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オールスターゲーム
二人のルーキー
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その夜、宿舎のホテルの一室で榊は電話をしていた。
相手は二軍監督の中田だ。
【おい、どうすんだよアイツ?】
「アイツ?」
【アイツだよ、ウチのドラ1ルーキーだよ】
昨年の秋、ドラフト一位で指名した東山大輔の事だ。
「あー、アイツか!」
【お前の言う通り、投球練習はさせないで野手と同じメニューの練習してるけど、いつまでやらせときゃいいんだ?】
ドラ1の東山は深刻なイップスに悩まされ、まともにボールすら投げられない程だ。
榊は東山に投球練習させないよう、中田に進言した。
中田は二軍で東山を野手と同じメニューの練習を課してる。
【気分転換だって言うからバット持たせて野手と同じ事やらせてるけどさぁ、もうそろそろ投球練習させてもいいんじゃねぇのか?】
「本人は今どうしてんの?」
【あぁ、とりあえず言われた練習をこなしているけど、投げたいんじゃないのかなぁ】
こんなもんでイップスが治るというのだろうか。
「んじゃさぁ、やるならキャッチボールからスタートさせようか?」
【キャッチボール?】
「おぅ、キャッチボールを疎かにするヤツはピッチングだって満足に出来ねえもんよ」
確かにキャッチボールは基礎中の基礎だが。
【そんなもんで多少は良くなるもんなのかなぁ】
「キャッチボールってのは、相手の目を見てちゃんと捕りやすいよう、胸元目掛けて投げるだろ?要は基本から忠実になれば100パーとは言わないけど、少なくとも今よりは良くなるんじゃないかと思うんだ」
【はぁ…なるほど、一から御復習い(おさらい)をすると言うワケか】
「何事も基本に忠実にだぜ、中ちゃん」
たまにはいい事を言う。
【まぁ、今年は一軍に上がるのはムリだとしても、今のうちに欠点を治しておけば将来的にもアイツの為になるからな】
「少なくとも、二年…三年ぐらい掛かるんじゃないかな、モノになるには」
ジックリと育てる方針みたいだ。
【まぁ、そうなるだろうな。ところで、今日勝ったんだろ?】
「ん?あぁ、勝ったよ。4対1で」
初回に唐澤のタイムリー、4回には毒島の23号ツーランが飛び出し、8回には筧のセンター前タイムリーで4点を挙げ勝利。
先発北乃は8回を投げて3安打1失点。
最終回は抑えのジェイクが三者凡退。
ペナント再開の初戦を白星で飾った。
「あぁ、そうだ!アイツどうしてる?ほら、左のアンダースローの…何だっけ名前…」
【あぁ、寶井か?】
「そうそう、そのタカライ!」
ドラフト六位で寶井秀人(たからいひでと)という、左のアンダースローを獲得した。
【どうって…アイツ使えるのかよ?二軍じゃ、どの場面に使えばいいのか、起用法に困るんだよああいうタイプは】
「えっ、じゃあまだ二軍でも投げてないのかよ?」
【うーん…コーチがな、あんな投げ方止めて矯正しようとしてるところなんだよ】
「何やってんだよ!ダメだって、フォームを変えちゃ!」
それでは獲った意味が無い。
【お前さぁ、何の気まぐれか知らんけど、あんなのがプロで通用すると思ってるのかよ?】
過去に左のアンダースローは一人だけいた。
1リーグ制の時代に北九州ドジャースのエースで真中俊(まなかしゅん)が左のアンダースローとして唯一活躍した。
それから左のアンダースローという選手は存在しない。
そもそも、アンダースロー自体が希少な存在になってきている。
「あるからドラフトで獲ったんだよ!アイツ、今どんな球投げるんだ?」
【どんな球って…ストレートにスライダー、シンカー…あぁ、そうだ…確か今シュートをマスターしようとしてるな】
「ほー、シュートね。ツーシームじゃなく、シュートをマスターしようとしてるのか、こりゃいい事聞いた」
シュートもツーシームもそれ程変わらないのだが、投げた本人がシュートと言えばシュート、ツーシームと言えばツーシームになる。
ホントに変化球の線引きとは曖昧だ。
【左バッターには有効的だろうけどな】
「じゃあ中ちゃん、アイツがシュート覚えるようになったらまた教えてくれよ」
【シュート覚えたからって、一軍じゃ通用しないだろうに】
「いいから、いいから!で、ストレートの質はどうなんだ?」
【135kmぐらいしか出ないぞ、スピードは。ストレートの回転数は平均じゃないかな】
「その速さで十分!じゃあ、悪いけどアイツを試合で使ってみてよ。左のワンポイントとして」
【左殺しにさせるつもりか?】
「面白そうじゃん?左のアンダースローでワンポイントリリーフってのは」
榊は寶井を左のワンポイントとして育てるつもりだ。
【分かったよ。その代わり、結果が良くなきゃフォーム改造するぞ】
「大丈夫だっつーの!アイツは左殺しになれる」
【んじゃ、東山にはキャッチボールをやらせて寶井はシュートをマスターするという感じでいいのかな?】
「そうだな、それで試してみてくんない?」
【あいよ、分かった】
ルーキー二人は榊の思うように成長するのだろうか。
相手は二軍監督の中田だ。
【おい、どうすんだよアイツ?】
「アイツ?」
【アイツだよ、ウチのドラ1ルーキーだよ】
昨年の秋、ドラフト一位で指名した東山大輔の事だ。
「あー、アイツか!」
【お前の言う通り、投球練習はさせないで野手と同じメニューの練習してるけど、いつまでやらせときゃいいんだ?】
ドラ1の東山は深刻なイップスに悩まされ、まともにボールすら投げられない程だ。
榊は東山に投球練習させないよう、中田に進言した。
中田は二軍で東山を野手と同じメニューの練習を課してる。
【気分転換だって言うからバット持たせて野手と同じ事やらせてるけどさぁ、もうそろそろ投球練習させてもいいんじゃねぇのか?】
「本人は今どうしてんの?」
【あぁ、とりあえず言われた練習をこなしているけど、投げたいんじゃないのかなぁ】
こんなもんでイップスが治るというのだろうか。
「んじゃさぁ、やるならキャッチボールからスタートさせようか?」
【キャッチボール?】
「おぅ、キャッチボールを疎かにするヤツはピッチングだって満足に出来ねえもんよ」
確かにキャッチボールは基礎中の基礎だが。
【そんなもんで多少は良くなるもんなのかなぁ】
「キャッチボールってのは、相手の目を見てちゃんと捕りやすいよう、胸元目掛けて投げるだろ?要は基本から忠実になれば100パーとは言わないけど、少なくとも今よりは良くなるんじゃないかと思うんだ」
【はぁ…なるほど、一から御復習い(おさらい)をすると言うワケか】
「何事も基本に忠実にだぜ、中ちゃん」
たまにはいい事を言う。
【まぁ、今年は一軍に上がるのはムリだとしても、今のうちに欠点を治しておけば将来的にもアイツの為になるからな】
「少なくとも、二年…三年ぐらい掛かるんじゃないかな、モノになるには」
ジックリと育てる方針みたいだ。
【まぁ、そうなるだろうな。ところで、今日勝ったんだろ?】
「ん?あぁ、勝ったよ。4対1で」
初回に唐澤のタイムリー、4回には毒島の23号ツーランが飛び出し、8回には筧のセンター前タイムリーで4点を挙げ勝利。
先発北乃は8回を投げて3安打1失点。
最終回は抑えのジェイクが三者凡退。
ペナント再開の初戦を白星で飾った。
「あぁ、そうだ!アイツどうしてる?ほら、左のアンダースローの…何だっけ名前…」
【あぁ、寶井か?】
「そうそう、そのタカライ!」
ドラフト六位で寶井秀人(たからいひでと)という、左のアンダースローを獲得した。
【どうって…アイツ使えるのかよ?二軍じゃ、どの場面に使えばいいのか、起用法に困るんだよああいうタイプは】
「えっ、じゃあまだ二軍でも投げてないのかよ?」
【うーん…コーチがな、あんな投げ方止めて矯正しようとしてるところなんだよ】
「何やってんだよ!ダメだって、フォームを変えちゃ!」
それでは獲った意味が無い。
【お前さぁ、何の気まぐれか知らんけど、あんなのがプロで通用すると思ってるのかよ?】
過去に左のアンダースローは一人だけいた。
1リーグ制の時代に北九州ドジャースのエースで真中俊(まなかしゅん)が左のアンダースローとして唯一活躍した。
それから左のアンダースローという選手は存在しない。
そもそも、アンダースロー自体が希少な存在になってきている。
「あるからドラフトで獲ったんだよ!アイツ、今どんな球投げるんだ?」
【どんな球って…ストレートにスライダー、シンカー…あぁ、そうだ…確か今シュートをマスターしようとしてるな】
「ほー、シュートね。ツーシームじゃなく、シュートをマスターしようとしてるのか、こりゃいい事聞いた」
シュートもツーシームもそれ程変わらないのだが、投げた本人がシュートと言えばシュート、ツーシームと言えばツーシームになる。
ホントに変化球の線引きとは曖昧だ。
【左バッターには有効的だろうけどな】
「じゃあ中ちゃん、アイツがシュート覚えるようになったらまた教えてくれよ」
【シュート覚えたからって、一軍じゃ通用しないだろうに】
「いいから、いいから!で、ストレートの質はどうなんだ?」
【135kmぐらいしか出ないぞ、スピードは。ストレートの回転数は平均じゃないかな】
「その速さで十分!じゃあ、悪いけどアイツを試合で使ってみてよ。左のワンポイントとして」
【左殺しにさせるつもりか?】
「面白そうじゃん?左のアンダースローでワンポイントリリーフってのは」
榊は寶井を左のワンポイントとして育てるつもりだ。
【分かったよ。その代わり、結果が良くなきゃフォーム改造するぞ】
「大丈夫だっつーの!アイツは左殺しになれる」
【んじゃ、東山にはキャッチボールをやらせて寶井はシュートをマスターするという感じでいいのかな?】
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【あいよ、分かった】
ルーキー二人は榊の思うように成長するのだろうか。
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