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優勝争い
波紋
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鈴木監督はひたすらノーコメントを貫いた。
何故ノーコメントなのか。
それは天海という実力がありながら、傍若無人に振る舞う孤独なエースを更生させようという考えがあるからだ。
野球は個人競技ではない。
しかし、天海のプレーにはチームワークという肝心の部分が欠けている。
個人成績だけを追い求め過ぎた結果、周りとの軋轢が生じた。
個人成績はプロとしてとても大事な評価でもあり、成績が悪いと戦力外通告を受ける。
だがそれ以上に大切なのは、チームの勝利だ。
いくら個人成績が良いと言っても、チームが勝たなきゃ意味が無い。
自分さえ良ければそれでいい、そんな考えを持つ天海に、鈴木監督は敢えてあの様な采配を行った。
今年は優勝しなくてもいい、優勝するのはチームワークが出来た状態だと。
天海がそれに気づくまでは、優勝なんかしなくてもいい、という考えだ。
こればかりは他人が口酸っぱくアドバイスしても、余計反発するだけで、本人がチームワークを理解した時、チームは一丸となって優勝へ向かうだろう。
とは言え、あの天海が鈴木監督の意図を理解するとは思えない。
これはある意味賭けでもある。
マスコミは挙って、鈴木監督と天海の対立を書いて煽った。
そのマーリンズは、スカイウォーカーズとの三連戦を終え、北陸へ移動してレッズとの連戦をスタートさせる。
鈴木監督はここでも天海の件でコメントを求められたが、相変わらずノーコメントを通す。
その天海はチームに帯同しておらず、自宅近くのジムでコンディションを整えていた。
その帰りに再度マスコミに囲まれ、インタビューに応じた。
「鈴木監督はノーコメントを繰り返すばかりですが、天海さんとしては何であの時、交代したのか?という理由を聞きたいワケですよね?」
「当たり前や!理由も言わずノーコメントとは、どこまでおちょくるんや、あのボケは」
ジャージ姿で駐車場に停めてあった車に乗り込む際、ドアの手前でコメントをした。
「しかし、これ以上鈴木監督を批判すると、罰金が課せられるのでは?」
「罰金?何で払わにゃならんのや?」
「今の発言は監督批判という事になる可能性が高いので」
「批判?批判やない、オレの思ってる事をぶちまけただけや!」
吐き捨てる様にして車に乗り、去っていった。
この発言が監督批判となるだろうとマスコミは大々的に報じた。
だが、鈴木監督は天海の発言に対してはノーコメントを貫いた。
一方、2位マーリンズとのゲーム差を2.5と広げたスカイウォーカーズは、本拠地に戻りキングダムとの連戦を迎える。
キングダムはエース翔田が離脱してから失速し、現在3位。
首位スカイウォーカーズとは4.5ゲーム差まで広がった。
そのキングダムだが、ケガで戦線を離れている翔田がデッドボールの件について親しい記者に打ち明けた。
「ケガの具合は?」
「えぇ、まだ痛みはありますけど利き腕じゃないので、不自由はしてないです」
「完治した頃にはペナントが終わってしまう可能性もあるが」
「こんなの大した事無いですよ。完治まで待ってられません。ある程度動かせるようになったら、復帰しますよ」
「そのケガの件では、天海は手が滑ったと言っているが」
「…そうですか。手が滑ったと言ってるんですね?」
「腑に落ちない点でもあるのか?」
「…これは…あまり言いたくないんですが、打席に立った時、天海さんの目がいつもと違ってたんです」
「いつもと違うと言うのは?」
「なんて言うか…いつもは目が血走って何がなんでも抑えてやるっていう感じですが、あの時の天海さんは凄い冷ややかな眼差しでボクを見たんです」
「と言う事は、あれは故意だったという訳か?」
「そうは言ってません。ただ…様子がいつもと違った。すいません、自分が言えるのはこれぐらいですかね」
その翌日、ジャパンスポーツ紙は翔田の記事を一面に載せた。
【翔田激白!あの時天海さんの様子がおかしかった】
球界の至宝とも言える翔田の激白で、天海の立場が危うくなった。
事を重大に捉えたコミッショナーは、翔田 天海の2人を呼び、聴取した。
翔田は
「故意だったとは言わないし、言えない。ただ、あの時天海さんの様子がいつもと違っていた。
投げた本人がワザとでは無いと言うのなら
、手が滑ったのかもしれない。
その点は本人じゃなきゃ分からないので」
と答えた。
対する天海は
「様子がおかしい?いつもと一緒じゃ!
翔田はワザとや言っとるんか?
ハッキリしてへんのやろ?
オレはウソは言わん!
あれは手が滑った、それだけや」
あくまでもアクシデントだと主張。
シロクロハッキリさせたいコミッショナーとしては、この発言では判断出来ない。
結局天海が主張する、手が滑ったという事で終結した。
その天海は、愛媛ブラックスとの初戦で先発を任された。
ブラックスの本拠地、グランドアベニューフィールドは時の人となった天海が先発するとあって、超満員に膨れ上がった。
だが、マーリンズベンチでは異変が起こっていた。
「監督、天海がいません!」
「えっ、いないってどういう事だ!」
「まさか…アイツ、バックれたのか?」
「いや、いくら何でもそんな事は無いだろ」
「そのうち来るんじゃないのか」
コーチや選手は天海を捜した。
だが、天海の姿は無い。
「監督!もうすぐ試合が始まりますよ!」
「来ないか…仕方ない」
鈴木監督は急遽、先発を変更した。
中継ぎの島谷をメンバー表に書き換えて球審に渡した。
しかし、これではファンが納得しない。
スターティングメンバー発表のアナウンスで天海の名が無い為、ファンからブーイングが起こった。
中には金返せ!と騒ぎ立てる者も大勢いた。
怒号とブーイングが飛び交い、グラウンドには物が投げつけられた。
怒りの収まらないファンは、フェンスをよじ登ってグラウンドに入ろうとする。
それを球団スタッフや場内整理のアルバイト達が必死で止めるが、多勢に無勢で雪崩込む。
グラウンドに降り立ったファンは、マーリンズベンチに入って暴れる。
最終的には機動隊が出動し、グラウンドに入った者達は強制連行され、騒ぎは鎮圧した。
試合は予定時刻より大幅に遅れてスタートしたが、マーリンズが5-2で敗れた。
何故ノーコメントなのか。
それは天海という実力がありながら、傍若無人に振る舞う孤独なエースを更生させようという考えがあるからだ。
野球は個人競技ではない。
しかし、天海のプレーにはチームワークという肝心の部分が欠けている。
個人成績だけを追い求め過ぎた結果、周りとの軋轢が生じた。
個人成績はプロとしてとても大事な評価でもあり、成績が悪いと戦力外通告を受ける。
だがそれ以上に大切なのは、チームの勝利だ。
いくら個人成績が良いと言っても、チームが勝たなきゃ意味が無い。
自分さえ良ければそれでいい、そんな考えを持つ天海に、鈴木監督は敢えてあの様な采配を行った。
今年は優勝しなくてもいい、優勝するのはチームワークが出来た状態だと。
天海がそれに気づくまでは、優勝なんかしなくてもいい、という考えだ。
こればかりは他人が口酸っぱくアドバイスしても、余計反発するだけで、本人がチームワークを理解した時、チームは一丸となって優勝へ向かうだろう。
とは言え、あの天海が鈴木監督の意図を理解するとは思えない。
これはある意味賭けでもある。
マスコミは挙って、鈴木監督と天海の対立を書いて煽った。
そのマーリンズは、スカイウォーカーズとの三連戦を終え、北陸へ移動してレッズとの連戦をスタートさせる。
鈴木監督はここでも天海の件でコメントを求められたが、相変わらずノーコメントを通す。
その天海はチームに帯同しておらず、自宅近くのジムでコンディションを整えていた。
その帰りに再度マスコミに囲まれ、インタビューに応じた。
「鈴木監督はノーコメントを繰り返すばかりですが、天海さんとしては何であの時、交代したのか?という理由を聞きたいワケですよね?」
「当たり前や!理由も言わずノーコメントとは、どこまでおちょくるんや、あのボケは」
ジャージ姿で駐車場に停めてあった車に乗り込む際、ドアの手前でコメントをした。
「しかし、これ以上鈴木監督を批判すると、罰金が課せられるのでは?」
「罰金?何で払わにゃならんのや?」
「今の発言は監督批判という事になる可能性が高いので」
「批判?批判やない、オレの思ってる事をぶちまけただけや!」
吐き捨てる様にして車に乗り、去っていった。
この発言が監督批判となるだろうとマスコミは大々的に報じた。
だが、鈴木監督は天海の発言に対してはノーコメントを貫いた。
一方、2位マーリンズとのゲーム差を2.5と広げたスカイウォーカーズは、本拠地に戻りキングダムとの連戦を迎える。
キングダムはエース翔田が離脱してから失速し、現在3位。
首位スカイウォーカーズとは4.5ゲーム差まで広がった。
そのキングダムだが、ケガで戦線を離れている翔田がデッドボールの件について親しい記者に打ち明けた。
「ケガの具合は?」
「えぇ、まだ痛みはありますけど利き腕じゃないので、不自由はしてないです」
「完治した頃にはペナントが終わってしまう可能性もあるが」
「こんなの大した事無いですよ。完治まで待ってられません。ある程度動かせるようになったら、復帰しますよ」
「そのケガの件では、天海は手が滑ったと言っているが」
「…そうですか。手が滑ったと言ってるんですね?」
「腑に落ちない点でもあるのか?」
「…これは…あまり言いたくないんですが、打席に立った時、天海さんの目がいつもと違ってたんです」
「いつもと違うと言うのは?」
「なんて言うか…いつもは目が血走って何がなんでも抑えてやるっていう感じですが、あの時の天海さんは凄い冷ややかな眼差しでボクを見たんです」
「と言う事は、あれは故意だったという訳か?」
「そうは言ってません。ただ…様子がいつもと違った。すいません、自分が言えるのはこれぐらいですかね」
その翌日、ジャパンスポーツ紙は翔田の記事を一面に載せた。
【翔田激白!あの時天海さんの様子がおかしかった】
球界の至宝とも言える翔田の激白で、天海の立場が危うくなった。
事を重大に捉えたコミッショナーは、翔田 天海の2人を呼び、聴取した。
翔田は
「故意だったとは言わないし、言えない。ただ、あの時天海さんの様子がいつもと違っていた。
投げた本人がワザとでは無いと言うのなら
、手が滑ったのかもしれない。
その点は本人じゃなきゃ分からないので」
と答えた。
対する天海は
「様子がおかしい?いつもと一緒じゃ!
翔田はワザとや言っとるんか?
ハッキリしてへんのやろ?
オレはウソは言わん!
あれは手が滑った、それだけや」
あくまでもアクシデントだと主張。
シロクロハッキリさせたいコミッショナーとしては、この発言では判断出来ない。
結局天海が主張する、手が滑ったという事で終結した。
その天海は、愛媛ブラックスとの初戦で先発を任された。
ブラックスの本拠地、グランドアベニューフィールドは時の人となった天海が先発するとあって、超満員に膨れ上がった。
だが、マーリンズベンチでは異変が起こっていた。
「監督、天海がいません!」
「えっ、いないってどういう事だ!」
「まさか…アイツ、バックれたのか?」
「いや、いくら何でもそんな事は無いだろ」
「そのうち来るんじゃないのか」
コーチや選手は天海を捜した。
だが、天海の姿は無い。
「監督!もうすぐ試合が始まりますよ!」
「来ないか…仕方ない」
鈴木監督は急遽、先発を変更した。
中継ぎの島谷をメンバー表に書き換えて球審に渡した。
しかし、これではファンが納得しない。
スターティングメンバー発表のアナウンスで天海の名が無い為、ファンからブーイングが起こった。
中には金返せ!と騒ぎ立てる者も大勢いた。
怒号とブーイングが飛び交い、グラウンドには物が投げつけられた。
怒りの収まらないファンは、フェンスをよじ登ってグラウンドに入ろうとする。
それを球団スタッフや場内整理のアルバイト達が必死で止めるが、多勢に無勢で雪崩込む。
グラウンドに降り立ったファンは、マーリンズベンチに入って暴れる。
最終的には機動隊が出動し、グラウンドに入った者達は強制連行され、騒ぎは鎮圧した。
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