Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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後半戦

一軍昇格

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時を同じくして、ここ地方球場では二軍の試合が行われていた。


イーストリーグでの札幌ウォーリアーズ対東北マーリンズの試合。


背番号99を付けたマーリンズの先発は序盤から160km越えのストレートを連発。

ウォーリアーズ打線を力でねじ伏せた。

奪った三振は18 打たれたヒットは僅か1本で無四球の完封勝利。


「いつになったら、上に上げてくれんねん!」

二軍で無双を続ける天海昴。


マーリンズ入団会見で鈴木監督の鉄拳を食らい二軍スタートという、屈辱を味わう。


これで二軍での登板は4試合。


全て無得点に抑え、二軍での記録を更新する。


「天海、監督が呼んでるぞ」


小池二軍投手コーチに言われ、監督室に入る。


コンコン


「入れ」


ガチャっとドアを開けた。


目の前には二軍監督の田中が椅子に座り、コーヒーを飲んでいた。


「何か用でっか?」


「まぁ、そこへ座れ」


監督に促され椅子に座る。


「どうだ、お前も飲むか?」


「あぁ、アカン。カフェインはなるべく摂らないようにしてんねん」


体調管理の為、食生活にはかなり気を使っている。

彼は酒やタバコもやらない。


口にするのはオーガニック食品が主で肉よりも野菜や魚を中心に食べる。


数種類のプロテインやサプリメントを常に携帯しており、食事の合間に飲む。


徹底した自己管理で身体をケアする。


「そうか、コーヒーは飲まないのか」


「多少なら飲むけど、オレが飲むやつはオーガニックだけと決めてんねん」


テーブルを挟んで向かい合う。

「食生活にはかなり気を使っているらしいが、たまにはこういう物でも嗜んでみたらどうだ?」


「んなもん、必要無いわ。身体に悪い事はしたないねん」


監督は帽子を取ると、白髪の頭に手を当てた。

「まだ、ハゲにはなってないな…うん」


どうやら髪が気になるらしい。


「ハゲとってもええやん!どうせ、その年で女にうつつ抜かしてるワケでもないし」

相変わらずズバズバとハッキリ言う性格は治ってない。

そう簡単に変わらないのだが、このスタイルを貫き通すつもりなのか。


「確かに…今年でもう67才になるし、今更女にモテようだなんて事は思わないしな」


監督は穏やかな口調で答える。


「んで、話って何でっか?」

二軍の試合はデーゲームが多い。

いつの間にか腕や顔はいい具合に日焼けしている。

「後半戦から上に行け」


「上?ようやく出番がきたか!」


シャープな輪郭が綻ぶ。


「下で投げても意味無いだろ」


「あったりまえやないか!こんな掃き溜めみたいなところ、二度と来るか」


すると監督はホッホッホッホと笑った。


「何がおかしいねん?」

切れ長の一重まぶたが釣り上がる。


「当たり前だ、いつまでも下なんかにいたら天下は獲れない。上で天下獲ってこい」


「アンタ…今まで会うた監督の中でいっちゃんマシやったな」

ニヤッと笑みを浮かべた。


「それに引き替え、お前は下でもろくでもないヤツだったな。お前の様な血の気が多いヤツは、さっさと上に行け」


監督もニヤッと笑みを浮かべた。


「ハハハ、こらオモロい!アンタ、二軍なんかで監督やってないで、上で監督した方がええんとちゃうか?」


「ここでいいんだよ。そうだな…せいぜいやって、後2年か3年。その後は隠居生活でも送ろうかな」


「ほな、その間にオレが優勝させたるわ!ええか、監督!隠居前に必ず優勝させたるさかい、身体に気ぃつけぇや!」


スっと席を立った。


均整のとれた体型でいかにもアスリートらしい身体付きをしている。

186cm78kgと線は細いが、バキバキの筋肉に覆われている。


プロに入ってからはあまりハードな練習をしなかったが、二軍にいる期間特にやる事も無く暇な時間を過ごしていたが、退屈しのぎにトレーニングをしていたら体脂肪率が13%とムダの無い筋肉に仕上がった。


「大ボラ吹きも、ここまでくればかえって清々しいもんだ」


「ほな、失礼しました」


敬礼をして部屋を出た。


「今度こそ、上手くやれよ…お前は才能だけなら翔田よりも上なんだ」


残りのコーヒーを口にした。


その後、球団から天海の一軍昇格が発表された。

マーリンズは後半戦、キングダムとの三連戦からスタートする。


翔田が先発する日に天海をぶつけてくる可能性は高い。


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