Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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クライマックス

禁煙

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翌日のスポーツ紙の一面は天海が独占した。

【天海涙の完全試合!】


【悪童から優等生へ!新生天海、完全試合!】


【完全試合でファンに礼を! 天海が涙ながらに感謝!】


今までとは違い、ファンやチームメイトに感謝の言葉を口にする模範生に変わった。



「素晴らしい!そして脅威だな、今の天海くんは」


ダグアウトでスポーツ紙を読んだ結城は思わず声を上げた。


「しかし、スゴい変わり様ですね…まるで、ジキルとハイドだ」

隣で鬼束が首を傾げる。


「それは天海くんに失礼だろう、鬼束くん。彼はこうやって更生したんだ。喜ばしい事じゃないか」


「はぁ…でも、まだ信じられなくて」


鬼束だけでは無い、他の選手も天海の優等生ぶりに戸惑う。



「いや、もしかしたらこれが彼の本来の姿なのかもしれない。今の彼はそれまでの彼とは違い、かなり手強い存在になる筈だ」


結城の言う通り、天海はパワーアップした。


チームメイトと和解し、味方を得る事でマーリンズの勢いはスカイウォーカーズをも凌駕する。


「これでいいんだ。ボクは今の天海くんと正々堂々勝負したい。そして優勝する…相手が強ければ強い程、敗けるワケにはいかない」


気を引き締めた。



今夜もナイトゲームでレッズとの試合を控える。


先発はスカイウォーカーズがパーラートップ14勝を挙げてる真咲。

レッズはエースの与謝野。


真咲は立ち上がりから絶好調で、120km台のストレートを速く見せる投球術でレッズ打線を翻弄する。


対する与謝野も、精密機械と称される抜群のコントロールで、スカイウォーカーズ打線にスキを見せないピッチングを披露。



試合が動いたのは5回の表。

2番岩下がセンター前ヒットで塁に出ると、3番ワグナーがライトポール際に17号ツーランで先制。


対するスカイウォーカーズは6回の裏、この日4番に座った結城がランナー二塁の場面で、ライト線を破るツーベースヒットで1点を返す。


レッズリードのまま8回の裏、ピッチャー真咲の打席で榊が動く。

代打にこの日もベンチスタートの鬼束を送る。


レッズは二番手中継ぎのローマン。

ツーボール、ワンストライクからの四球目、ローマンのチェンジアップを捕え、打球はレフトスタンドへ29号同点ソロを放つ。

試合は延長にもつれ込み、両チーム決め手の無いまま、12回引き分けとなった。



試合後の談話で、主砲鬼束をベンチスタートにした事について

「少し休ませた方がいいと思ってさ。
明日からはスタメンで起用するけどね。
今、2位と何ゲーム差?
えっ、1.5なの?
じゃ、マーリンズ今日も勝ったの?
マジ?
ウソ、ヤべーじゃん!
明日は必ず勝たないと。
あ、今日はちゃんとサイフ持ってきたから金貸してなんて言わないから安心してくれ。

えっと…あ、金入れてくるの忘れた…

おい、だから逃げるなって!

待て、コラ!

おぉーい、少しでいいから貸してくれっ!」








帰り際、榊は櫻井を呼び止めた。

「おーい、ヒロト」


「はい、何ですか監督?」

「この後、予定とかあるのか?」


「いえ、特に無いですけど」


「たまには一杯付き合ってくんないかな?」


「あぁ、いいですよ」


「他に誰か呼ぼうか?」


「もう帰ったんじゃないですかね」


「そうか帰ったのか」


ポケットからスマホを出して電話を掛けた。


「もしもし?おぉ、お疲れ!今どこ?帰る途中?じゃあ、これから一杯やらないか?ヒロトもいるし。うん…じゃあ、いつもの店で!あいよ~っ」


電話を切った。


「誰に掛けたんですか?」


「舞だよ。アイツ、ホテルに泊まってるだろ?これからメシ食うにしても、ほとんど店閉まってるだろ?だから、一杯やろうって連絡したんだよ」


水卜は函館在住で、武蔵野ボールパークとキングダムの本拠地東京ボールパーク、マーリンズの本拠地マーリンズフィールドの時だけチームに帯同する。


コーチの傍ら、主婦業を疎かに出来ないとの事で、コーチ業はあくまでもパートとして行う。


「大変ですよね、舞さんも。わざわざ函館から出て来て、コーチ業をやるというのも」


「コッチが無理言って頼んだからな。
本来なら家の事で手一杯なんだが、イヤな顔せずにコーチを引き受けてくれるし、有り難いよ」


「そうですよね…舞さんがブルペンで様子を見ているから、交代のタイミングも良いし」


水卜はブルペンで肩を作っているリリーフ陣の様子を見て、どのピッチャーを出せばいいか判断する事に長けている。


リリーフ陣の救援失敗が少ないのは水卜のお陰と言ってもいい。




二人は吉祥寺の繁華街にある、行きつけの個室居酒屋へ入った。


「いらっしゃいませ。お連れ様は既に到着しております」


店員の案内で、高級感溢れる個室へ通された。


襖を開けると、水卜が座敷に座って二人を待っていた。


「あ、お疲れ様!悪いけど、先に一杯やってまーす」


ジョッキを手にする。


「おぉ、お疲れ!悪いな、呼び出してしまって」


「お疲れ様です、舞さん」


「ヒロトくんもお疲れ様。二人ともビールでいい?」


「ヒロト、ビールでいいか?」


「えぇ、お願いします」


「あ、すいません!生二つ追加で」


案内をした店員に注文する。


「はい、畏まりました」



「それにしても、今日は疲れたな」

座るや否や、ポケットからタバコを取り出し火をつけた。


「チョット、榊さん!ここは禁煙席よ!」


よく見ると、テーブルには灰皿が無い。


「ウソっ、何で禁煙席にしたんだよ!」


「当然でしょ?榊さん以外は誰も吸ってないし、これを機に禁煙したらどう?」


「そうですよ。ウチでタバコ吸ってるの、榊さんと中田さんだけですよ」


一軍、二軍監督のみ喫煙者で、選手はおろか、コーチも吸わない。


そもそも、武蔵野ボールパークは完全禁煙なのに、監督室で堂々と吸っている。


このご時世、喫煙者には肩身が狭い。


「マジかよ…オレに禁煙しろってか」


「そう、榊さんは吸いすぎよ!監督なんだし、もう少し健康に気を使わなきゃ」


「そうですね、舞さんの言う通りだと思います」


「分かったよ!じゃあ、この一本だけ吸わせてくれ」


「ダメっ!」

水卜が素早くタバコを取り上げた。


「あぁ、何すんだよ!」


「ダメだって言ってるでしょ!あ、すいませーん!ゴメンなさい、この人禁煙席だと知らずにタバコに火をつけたんだけど、消すので灰皿もらえます?」


申し訳なさそうに灰皿を頼んだ。


「あ、はい…今お持ちします」


店員は隣の喫煙席から灰皿を持ってきた。


「あぁ、ゴメンなさいね!」


手に持ったタバコをもみ消して、灰皿を返した。


「あぁ…酒飲みながらタバコ吸うのがいいのに」



持ってたタバコを取り上げられ、悲しげな表情をしている。
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