエースにした。
(150km後半のストレートを何度も見ているが、中邑のストレートはそれ以上速く感じる)
打席での体感速度はスピードガン以上に速い。
それだけノビがあってキレのある球という事なのだろう。
今度は中邑がサインを出した。
保坂がミットを構える。
四球目を投げた。
今度もインコース。
羽田は足を上げてタイミングをとる。
鋭い腰の回転でバットを振り抜いた。
「…っ、ツーシーム?」
ボールは内側に食い込み、バットの根元へ。
バキッ!という音がしてバットが折れた。
力の無い打球はサード後方へ。
毒島がキャッチしてスリーアウトチェンジ。
「ツーシームとはな…だが、次は打つ」
折れたバットを手にベンチへ下がった。
1回の表、マーリンズは先頭の高野が塁に出たが、後続を打ち取り終了した。
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